水咲加奈、“狭間”で抗いながら歌った希望 RadioheadやNINの反骨心、石若駿との制作……自信作『IN n' OUT』に至る刺激

「ナイフ」で生まれて初めて作曲を手放した理由

――先ほどの反骨精神の話もそうですけど、今回のEPや、あるいは水咲さんの活動全般において、“怒り”も大事なものだと思いますか?

水咲:反骨心は音楽を始めた当初からずっと大事にしていると思います。さっきのChatGPTの話は、別にAIに対して否定的っていうわけではないんですけど、ただ、誰かに依存しすぎたり、他人頼りの人生になったりしてはいけないなって思うんです。私自身、そうなってしまいがちだからこそ、「甘い考え方してんじゃねえぞ」っていう考え方を曲にしたりしますね。

――EPの最後に収められた「スコール」では〈私を叱って〉と歌われますけど、〈𠮟って〉と願うのは側に人がいることを求めている感じもするし、ただ、その上で「自分は自分でしかあれない」という強い意志も感じる。あるいは、相手との間にある絶対的な壁を感じさせたりもする。この曲で歌われる人と人との距離に、個人的に惹かれるものがありました。水咲さんにとって「スコール」はどんな曲ですか?

水咲:上京してしばらくしてから作った曲なんです。「変わりたい」と思うのに全然変わることができなくて、変わるために違う行動をしてみても、それが裏目に出たり、空振りしてしまって。「何もうまくいっていないな」と感じる日々が続いた時、私は変わりたいけど変われないのに、都会はすごいスピードで変わっていくし、他の人もすごいスピードで変わっていっている気がして、自分だけ置いていかれているような感覚があったんですよね。今もそういう瞬間はあるんですけど。そういう時に、人からの怒りというか……衝撃的な言葉、スコールのような強い槍のようなものにいっそ打たれてしまえば変わるんじゃないかって思った時があったんです。結局、人頼りなんですけどね。そう思った時があって。変わろうと思って路地裏で叫んでみたり、怪物の真似をしたり。そうしたって結局、変われなくて。この曲は答えを出しているわけではないんですけど、いっそ叱ってほしいなっていう。孤独な曲ですね。

――「pray」では〈信じてる〉という言葉が歌われますね。「pray」も「スコール」も曲のテーマはまったく違うと思いますが、どちらもメロディアスな中ですごく激しい感情が歌われているように感じました。

水咲:確かに。私の人生自体が激しいからそうなるのかもしれない(笑)。人生というか、日々が。私は刺激を常に求めているタイプなので、急に電車に飛び乗って知らない駅で降りてみたり、真夜中に海に行ったりするような人間なんです。だから、言葉はすごく激しいものが出てきたりするんですよね。でも、なぜか、ピアノに向かって曲を作ろうとすると穏やかなメロディが出てきたりするのは自分でも不思議です。「pray」は、「あの時は気持ちが昂っていたけど、実はそこにあったのって母性のような、あったかくて、大きくて、柔らかい感情だったんだ」って、曲を作って気づきました。

――「pray」で歌われている内容は、水咲さんにとっては明確に対象となる存在がいるんですか?

水咲:そうですね。当時、私は信じていた相手を裏切ってしまった、というか……信じていたけど、本音をその人に曝け出すことができなかったんですよね。結果的には、信じ切れなかった。それを今でも悔やんでいて。今からあの頃に戻ることはできないけど、「信じていた」という気持ちは信じてほしくて、それで書いた曲です。ひとりだけに向けて曲を作ることって大切なことなんだって、原点的なことを思い出せる曲になりました。

水咲加奈「pray」MV

――水咲さんにとって、曲作りとは根本的にそういうものですか?

水咲:はい。「ナイフ」や「IN n' OUT」のような今年作った曲たちはちょっと違うんですけど、それ以外の曲は特定の誰かを思っていたり、自分の中にある具体的なことを抽象的に表現している曲が多いです。

――逆に、今「ナイフ」や「IN n' OUT」のような曲が生まれたのはなぜなんだと思いますか?

水咲:前作の『immersive』は、自分としては全曲パーソナルな曲たちが集まったアルバムだったんですけど、それが想像していたよりも届き切らなかったなという思いがあって。そこで一度、絶望したんですよね。自分が信じていたことを、ここまでやったのに、それでも世間との乖離を感じたのがすごく寂しくて。それで「わかる人にだけわかればいい」と思えたらよかったのかもしれないけど、やっぱり私は理解してもらいたいし、共感してもらえるアーティストになりたい。そう思った時に、普遍的な曲や、誰が聴いても感動してもらえるような曲を作りたいと思ったんです。「ナイフ」は特に頑張りましたね。

水咲加奈「ナイフ」MV

――「ナイフ」の制作は水咲さんにとってはどのような体験でしたか?

水咲:まず、作曲者が柴草玲さんで、生まれて初めて自分じゃない方に作曲をお願いしたんです。最初は葛藤もあったんですけど、それでも大きなチャレンジをしてみたいという気持ちがあったので、思い切ってお願いしました。歌詞も、体感では100回以上直しましたね(笑)。自然と出てくる私の言葉では、どうしても難しくて回りくどい、抽象的な歌詞になってしまって。もちろんそういう曲もいいんですけど、「ナイフ」に関しては「わかりやすい曲を作りたい」と最初に決めた以上は、そこに向き合いたくて。

――わかりやすさを求めたといっても「ナイフ」で歌われている感情自体は水咲さんの中にあるものですよね?

水咲:そうですね。この曲で歌った〈もう誰も傷つけたくない〉という気持ちは実体験から来たものです。自分が何気なく言った一言や、勇気を出して曝け出した本音で人を傷つけてしまったり、それによって嫌われたりっていうことが今までにあって。それはすごく寂しいし怖いから、もう何も言いたくないなと思ったんです。もちろん人生だから、そういうわけにはいかないと思うんですけどね。伝えないと伝わらないし、黙ったままではいけないと思うんですけど、でも、綺麗事でもいいから、この曲は「何も言いたくない」という気持ちを伝えたくて、書きました。

――そこがすごく好きです。教科書に載るような答えは出ていないけど、音楽だからこそ肯定できる感情が歌われていると思います。

水咲:音楽だから許されることはありますよね。それに、「あの時あんなこと言わなきゃよかったな」と思った経験は、私以外の人にも山ほどあると思うので。こういう曲があってもいいんじゃないかなと思います。

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