マスク生産で注目、アイリスオーヤマはなぜ危機に強いのか? オイルショックで見出した経営哲学

2)急な変化に耐えられるしくみづくり、収益の複線化をする

 アイリスオーヤマでは毎年1000点の新商品を出し、売上高の5割強を発売3年以内の新商品が占める。ヒットが出るとすぐ他社に模倣されるが、原価割れの安売りビジネスはしない。成功ばかりではなく失敗した事業も無数にあるが、いずれにしても「儲からない商売からは撤退する」と決めている。

 また、どの工場も床面積にはゆとりをもたせ、普段から生産現場は変化に対応できるようにしている。ひとつのドメイン、ひとつの事業に集中していると、それがダメになったときのダメージが大きすぎる。だから収益を複線化してひとつがダメになってもほかで支えられるようにする。逆に、余裕も持っておかないと、何かが急激に伸びてきたとき対応しきれない。

 このことを個人にあてはめて考えるなら、コロナショック以前から副業・複業の推進が叫ばれていたが、今となってはますます稼ぐ方法をひとつのところに頼らず用意するのが重要だ、ということになる(もちろん、在宅でできることは限られるものの……)。

3)危機のときこそ助け合い

 アイリスオーヤマが阪神大震災、東日本大震災、コロナショックなど、被災者に対しては採算度外視で機を見るに敏な動きをするのは、これまたやはりおそらくオイルショックのとき、仲間だと思っていた問屋に手ひどい目に遭わされたという経験が大きいのだろう。

 メーカーから問屋業へは業界の慣習を破って進出して「メーカーベンダー」という業態を確立したものの、得意先と競合する小売店経営はやらないと決めてきたアイリスオーヤマが2008年、禁を破って宮城県を地盤とするホームセンター「ダイシン」を買収したのは、地域に根ざしていた店舗の経営難を救済するため――日々ダイシンを利用していた地元の人たちのためだった。

 東日本大震災の直後には不安を抱える従業員に対して朝礼で「私たちの商品を出荷することが東北の復興になる。皆は東北のためにここにとどまって仕事をしてほしい」と語りかけて復旧復興にすぐに動き、さらには新入社員採用も通常の新卒採用100人に加えて被災地枠を用意して30人の高校生を採用している。

 自らが危機に備える余裕を持っておくだけでなく、その余裕を活かして危機に瀕した人を助ける――これをしなかったら、何のための余裕なのかわからないと言ってもいい。

 人は、困っているときに助けてくれた人や企業への恩は忘れない。逆に裏切った人間、冷たい対応をした企業、失望させた政府のことも忘れることはない。危機のときには懐も気持ちも余裕がなくなりピリピリしてくるが、自分たちのできる範囲で助け合う精神は失いたくない。

 コロナショックの今――というより本当はこんなことが起こる前から

1)10年に一度やってくる大きな出来事に備える/そこから学ぶ
2)急な変化に耐えられるしくみづくり、収益の複線化をする
3)危機のときこそ助け合い

 これらを胸に刻んでおきたかったところだ。残念ながらこういう危機は今後もきっと訪れる。次に来るそのときのためにも、今、学んでおきたい。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

■書籍情報
『アイリスオーヤマの経営理念 大山健太郎 私の履歴書』
著者:大山健太郎
価格:1,870円(税込)
出版社:日本経済新聞出版社

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