『花と頬』『ギヴン』『not simple』……「文体」で心の機微を描く、文芸マンガの最前線

オノ・ナツメ『not simple』

 このようにして、現代の価値観やそこに生きる現代人の姿に寄り添うような文芸マンガが登場する中で、00年代半ばより文芸マンガとして評価されている作品がある。オノ・ナツメの描いた長編作品『not simple』などがそれに当たる。まるで映画のような物語の進み方、場面の見せ方、登場人物のセリフや出で立ちなど、オノ・ナツメの描くマンガは非常に洗練されており、かつ海外のペーパーバッグを読んでいるような文体を帯びている作品が多い。彼女の描くマンガが、後発の漫画家に影響を与えたことは想像に難くない。

 文芸マンガは、創作での表現方法、またそれを享受する現代人の感情と切っても離せぬ関係を結んでいる。今後、どういったジャンルで現代人の心の機微に語りかけるマンガが登場するのだろうか。

■安藤エヌ
日本大学芸術学部文芸学科卒。文芸、音楽、映画など幅広いジャンルで執筆するライター。WEB編集を経て、現在は音楽情報メディアrockin’onなどへの寄稿を行っている。ライターのかたわら、自身での小説創作も手掛ける。

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