『チェンソーマン』クレイジーな新ヒーロー・デンジの魅力とは? 常識と道徳心の欠けた主人公の強み

 そんな、道徳心が欠けている上に下心満載で公安に入ってきたデンジを、教育係を任された先輩ハンター・早川アキは嫌悪する。

「軽い気持ちで仕事するヤツは死ぬぜ?」「お前以外全員本気なんだよ」

 家族を悪魔に殺され、その復讐のためにすべてを賭けて悪魔を狩るアキの目に、デンジの振る舞いはふざけているように映る。人間だけではない。「胸を揉みたい」を目的に戦うデンジを、悪魔でさえも「低俗な欲望」と見下す。周囲から馬鹿にされ続けたデンジはぷっつんとキレる。

「みんな偉い夢持ってていいなァ!! じゃあ夢バトルしようぜ夢バトル!! 俺がテメーをぶっ殺したらよお~……! テメエの夢ェ! 胸揉む事以下な~!?」

 デビルハンターの任務は命がけだ。強い悪魔を前に、信じられないほどあっけなく人が死んでいく。そういう場所にあって、胸を揉みたいとか衣食住が保証されるという理由で戦うデンジは、確かに「軽く」見えるかもしれない。けれど、それは本当に「軽い」のか。

 どん底からスタートしたデンジの人生。誰にも人間らしく扱ってもらえず、自分の体すらも簡単に切り売りされ、食パンにジャムを塗ることでさえ夢のまた夢。「軽い」というならば、デンジにとっては自分の命も人生も、最初から軽いのだ。そんなデンジらしい精神が、このセリフに現れている。

「俺は軽~い気持ちでデビルハンターなったけどよぉ、この生活続ける為だったら死んでもいいぜ」

 全てが軽い、デンジの人生。だからこそ、胸を揉みたいとか、マキマといい関係になりたいとか、パンに好きなだけジャムを塗りたいとか、はたから見れば「軽い」ことにも価値があって、そのためならいくらでも「軽い」命を張ることができる。

 常識と道徳心の欠けたクレイジーヒーロー。けれど、デンジには、ポチタがいなくなって悲しむ心も、マキマに恋する純情さもある。そして、ささやかな自分の夢のために、どこまでも突き進んでいく。その姿はあまりにも単純で、素直で、人間らしい。

 今後デンジの前に立ちはだかるのは、なぜかデンジの心臓を狙う悪魔たち。得体の知れない能力を持つ謎多きマキマ。そして最悪の敵「銃の悪魔」。深まっていくストーリーと数多くの試練を前に、デンジがその人間らしいクレイジーさをどのように発揮してくれるのか。続きがただただ待ち遠しい。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。
Twitter(@erio0129

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