「アート」はビジネスパーソンに必要なのか? ビジネス書界の「アート思考」ブームを考える

 そう言われても、「アート思考」がビジネスや日常生活で役に立つのか分からないと言う人もいるだろう。しかし、近代における芸術界の一つの経験は、私たちにも大きな示唆となるはずだ。

 それはカメラの発明である。多文化との接触や、宗教との関係もあり、当時も価値観は単一では無かっただろう。しかし、西洋美術の圧倒的な写実性には、現代の私たちでも感動するものが多い。目に映る通りに描くことが、美術の目的であり、その存在意義だと信じていた人が初めてカメラと写真を知ったときの衝撃を想像して欲しい。

 いや、そんなことを言われずとも、現代で働く多くの人は同様のことを既に経験しているのだ。それはAIの実用化や、新型コロナウイルスの流行による生活と労働の変化だ。価値観が多様化していると言われ続け、技術革新や社会情勢の変化で、私たちの常識や権威はいかようにも変化する。もしそうだとしたら、「真・善・美」も、そこに優劣もなければ、相互に不可侵ではないのかもしれない。

 現代のビジネスパーソンはみな忙しい。問題解決のためのフレームワークや時短のためのスキルも身につけなければ、すぐにでも時代に取り残されてしまう。しかし、だからこそ人間疎外に陥らないよう、この1冊で「アート思考」を深めることは、時代の病の処方箋ともなるだろう。

■書籍情報
『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』
著者:末永幸歩
出版社:ダイヤモンド社
定価:本体1,800円+税
https://www.diamond.co.jp/book/9784478109182.html

(文=MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店・社会書担当 中田英志郎)

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