『ジョジョリオン』ラスボス・明負悟の不気味さーー第4部・吉良吉影との違いとは?

23巻の表紙にも「顔の見えない老紳士」が……

 『ジョジョ』のラスボスは毎回魅力的で、圧倒的なスタンド能力でジョジョを苦しめると同時に悪役ならではの独自の哲学を披露するのだが、『ジョジョリオン』の明負は、杖を持った老紳士という地味な風貌で、背中越しのカットばかりで、顔が見えない。「追跡」の意思を示すと「災厄」が「激突」するというスタンドも、今までラスボスのスタンドにくらべると地味で、どうにも掴みどころがないのだが、だからこそ薄気味悪い。

 「正体不明の敵」という意味では、第4部のラスボスだった杜王町に潜み猟奇殺人を繰り返す吉良吉影と近い存在だが、平和な日常の中に潜む殺人鬼という異形の存在だった吉良に対し、明負は病院の院長という社会的立場もあってか、震災によって異界化した杜王町を具現化したような存在だ。同時に「顔の見えない老紳士」というビジュアルであらゆる場所に現れる明負の姿は、本作の重要なモチーフである「呪い」そのものだと言える。つまり明負は『ジョジョリオン』という作品をもっとも象徴する存在なのだ。

 やがて定助は、実は明負院長と思われる老人の正体はスタンドで、つきまってきたスタンドと同体の自動追尾型だと気づく。そして、病院で命を助けてくれた吉良・ホリー・ジョースターから「絶対に追いかけるのは駄目よ」「追いかけさせるのは良い」と言われ、ロカカカの実が置かれている病院の実験室で明負を迎え撃つ。

 スタンドで罠を張り、椅子に座って待ち受ける定助と豆銃の元に、壁をすり抜けて現れる明負悟(の姿を模したスタンド)。実験室の床に足を踏み入れば、定助のスタンドが何かを仕掛けてくると察した明負は、床に同化できる“岩昆虫”を放つ。岩昆虫の攻撃を定助が打ち返すと「追撃」とみなされ、明負の「厄災」が発動するという一進一退の攻防が続く中、物語は次巻へと続く。

 定助が座っているためか、ラスボス戦とは思えない地味なやりとりの応酬なのだが、そのことによって静かな緊張感が戦いの中に生まれている。このじわじわと不気味なものが迫ってくる嫌な手触りこそ『ジョジョリオン』の真骨頂である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『ジョジョリオン』既刊24巻(ジャンプコミックス)
著者:荒木飛呂彦
出版社:集英社
<発売中>
ジョジョリオン公式サイト(ウルトラジャンプ サイト内)

関連記事