大切な人の死ーー喪失の先にあるものは? 鳥飼茜『サターンリターン』が突きつける感情

 鳥飼の描く人物は、みな表情豊かだ。大きなコマに表情がしっかりと映し出されているので、ついつい読み手の感情の波も激しくなってしまう。「結婚しておけば大丈夫」「安定した生活が一番」……。感情の波に揺れながら、そんな、どこかで抱いていた、だけれど無視していた“違和感”がむきだしになる。ちいさな違和感もなかったことにできる鎧を身に纏い、強くあれたら生きやすいのだろうけれど、この作品を手にとって、気づいてしまった。隠していた感情に、無視していた事実に。

 作品を読み終えて、ふと、いつも目の前にいてくれる人のことを想う(それは“恋人”かもしれないし、“家族”かもしれない)。私は彼の、彼女の、何をみて、どう受け取っているのだろうか? そう考えてしまうほど、理津子らは互いに向ける視線がまっすぐなのだ。嘘をつかない、本音を見破る。そんな鋭さを持っている。その姿はまぶしく、痛いくらいに突き刺さる。

 きっと、理津子が追っているのは、中島でも、小説のネタでもなく、自分自身なのだと感じる。中島という存在を喪失した理津子は、自身をも喪失しているのかもしれない。この喪失の先で、彼女が見せてくれる表情はどのようなものになるのだろう。願わくば、清々しいものであってほしい。

■高城つかさ
1998年、神奈川県出身。【言葉と人生】をキーワードに主にエンタメ、暮らしを切り口に人生について考えている。好きな場所は劇場と本屋。
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■書籍情報
『サターンリターン』既刊4巻(ビッグコミックス)
著者:鳥飼茜
出版社:小学館
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