まずは自分が「クズ」と認めるのが大事? カレー沢薫『クズより怖いものはない』には多様性社会へのヒントが詰まっている

 あなたは「クズですね」と言われたら、どんな反応をするだろうか。「何を言うんだ!」と怒り出すだろうか? それとも「お前のほうがクズだ!」と罵らずにはいられないだろうか。もしかしたら「クズ」と言われたときの感情の高まりは、そのままあなたの生きにくさに比例しているかもしれない。

 私たち人間は、もれなく「クズ」だ。「私は落ち度がまったくない人間だ」と主張する人はそれはそれでやばいし、「どうせクズですよ」とスネてしまう人もアレな感じだ。そう、その「クズ」の種類や程度が違うだけで、誰もが何かしらのタイプの「クズ」である。それをまず認めることで、世の中を歩く足が少しだけ軽くなるヒントを提示してくれるのが、カレー沢薫による『クズより怖いものはない』(大和書房)だ。

返事がいいクズ

 この本には、実にいろんな「クズ」が登場する。自分は真面目だと思っている人ほど無自覚な「真面目系クズ」もいれば、“良かれと思って“と親切心を見せれば「偽善型クズ」になりかねない。あるいは若ければ「若者型クズ」、年齢を重ねれば「昭和型クズ」と、どちらに転んでも「クズ」状態。謙虚にしても「エクスキューズ型クズ」に、主張をしても「正論型クズ」……もはや逃げ場のない「クズ」のオンパレードで、自分がいずれかの「クズ」に属していることを認めざるを得ない。

 そして、自分がどんな「クズ」であるかを知れば、日常で「クズ」に出会ったときにも、得体の知れないモンスターではなく、「なんだそのタイプのクズか」と冷静になれるのではないか。「アイツが、こんなクズだとは思わなかった!」と失望したり、怒り狂うこともなくなるのでは? というのだ。

 現代は、オンラインでいつでもどこでも誰かとつながることが可能になった。それはポジティブな側面も多いにあるが、世の中は常に表裏一体。オフラインでは絶対に近づかないであろう「クズ」とも、SNSで遭遇する確率がグッと上がってしまった。求めてもいないのに、アドバイスをしてくる人。「○○だなんて、✕✕なんですね」と自分の価値観を押し付けてくる人。最終的には「何それ、知らねー」と、とにかくなんでもいいからマウントを取ってくる人……。

 そんな不快な、俗に言う「クソリプ」や「アンチコメント」も、「クズ」観察にもってこいだ。「うわ、レアなクズ出た」と楽しめるようになったらこっちのものだが、それはかなりの上級者といえそうだ。そうした「クズ」と出会ってしまったら、早めにあきらめて、距離を取る。決してこちらの思うように相手をコントロールしたいなんて思ったり、ましてや「考えを直してあげよう」なんてことは考えないほうがいい。できるなら、そのまま距離を広げて、忘れてしまおうというのだ。

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