桑田佳祐、音楽人としてつなげたい歌と届けたい思い 『九段下フォーク・フェスティバル'25』ライブアルバム発売の背景

桑田佳祐、ライブ盤リリースの背景

桑田佳祐『九段下フォーク・フェスティバル'25』が今鳴らされる意味

 11月3日、桑田佳祐のライブアルバム『九段下フォーク・フェスティバル'25』がリリースされる。2025年10月12日、東京・日本武道館で一夜限りの開催となった同名イベントのライブ音源全29曲を2枚組CDに収めた作品である。ちょうど1年前の11月3日、この夜の模様はTOKYO FMをはじめとするJFN全国38局で放送されている。その伝説の一夜が、1年の時を経て作品として残されることとなった。

 このイベントは、長年にわたって桑田とファンをつなぐ場としてあり続けてきた彼のレギュラーラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』の放送30周年とTOKYO FMの開局55周年を記念したものだった。同局からの「何か特別なイベントを」という提案に応え、自ら企画を発案し、ゲストの人選やセットリストの原案まで手がけた桑田が掲げたテーマはずばり“The・秋の文化祭(ミュージック・フェス)”。事前告知は「桑田佳祐 他ゲストあり」の一文のみ。それでも武道館およそ9000人のキャパに対して数十倍もの応募が寄せられたという。イベントロゴのイラストを手がかりに、SNS上ではゲストの顔ぶれを推理する投稿が相次いだ。

 かくして当日、桑田と、この日のために集められたスペシャルなハウスバンドの面々とともにステージに現れたシークレットゲストは、あいみょん、桜井和寿(Mr.Children)、竹内まりや、原 由子、吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)という5人のビッグアーティストたちだった。

一夜の“文化祭”はなぜチャリティ作品になったのか

 本来予定されていなかった本イベントの作品化が実現した背景には、2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震をはじめ、各地で相次いだ災害があった。各シークレットゲストの賛同を得て、本作の利益は熊本をはじめとする被災地への支援などを目的に日本赤十字社へ全額寄付される。早期の支援につなげるため、寄付の対象期間は現時点で2027年3月31日までとされている。

 筆者は先日、宮城での『桑田佳祐 夏祭りツアー2026』千秋楽と、翌日に開催された『東北未来芸術花火2026~明日へのマーチ 桑田佳祐SP~』を軸に、東日本大震災から15年に及ぶ桑田と東北の歩みについてリアルサウンドに寄稿した。今年開催された桑田の『夏祭りツアー2026』自体、能登半島地震に見舞われた金沢を皮切りに、阪神・淡路大震災を経験した神戸など、かつての災害の記憶を抱える都市での公演が組まれていた。その最中、熊本で地震が起き、8月の熊本公演が見送られた。横浜や宮城のステージで熊本や豪雨被害を受けた千葉の人々へ言葉を寄せていた桑田にとって、今回のリリースは、そうした思いを音楽人として具体的な形にしたものとも言えるだろう。

フォークが結んだ世代とジャンル

 このライブアルバムでは、本編とアンコールで演奏されたナンバーを当日の曲順どおりに全曲収録。リリースに先立ち、10月7日から4週連続で4曲が先行配信され、10月18日には桑田の公式YouTubeチャンネルにおいて5曲、約20分のライブ映像のプレミア公開も行われた。筆者は当日現地で本イベントに参加していたが、いま改めてトラックリストを眺めると、この夜の構成の大筋が見えてくる。ゲストはそれぞれ自身の楽曲、桑田やサザンの楽曲、そして先達のフォークソングを桑田と分け合って歌っていた。

 1曲目は桑田が敬愛する吉田拓郎の「今日までそして明日から」(1970年)。桑田がひとりで歌うフォークの古典から、かつて東日本大震災の被災地復興を願って書かれた自身のソロ曲「明日へのマーチ」(2011年)へとつなぐ。この2曲がイベントの幕開けを飾った事実は、1年後に本作が担うことになった役割を思うと、ことさらドラマチックに感じられてならない。

 1人目のシークレットゲストはあいみょん。彼女自身の「君はロックを聴かない」(2017年)、浜田省吾「悲しみは雪のように」(1981年)、同じく自作の「偽者」(2024年)、ベッツィ&クリス「白い色は恋人の色」(1969年)を披露。桑田はかねてから「やさしい夜遊び」にてあいみょんを高く評価していた。そんな両者の初共演にオーディエンスは冒頭から沸きに沸いた。

 桑田がサザンの「SEA SIDE WOMAN BLUES」(1997年)を歌うと、続いて登場したのは桜井和寿。「ケンとメリー~愛と風のように~」(BUZZ。1972年)、Mr.Childrenの「HANABI」(2008年)、サザンの「慕情」(1992年)を歌唱。このパートで特に盛り上がったのは、1995年1月に桑田佳祐&Mr.Children名義のチャリティシングルとしてリリースされた「奇跡の地球(ほし)」。両者がステージでこの曲を歌うのは2006年以来、実に19年ぶりのことだった。

