浅野いにお『ソラニン』が活写した、00年代の風景ーー種田と芽衣子はなぜ幸せになれなかったのか?

 『ソラニン』は2017年に新装版が発売され、後日談として37歳になった芽衣子たちの物語が掲載されている。種田の死から10年が経ち、それぞれの日常を生きる彼らの中に、種田の存在はもうずいぶんと小さくなっている。それはそれでとても清々しく、ある意味リアルだ。死を美化せず、淡々と過ぎていく毎日をこそ、浅野は描きたかったと言うが、後日談ではそれがいっそう顕著になった形だ。

 時とともにあらゆる事象は変化し、流転していく。浅野も『おやすみプンプン』『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』と、“時代”を描く作風はより精度を増し、熱狂的ファンを生み続けているが、おそらく今後『ソラニン』のような作品を手がけることはもうないし、おそらくできないだろうと思われる。それくらい本作には、あの時あの場所に確かにあった空気感がそのままパッケージされており、まるで郷愁のように読者の心に残り続けるのだ。

■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。

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