JUJUの歌が教えてくれる美しさ、音楽が持つ本当の力 『時間旅行』が未来へ引き連れた、聴衆一人ひとりの“物語”

 『JUJU HALL TOUR 2026 純喫茶JUJU「時間旅行」演出:松任谷正隆』、今年6月から全国各地を巡ったこのツアーのファイナル、10月11日の東京国際フォーラム ホールAでの公演に足を運んだ。今年3月にリリースされたアルバム『昭和洋楽 純喫茶JUJU「時間旅行」』を携えてのツアーでもありつつ、「スナックJUJUのママが2024年の夏以来不在にしている現在、その改装中の店舗をJUJUが間借りする形で営業している」というコンセプトでショーが始まる。その行方知れずの“ママ”が店に残していた昔の恋人からの手紙やカセットテープを紐解いていきながら、昭和洋楽に加え、邦楽カバーや自身の楽曲も披露していくのだ。

 「ママと彼とのやりとりを追いながら」「ジグソーパズルのピースをひとつずつはめていくように」「ここにいる人、それぞれのストーリーを紡いでいってほしい」というようなことをJUJUは冒頭に語ってくれた。それは“ママと彼”の物語を想像しながらその歌に思いを寄せるという以上に、聴衆一人ひとりが、ごく“私的”な物語を紡ぎ上げるショーとなるように――というメッセージだった。歌やメロディやサウンドが、過去の自分と現在の自分とをつなげて、そこに自分だけのストーリーが浮かび上がってくる。その“時間旅行”は、自分のこれまでの人生を振り返り、今ここまで歩いてきたことを再確認する、どこか“癒し”の感覚をも引き連れてくるものでもあった。悲しみも喜びも知る大人になった今だからこそ体感できるものとして。

 歌に感じる“懐かしさ”は、その楽曲が流行った当時の“時代性”と、その歌が想起させる“個人的”な思い出によるものが大きい。普段ライターなどという稼業をしていると、どうしても“時代性”を追うほうに思考は傾きがちなのだけれど、純喫茶JUJUの『時間旅行』は、そんな凝り固まった思考から解放し、音楽を、歌を、ごく“私的”なものとして取り戻させてくれるものだった。音楽は、まずそれを表現するアーティストのもの、そしてそれを聴く“私”のものとなる。さらに、その歌を誰かに共有し語れば、それは“君”のものともなり、なおさら強い思い出として残り続ける。振り返れば、このショーの(そしてアルバムも)1曲目が「Your Song」だったことも示唆的だ。ここから始まるショーは、すべて「Your Song」=“君の歌”なのだと告げられたような気がする。邦題は「僕の歌は君の歌」。思いを込めた歌は、受け取った者の“私の歌”となって、思い出とともに聴き継がれていく。

 「DOWN TOWN」のイントロが鳴り響けば、一気に昭和の日本へフラッシュバック。1980年にEPOがカバーしたこの楽曲は、当時の大人気テレビ番組『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)のエンディングテーマとして起用された。まだ土曜が休日ではなかったあの頃の〈土曜日の夜〉の高揚感がよみがえる。そして、少し大人になった時、その楽曲がもとは山下達郎や大貫妙子らによるシュガー・ベイブの名曲であったことを知り、シュガー・ベイブのアルバムを嬉々として手にするようになる。そこからさまざまな音楽に目覚めていく。その“私”の音楽の物語をJUJUの歌唱とバンドサウンドがよみがえらせてくれたのだった。

 松任谷由実「守ってあげたい」や松田聖子「SWEET MEMORIES」は、当時はまだ歌詞の意味もわからずにただ口ずさんでいた、無邪気な自分が微笑みかけるように響いてきた。「守ってあげたい」で歌われた、トンボ採りやレンゲ編みが当たり前の光景だった少女時代。〈もう一度あんな気持で/夢をつかまえてね〉と歌われた歌詞の意味が、今ならはっきりとわかる。「SWEET MEMORIES」もそうだ。〈なつかしい痛み〉の意味を、今ならちゃんとと理解できる自分がいて、その“大人になってしまった”寂しさごと、JUJUの歌声は表現してくれていた。

