BUMP OF CHICKENが描く“寂しさ”の正体とは? 助詞、語順、矛盾――言葉ひとつで変わる感情の景色
助詞ひとつ、語順ひとつで景色を変える妙技
次に注目したいのが、優れた言語センスに基づく助詞の使い方だ。その代表例として「宝石になった日」のラストのサビ前における一節、〈増えていく 君の知らない世界 増えていく 君を知らない世界〉を挙げたい。同じフレーズの繰り返し自体は、メッセージを強調する手法としてよく用いられる。だが、同曲では〈の〉から〈を〉へと助詞を変化させることで、強調にとどまらず、喪失の後も進み続ける時間の無情さと、喪失から立ち直れず取り残されていく孤独という、客観と主観が織りなす立体的な情景描写に成功している。
また、助詞は楽曲の世界観を広げるだけでなく、言葉の響きそのものの魅力を増大させるのに一役買っていることもある。たとえば、「アンサー」のサビにおける一節。1番では〈心がずっと熱い事の 確かな理由を〉だったが、ラストのサビでは〈心がずっと熱い事の 確かな理由が〉に変化する。小節終わりの母音が唇を丸くする“o”(を)から、口を開ける“a”(が)へ変わることで、メロディ自体は同じでも、終盤へ向かう解放感や推進力が生まれたように感じられるのだ。最小限の変化で、最大限のインパクトをもたらす、実に巧みなアプローチだ。
最後に、定型的な表現に縛られない、柔軟なフレーズ構築にも触れておきたい。注目してほしいのが、「Small world」の2番サビにおける、〈変われないのに変わりたいままだから苦しくて〉というフレーズ。一般的なセオリーに則れば、「“変わりたい”のに“変われない”ままだから苦しい」と表現するのが自然だろう。しかし、あえて前後を逆転させることで、“変われない”という状態ではなく、「変わりたい」という想いが消えない苦しさへと焦点をずらしているのだ。
こうした妙技の積み重ねが、スピーカーから、あるいはイヤホンを通して、長年にわたり人々の耳を釘付けにしてきたのだろう。断っておくが、本記事で触れたのは、BUMP OF CHICKENが駆使する技法のほんの一部にすぎない。だが、わずかな言葉の仕掛けに触れただけでも、彼らがどれほど誠実にリスナーの心に寄り添おうとしているのかがわかるはずだ。それこそが、時代とともに音楽の聴き方がどれほど移り変わろうと、BUMP OF CHICKENの言葉が色褪せない理由ではないだろうか。