YouTuberとして成功するのはどんなタイプか? てんちむ『わたし息してる?』が示す、依存体質のセオリー

 てんちむの『私、息してる?』が発売3日で10万部突破と話題になっている。ここではてんちむ本を取り上げながら、昨今のYouTuber本の特徴についても書いてみたい。

てんちむ=橋本甜歌とは? 極端から極端に振れてきた人生

 橋本甜歌として『天才てれびくん』などに子役として出演し、『ピチレモン』の専属モデルも務めたが、しかし「まじめにしろ」と押さえつけられて育った反動でその後ギャルになり、うつ病になって自殺未遂。さらに恋愛依存から抜け出すためにゲーマーとなって世界ランカーとなり、2016年以降はチャンネル登録者数100万人を超えるYouTuberとして活躍するのがてんちむだ。

 ギャルブロガー時代に書いた日記を書籍化した『中学生失格』に次ぐ2作目の著作が本書『私、息してる?』である。人気テレビ番組『しくじり先生』への出演経験もあるのでご存じの方も多いかもしれない。

 YouTuberは経歴的にぴかぴかな人よりも紆余曲折を経てそこにたどり着いた人のほうが目立つ……というか『わたし息してる?』のような、ここ1〜2年でどっと増えた、半分自伝本のような「めちゃくちゃだった人生をふりかえりながら自分の考えを伝えていく」スタイルの本を書く人には特にこのタイプが目立つ。

『私、息してる?』の内容は?

 『私、息してる?』は冒頭と巻末はてんちむの写真を載せたフォトブック・スタイルブック的なパートと、ファンからの人生相談めいた質問に答えるQAコーナー、そしてそのアンサーの背景になっているてんちむの強烈な人生体験とそこから彼女が獲得した思考、それから彼女の友人、仕事関係者、セフレや元カレ、実弟、担当編集者がそれぞれのてんちむ観を書いたエッセイによって構成されている。

 本の冒頭から「自分の思考、行動すべてを否定されることが多い人生だった」と始まり、「夢や目標を持てる人は少ない」「生きてる意味は特になし。どう生きていくかを考えたほうがいい」とパンチラインの連続だ。

 とはいえ否定され、失敗し、叩かれたからと言って腐って生きてきた人間ではない。

 そこで終わるような人間はYouTuberとして本を出せるポジションには来ない。

「自己啓発」ではなく「成功本」

 『私、息してる?』は昨今のYouTuber本同様、人生経験を回顧しながら自身の価値観を語っていく。

 自己啓発本か? というと個人的には違うと思う。自己啓発の定義にもよるが、たとえば代表格と言っていい『七つの習慣』を例にあげると、読者がただ読むだけでなく、たくさんのワークをこなすことで自分の価値観に気づき、行動の指針や具体的かつ定量的な目標に落とし込むことまでを求めている。ああいうのが本来の自己啓発書であって、著者が一方的に自分の生き方、生き様を語っているだけでは読者が「自己」を照らす(啓発=enlightment)ことにはつながらない。

 じゃあ最近のYouTuber本の大半は何か? 一番近いのは矢沢永吉の『成りあがり』だと思う。「そこまで書いていいの?」という暴露や秘蔵エピソードありまくりの赤裸々な半生記を語りながら、ファンに自分の価値観を語る。別に「こうしろ」とは言わず、「自分はこうだ」と語るだけ。こういうのは自己啓発ではなくて「成功本」だ。

 ただ、ひとくちに「成功者」といっても、挑戦するジャンルによってどんな適性やリソースが必要なのかは変わってくる。

 YouTuber成功本は、YouTuberという、何をすればいくらになるというビジネスモデルがあるていど明確な世界における成功者たちがどんな考えと行動をしているのかを語っているのが特徴だ。だから続けて読んでいけば、このジャンルに向いている人とはどんなタイプなのかがあるていど見えてくる。

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