 五輪真弓の「少女」のカバーが披露されたのは嬉しい驚きだった。『スナックJUJU 〜夜のRequest〜』には「恋人よ」のカバーが収録されているが、まさか「少女」のカバーが聴けるとは。「少女」は、1972年の五輪真弓のデビュー曲。筆者もさすがにリアルタイムで聴いていたわけではない。大人になり、洋楽にも興味を持ち始めた私がキャロル・キングの歌に触れ、あとからそのキャロル・キングが五輪真弓のアルバムに参加していたことを知り、そのデビューアルバムを手にしたという遡りの思い出。もしかしたらJUJUもそうだっただろうか。そんなことを考えていると、その次に披露されたのがキャロル・キングの「It's Too Late」。この並びはもう確信的と言っていいだろう。アーティストとオーディエンスとがそれぞれに、そうしてたどってきた“音楽愛”を確認する――この『時間旅行』にはそうした側面も色濃い。というか、私にとっては途中から完全にそのモードとなった。

 ハイ・ファイ・セット「フィーリング」では、また違った音楽の変遷を思った。深夜のラジオで初めてこの曲を聴いた時のことを思い出していた。山本潤子の美しく凛とした歌声に触れて、意味はわからずともそこに深い悲しみや孤独を感じ取っていた頃。特にサビ終わりの〈泣かないわ〉というほんの5文字に込められた感情の機微。まだ幼いながらにそれを漠然と感じ取っていたように思う。そして、のちにその楽曲も、原曲はモーリス・アルバートというブラジルのシンガーソングライターのものだったと知る。私は〈泣かないわ〉と日本語5文字をあてたメロディに、モーリスがどんな歌詞をあてていたのかを知りたくて原曲の歌詞を探した。そこでは〈again in my arms〉=「またその腕に戻れたらいいのに」という思いが歌われていた。そこで日本語詞の凄さというか、「語らないのにわかる」みたいな深さを思ったのだった。この日のJUJUの歌声が表現する〈泣かないわ〉の歌声が素晴らしかったから、私はその“懐かしさ”にごく自然に没入してしまったのだと思う。

 歌詞とメロディ。それを際立たせるバンドメンバーの素晴らしい演奏も、この日の“時間旅行”を彩っていた。ダイアナ・ロス「If We Hold On Together」のあたたかく包み込むようなサウンド、そして、久保田早紀「異邦人」で大地や空の広がりを感じさせるサウンドも素晴らしかった。特に「異邦人」で〈時間旅行が すべての傷を/なぜかしら埋めてゆく〉と歌われたJUJUの伸びやかな歌声とそのサウンドのスケール感に、あらためてハッとさせられた。この日の“時間旅行”に“癒し”を感じたのは、やはり必然だったのだと。47年も前のポップミュージックが「音楽とは何か」「歌とは何か」、その答えを提示してくれているような気がして、深遠な思いで楽曲に聴き入った。

 本編ラストには、そうした音楽をたどる旅を経たJUJUが、自身の歌として表現する最新曲「夏蝉」を披露した。刹那に心振るわせる慕情が永遠を刻み込むような歌だ。この曲もいつかに“時間旅行”を約束されたような楽曲だと思えた。同時に、「夏蝉」が彼女の今を明確に示す名曲なのだと深く思わされる。JUJUのシンガーとしての物語は、この先にも続いていくのだ。そして、それをリスナーが受け取り、“私”の歌として未来に引き連れていく。その音楽のあり方の美しさを思う。

 アンコールの1曲目には、JUJU自身の楽曲――「WITH YOU」「この夜を止めてよ」「Voice」「やさしさで溢れるように」をつなぐメドレーで“時間旅行”を演出。多くのラブソングを歌い続けるJUJUならではの、すべての人の“愛”や“恋”を祝福するような、そんなあたたかさが届けられた。

 そして、“純喫茶JUJUのマスター”こと松任谷正隆がステージに登場。松任谷がピアノで参加してのミニー・リパートン「Lovin' You」がこの日のラスト曲となった。純粋で無垢で一点の曇りもなく無償の愛を歌う、究極のラブソングだ。石成正人のギターも重なり、静謐で美しい歌声が熱を帯びていく。客席からのシンガロングの声がまた美しかった。それぞれの人生が滲んで、それがひとつに重なって、この日のエンディングを飾る。ファンタジックな“時間旅行”はこうして幕を閉じた。

 それはまさしく“私”だけの“時間旅行”だった。JUJUは会場に集まった5000人に、5000通りの“時間旅行”を提示したのだ。

 今日まで生きてきて、悲しい思い出や痛みはいつも音楽に救ってもらっていたこと、失った恋や夢を懐かしく思い出す“時間旅行”だったが、豊かなJUJUの歌声は、何より私にとっては過去から現在へと続く“音楽愛”を思い起こさせるとても貴重な旅物語だった。このツアーに足を運んだ人たちが、このライブを体感したあと心の内にどんな物語を描き出したか、機会があればそれも聞いてみたいと思う。

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