『東京BABYLON』はなぜ伝説的な作品となった? “厨二心”をくすぐる作品世界の魅力

 『東京BABYLON』の幕開けを飾る「T・Y・O」を今読むと、現代の価値観では問題含みな発言や、バブル期特有の浮足立った空気感に、時の流れを突きつけられるだろう。だが不夜城都市・東京にきらめく東京タワーの姿と、「この地球でたったひとつ 滅びへの道を『楽しんで』歩んでいる都市だからですよ」という印象的な星史郎の台詞が呼び起こす高揚感は、今もなお鮮やかだ。

 コメディタッチの第1話を経て、第2話から物語は重いテーマを打ち出した除霊ものに突入する。『東京BABYLON』は社会派作品として知られ、作中で自殺やレイプ、ダイヤルQ2、いじめや新興宗教、老人の介護問題や臓器移植、幼児虐待など、シリアスかつ多岐にわたる問題が取り上げられていった。世相を反映した事件の数々は、東京に生きる人々の孤独や悲しみを浮かびあがらせ、この世に想いを残した霊が怪奇現象を巻き起こす。昴流はそんな彼らの心を救おうと、自らも傷つき葛藤しながら、大都会の闇に立ち向かっていくのだ。

 昴流が解決する霊的事件の顛末は、残酷な現実を突きつけ、決して後味のよいものばかりではない。バナナのエピソードとして有名な「OLD」は、悲劇でありながらもわずかな希望が残る展開が、涙を誘わずにはいられない。また夢破れた少女を描く「BABEL」は、東京タワーというモチーフを巧みに活用した、『東京BABYLON』らしさに溢れたエピソードだ。きれいで華やかで汚い大都会の姿と、人間の夢と孤独に迫ったストーリーは、切ないカタルシスをもたらす。

 そして『東京BABYLON』といえば、あまりにも有名な結末にも触れずにはいられない。計算尽くされた構成のなかでも、とりわけ衝撃的なクライマックスの「END」と、追い打ちをかける最終話「START」の流れは、読者をどん底へ叩き落す。本作を未読の読者は、ぜひコミックスでこの絶望感を味わってほしい。

 『東京BABYLON』を手に取ると、過ぎ去った時代への郷愁が沸きあがり、オタク心を刺激する懐かしのディテールは今もなお心をざわめかせる。細部を令和にチューニングし直しても、作中に漂う世紀末の気配や、“厨二心”をくすぐる設定が引き継がれることを願いつつ、本作に人生を狂わされた一読者としてアニメ化に期待を寄せたい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。Twitter:@k_saga

■書籍情報
『東京BABYLON』
著者:CLAMP
出版社:KADOKAWA
アニメ公式サイト

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