Official髭男dismのKSPO DOMEライブを韓国人ライターが観た 自己紹介を終え、“今”をとことん見せた2年ぶり来韓公演

Official髭男dism 韓国公演レポ

「実は初めてのソウルでのライブではなくて、僕たちは8年前かな? 一度ライブをしに来ました。その時はお客さんが50人しかいませんでした。でも今日は、8,000人います!」

 2024年、Official髭男dism(以下、髭男)がKINTEX 5ホールで2度目の韓国公演を行った際、キーボード・ボーカルの藤原聡が客席に向けて放った言葉だ。あれから2年、KSPO DOMEでの2日間公演を成功裏に終えた今、この言葉はこう言い換えなければならないだろう。「2年前は8,000人だったが、今日は――1万3,000人います!」と。韓国のアーティストでもそう簡単には満員にできないKSPO DOMEを、2年ぶりに帰ってきた髭男は今回2日間とも埋め尽くした。

Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真

 コロナ禍明け以降のJ-POPブームとともに、日本人アーティストの来韓公演は急増した。今や韓国のJ-POPファンにとって、同じ日に複数の公演が重なり行きたくても行けない、というケースは珍しくない。髭男の公演があった8月8日も、アニソンフェス「KIMCHIKURA Fes'26」やChilli Beans.の韓国初単独公演、ASH DA HEROの単独公演、「Ensemble Stars!! DREAM LIVE」の公演など、複数の公演が重なっていた。

 それでも髭男の公演は別格だ。J-POPファンといっても細かな好みは分かれるものだが、髭男はほとんどのJ-POPファンを一つにまとめるほどの大型アーティストであり、J-POPを普段熱心に聴いていないリスナーすら足を運ばせる、いわば"大衆的"な人気を持っているからだ。昨年で言えば米津玄師とあいみょんの初来韓、今年で言えばKing Gnu、Vaundy、そして髭男がそれに当たるだろう。実際、今回の来韓公演はチケット発売開始と同時に8万人が殺到し瞬時に完売、公演直前まで2度追加された見切れ席まで、間もなく売り切れた。

 韓国のJ-POPファンにとって、来韓公演は単にライブを鑑賞する以上の意味を持つ。J-POPファンがまだ少なかった時代、"好きなアーティスト"という共通点だけで繋がれる同志と実際に出会い、一箇所に集うことができる――そんな感覚があったからだ。だからこそ来韓公演では、ファンが自主的に企画するイベントが多い。スローガンイベントやメッセージボードイベントは、今やどのJ-POP来韓公演でもほぼ欠かせない存在で、規模の大きい公演では、ファンが資金を出し合って地下鉄やバスの広告を出すこともある。今回の髭男の公演でも、それらのイベントが行われ、ファンによるイベントカフェも用意されていた。何の金銭的な見返りもないのに、ただアーティストを好きだという気持ちだけで、自らの手間を惜しまず行われるものだ。

 日本で髭男をはじめとするJ-POPアーティストのライブでは、未就学児から中高年、さらには高齢者まで、客層の年齢幅が非常に広いということに気付く。一方、韓国のJ-POP公演の客層は、ほとんどが20〜30代に集中している。今回の髭男公演も同様で、韓国のチケット販売サイト「NOLチケット」の統計によれば、10代6.9%、20代60.5%、30代23.6%、40代3.9%、50代2.9%という構成だったという。

 もう一つ、昨年1年間だけで韓国国内の日本人アーティスト公演に約50回足を運んだ筆者が気づいた傾向がある。「主要なJ-POP来韓公演の客層は基本的に男性が多く、ボーカルが女性の場合はその傾向がさらに強まる」というものだ。韓国では一般的に、女性の方が公演をはじめとする文化活動により積極的な傾向があるにもかかわらず、J-POP来韓公演では男性客が目立つ。しかし髭男の客層の男女比は、ほぼ5対5に近い(男性44.9%、女性55.1%)。特定の層だけに支持されているのではなく、韓国で確かな大衆性を獲得していることを示す指標だろう。

自己紹介の2024年、"今"をとことん見せた2026年

 今回の公演は、2年前の来韓公演とはまた違う方向性のものだった。2024年当時、髭男はアルバム『Rejoice』リリース後のアリーナツアー直後にもかかわらず、韓国公演ではセットリストを大幅に変更していた。「Get Back To 人生」「うらみつらみきわみ」「キャッチボール」「濁点」など、シングルとして発表されていない、比較的なじみの薄いアルバム収録曲をすべて外し、イントロにあたる「Finder」の直後に「Pretender」を披露してスタートした。代わりに、アリーナツアーのセットリストにはなかった「ノーダウト」「イエスタデイ」「Cry baby」「ホワイトノイズ」といった代表曲を投入していた。初のアジアツアーだったこともあり、“Official髭男dism”というバンドそのものを紹介するための構成だったと言えるだろう。

 あれから2年が経った。自己紹介を終え、たくさんの愛を受け取った髭男が今回の公演で見せたのは、24年の来韓以降にリリースされた新曲を一曲も漏らさずセットリストに組み込んだことだった。「50%」「らしさ」「Sanitizer」「Make Me Wonder」「エルダーフラワー」「スターダスト」。このうち「50%」(『はたらく細胞』)、「らしさ」(『100M』)、「Make Me Wonder」(『ダーウィン事変』)は、海外のリスナーに日本の楽曲が届く主要な窓口であるアニメタイアップ曲だが、「Sanitizer」は久しぶりにリリースされた“タイアップなし”の楽曲だ。もっと知名度の高い曲を入れることもできたはずだが、2年前以降にリリースした曲を一曲残らず披露したことに、“2026年、今の髭男”を見せようとする決意が感じられた。

Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真
藤原聡
Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真
小笹大輔
Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真
楢﨑誠
Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真
松浦匡希

 この日「たかがアイラブユー」が外されなかったことも、同じ文脈で印象的だった。2018年発表の1stフルアルバム『Escaparade』収録曲で、シングル化もされておらず、アニメやドラマの主題歌になったこともない。そのため、この日最も意外な選曲でもあった。2024年であれば外れていてもおかしくない曲だが、2026年の髭男は「韓国、この曲も知ってる?」と問いかけてみることを選んだようだった。結果は――サビで藤原がマイクを客席に向けると、観客は迷うことなく大合唱で応えた。髭男の音楽が代表的なヒット曲だけにとどまらず、過去の収録曲まで韓国のファンに深く浸透していることを確認できた瞬間だった。

2年で深まった絆、響き合うステージ

 距離を縮めたのは髭男だけではない。観客もまた、髭男との呼吸をより一層合わせるようになっていた。「ミックスナッツ」のピーナッツポーズ、「Stand By You」の16ビートの手拍子、何十回も聴いた「TATTOO」ですらサビ全体を大合唱するということ――そのすべてを、今はもう知っている。一度経験しているからだ。そうして2026年の観客は、より熟練し、髭男とさらに有機的に呼応し合うようになっていた。中でも最も驚かされたのが「50%」と「スターダスト」だ。コール&レスポンスのポイントが細かく複雑に分かれている「50%」は、前もって意識して覚えておかなければついていけないほどの曲であるにもかかわらず、「これができるのか」と思うほどの大合唱がドーム全体に響き渡った。観客の呼応が特に際立った楽曲としては、「Fire Ground」も欠かせない。原曲にはない「Burn!」「Burn!」というコールが、まるで誰もが当然のように知っているかのようにKSPO DOME全体に響き渡り、そのリズムに合わせて炎が上がった。真っ赤な照明も相まって、まさに"Fire Ground"となった会場を前に、観客自身もこのライブをつくる一部であるという実感が湧いた。

Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真

 今年4月にリリースされたばかりの最新曲「スターダスト」は、公演がすべて終わり、メンバーが挨拶をする際のBGMとして流れた。韓国の観客は、このBGMにまで大合唱を始めたのだが、驚いたのは藤原がそれに応えるように、マイクを取って後半部分を自ら歌ってくれたことだ。観客が一方的にアーティストへ想いを伝えるだけでなく、アーティストもまたその想いに応える――双方向で美しい光景が、韓国で繰り広げられていた。

ソウルだけの特別な瞬間

 この日の公演では、ソウルだからこそ生まれた場面もあった。「TATTOO」の2番の頭で、藤原は歌詞の「大丈夫」を韓国語の「괜찮아요(ケンチャナヨ)」に変えて歌った。また、音源より遅いテンポでピアノを弾きながらサビから始めた「ミックスナッツ」では、「ここに僕がいて あなたがいる」の間に「ソウルに僕がいて」を差し込んで歌った。徐々に音を上げていくアドリブ「そして そして そして」で、誰もが唸る美しい3段の高音を見せてくれたのはおまけだ。

Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真

 歌詞の繊細さでも知られる髭男だが、この日藤原は「僕たちが話していること、歌っている内容をどれだけ深く理解しているかは、あまり関係ない」と、やや踏み込んだ発言をした。ただ、「僕たちがつくった音楽を愛してくれる人たちがここにいるということが、本当に嬉しい」と、言葉や国境を越えて音楽の力で繋がったことへの喜びと感謝を伝えた。「これからもいい曲をたくさんつくって、いいライブをたくさんして、またソウルに来たい」と、再来韓への意志も語った。メンバーたちは「みなさんに会えて幸せだった。これからもこの4人で、好きな音楽をたくさんつくって届けていきたい」と感謝を伝え、「音楽の最終的な目的地は作品ではなく、みなさんの耳と心だ」と、“聴いてくれる、あなた”の存在の大切さを改めて強調した。

50人から2万6千人へ――今はお互いの音楽になった

Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真

 この日の公演で髭男は、10年前に韓国で行った最初の公演の話を改めて口にした。今回明かされたところによれば、当時の公演は東京よりも先に行った単独公演だったという。わずか50人を動員したにすぎなかったバンドが、今では韓国のアーティストでも簡単には立てないKSPO DOMEの2日間公演を満員にし、2万6千人の観客と心を通わせるアーティストへと変貌を遂げた。

 しかし、今回の公演で確認できた変化は、観客数の増加だけではない。2024年の髭男が、韓国に自分たちの音楽を紹介し、存在を知らしめる時間だったとすれば、2026年の髭男は、すでに自分たちを知り待っていてくれる観客と共に、ライブをつくり上げていく姿に近かった。髭男が韓国の観客に一歩近づき、韓国の観客もまた、それに応えるだけの深い理解と積極性で応えていた。もしかすると、これこそが今、韓国でJ-POPが迎えている“現在”なのかもしれない。

 あるアーティストにとっては、もはや自分たちが何者かを紹介する過程は必要ない。すでに多くの人がその音楽を知り、ライブを心待ちにし、一緒に歌う準備を整えている。音楽が国境を越えるだけにとどまらず、その音楽を愛する人々がいる場所で、新しい意味をつくり出していくこと。その中心に、今の髭男がいる。

Official髭男dism KSPO DOME ライブ写真

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