 桑田による加山雄三の「夜空の星」(1965年)を挟んで登場した3人目のシークレットゲストは原 由子。自身のソロ曲「いちょう並木のセレナーデ」(1983年)、「花咲く旅路」(1991年)、ボブ・ディランの「風に吹かれて」(1963年)を歌唱。原も桑田と同様、学生時代に日本のフォークブームをリアルタイムで体験している一人だ。続いて、桑田が歌う美輪明宏の「ヨイトマケの唄」(1965年 丸山明宏名義)。ちなみに同曲の音源作品化は2002年リリースの桑田のベストアルバム『TOP OF THE POPS』以来だ。

 吉井和哉とは、THE YELLOW MONKEYの「太陽が燃えている」(1995年)、桑田の「東京」(2002年)、2021年に吉井がソロ名義で発表した「みらいのうた」を披露。2022年に見つかった喉頭がんを乗り越えるまでの日々も含めたドキュメンタリー映画(2025年公開)のタイトルにもなったこの曲を、吉井が、かつて自らもがんとの闘病を経て復活を遂げた桑田とともに歌う。その姿は両者のファンにとってこの上なく感慨深いシーンだったはずだ。

フォークソングという“大衆音楽”のバトン

 続いては桜井と桑田によるザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」(1968年)から、桜井、吉井、桑田の3人での「あの素晴しい愛をもう一度」(加藤和彦、北山 修。1971年)へ。本作のリリースに際して添えられた「あの素晴らしい“秋”をもう一度」というコピーはこの曲名を下敷きにしたものだ。

 そもそもフォークソングとは作者の名も定かでないまま民衆の間で口伝えに歌い継がれてきた歌を指す言葉だった。20世紀半ばのアメリカではウディ・ガスリーやピート・シーガーらがその伝統をギター1本で現代へとつなぎ、1960年代にはボブ・ディランらによって時代や社会を映す歌へと広がった。一方、日本ではアングラシーンでのブームを経て、60年代後半、ザ・フォーク・クルセダーズらの登場を機に、若者が自らの言葉と声で歌う音楽として根を下ろしていったという経緯がある。

 誰かが歌い、誰かが受け取り、また別の誰かが歌い継ぐ。この夜、ゲストたちが互いの歌を交換し、先達の歌に声を重ね、それらをオーディエンスとともに楽しむ。“The・秋の文化祭”という朗らかで和気あいあいとした響きの看板の奥に桑田が見つめていたのは、誰もが一緒に口ずさめる大衆音楽としてのフォークソングへの敬愛と、かつてのフォークソングが宿していた精神性への憧憬だったのかもしれない。もっとも、それが1年後、被災地を支える力として、さらに多くの人々と分かち合われることになるとは、当日、筆者を含め、ほとんどのオーディエンスは想像さえもしていなかったと思うのだが。

 本編終盤では、あいみょんが再び加わって、イルカの「なごり雪」(1975年。原曲はかぐや姫、1974年)を披露。続いて桑田の盟友・竹内まりやが登場し、「元気を出して」(1984年)、今春公開された映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の劇中クライマックスで使用され話題を呼んだThe Beatlesの「Two Of Us」(1970年)、サザンの「涙のキッス」(1992年)を桑田とデュエット。原曲のレコーディングでは桑田と原がコーラスに参加した竹内の「静かな伝説(レジェンド)」(2014年)は、原を加えて3人で歌った。アンコールでは全出演者で「California Dreamin'(夢のカリフォルニア)」(ママス&パパス。1965年)、「今日の日はさようなら」(森山良子。1967年)を歌唱し、自身のライブではおなじみのソロ曲「祭りのあと」(1994年)で桑田が幕を引いた。

 会場では、桑田が次の曲を歌い出すたび、シークレットゲストが登場するたび、驚きや歓喜の悲鳴が上がっていた。ライブの参加前についついインターネット上でセットリストを目にしてしまうことも珍しくない昨今、全編がサプライズで構成された何とも粋な一夜が、一つの志のもと、全曲収録で作品化されたことは称賛に値すると言っていいだろう。発案者である桑田と賛同したすべてのアーティスト、尽力した関係者に拍手を送りたい。

 本作のリリースを前に、10月11日には桑田の『夏祭りツアー2026』熊本公演の振替開催(2027年1月26日・27日、グランメッセ熊本)も発表された。また、同ツアーの追加公演として大みそかに予定されている横浜アリーナ公演は、桑田にとって4年ぶりの年越しライブとなる。音楽人としてつなげたい歌が、届けたい思いが、まだまだ桑田にはあるのだろう。とにかく宝箱のようなこのライブアルバム、配信もCDと同日に解禁され、12月16日には3枚組でのアナログ盤もリリースされる。多くのリスナーに、聴いて、口ずさんで、つなげていってほしいと願う。

■関連リンク
サザンオールスターズ オフィシャルサイト:https://southernallstars.jp
サザンオールスターズ公式 YouTube channel:https://www.youtube.com/@SouthernAllStarsch
桑田佳祐公式YouTube channel:https://www.youtube.com/@KUWATAKEISUKEch
サザンオールスターズ公式Facebook:https://www.facebook.com/sas.taishita/
サザンオールスターズ公式X(旧Twitter):https://x.com/sasfannet
サザンオールスターズ公式Instagram:https://www.instagram.com/southernallstars_official/
サザンオールスターズ公式TikTok:https://www.tiktok.com/@taishitaofficial

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる