46歳音楽評論家、初めてINIを観る “個”がぶつかり合って生まれる表現体、東京ドームで浴びた覚悟のエンタメ

おじさん音楽評論家、初めてINIを観る

INIは“カッコいい”だけではない

 最新シングル『ANTHEM』のタイトル曲「You Know What To Do」では、またしても景色が一変。

 この日最もポップでラブリーな世界が現れる。ストリートアートのようなコラージュ映像。カラフルでファンタジックな世界の中を、メンバーが軽やかに疾走する。肩を組んで踊る11人。先ほどまでのキレッキレなパフォーマンスとのギャップもあって、なんとも微笑ましい。おじさんの気持ちもほっこりしてくる。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

 そして個人的に、今回のライブで特に好きだった演出のひとつが「Spin It」だった。シュウ・フェンファンと髙塚大夢によるユニット曲だ。

 幕間に映像作品が流れる。ライブではよくある演出なので、最初は何気なく眺めていた。ところが、途中で気づく。これ、事前に撮影した映像じゃないぞ。リアルタイムでステージ裏とステージ袖で起きていることなのか。その映像世界からシームレスにつながるように、シュウと髙塚がステージへ登場する。虚構と現実の境界線が溶ける、心地イイ感動。アシッドジャズ、フィリーソウル、ディスコなどの香りをまとった軽快なダンスグルーヴに乗せて、2人が踊る。

 ふと中央ステージを見る。あれ? あの巨大な円形ステージが、レコード盤に変わってる! 本当に、いつ変わったのかわからなかった。今回のライブ、この「いつ変わったのかわからなかった」が本当に多いライブで、気が付いたら信じられないくらい巨大な造形物が目の前にあったり……本当にステージの構造的な演出には度肝抜かれっぱなしだった。回転する巨大なレコードの上で踊る2人が愛らしい。

 ライブとは、「日常の延長線上に突然現れる非日常」なのだと思う。「Spin It」の一連の演出は、その感覚を映像と現実の境界を曖昧にすることで、実にポップに表現していた。

 派手なだけではない。「エンタメとは?」と問うような演出が、細部まで本当によく考えられていた。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

終盤、11人のリミッターが外れていく

 そして「BEYOND THE SKY」。この日、最も激烈なロックナンバーだった。真っ赤な照明で燃え上がるステージ。次々と噴き上がる火柱。ラウドでヘヴィなビートを引きずるように疾走するバンドサウンド。そして、その轟音の中心でINIの11人が暴れ回る。ラフでソリッドなボーカル。エモーショナルなダンス。貫くようなシャウト。曲が進むにつれて、メンバーのリミッターがひとつずつ外れていくように見える。

 普通なら、ライブ終盤である。しかも、それまで散々踊っている。身体は疲弊しているはずだ。なのに、ここからさらにギアが上がる。身体表現の限界そのものを押し広げようとしているかのようだった。

 「俺たちの旅はまだまだ続くぞー!」

 そんな叫びが、東京ドームに響き渡る。この言葉が妙に胸に残った。

一瞬たりともショーを降りない11人

 ここで、この日のライブを通してずっと感じていたことについて書いておきたい。

 INIの11人は、最後まで一瞬たりとも気を抜かなかった。ダラダラと水を飲む。疲れた表情を見せる。ステージに座りこむ。そういう瞬間が、本当にほとんど見当たらなかった。

 これは別に「俺たちの時代は真夏でも部活の最中は水を飲まなかった」などという昭和根性論的な話ではない。非科学的な精神論は昔から大嫌いなほうだ。むしろINIは、あれだけ苛烈な運動量なのだから、水分は絶対に取ったほうがいい。

 そうではなくて、彼らはステージ上にいる間は「MINIから見られている」という意識を片時も手放していないように見えたのだ。凛々しく屹立し、視線を送り、歓声に応え、INIであることを維持し続ける。観客がINIを見ているのと同じくらい、INIもまた観客を見続けている。そこには、この巨大なショーを成立させるための途方もない集中力と、観客に対する敬意があった。プロフェッショナルという言葉だけでは、少し足りない。

 チケット代という財産と、ライブに来るという人生の大切な時間を捧げて来てくれた人を、絶対に楽しませるし感動させたいーーそんな執念に近い、恐ろしいほどのエンタメに対する気概を感じた。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

「ついてこい」から「一緒に行こう」へ

 本編で限界まで身体を酷使したにもかかわらず、アンコールに入ると今度は空間全体の温度が柔らかく変化していく。「RUNWAY(INI Ver.)」。ドームを満たしていく祝祭感と解放感。

 鮮烈で透明感のあるメロディが、火照った身体に爽やかな風を運んでくる。ポップな旋律の間を縫うように響く、スムースで繊細な歌声。身体がふわりと浮かび上がるような軽快なビートとともに、メンバーたちがリフトアップされていく。あれだけ巨大だった東京ドームが、不思議と軽やかな空間に感じられる。

 そして「We Are」。可動式のステージに乗ってアリーナを移動しながら、メンバーが両サイドに分かれ、カラーボールを投げ、MINIとの交流を楽しんでいる。ここで印象的だったのは、INIとMINIとの“心の距離”の近さだった。スーパースターとして巨大な東京ドームの中央に君臨する存在でありながら、どこか友達のようでもある。本編中は「俺たちについてこい」だったけど、アンコールでは「一緒に行こう」と手を差し伸べているような距離感。

 客席を見渡すと、スティックライトが色とりどりに輝いている。それぞれ違う色を持つ11人。そして、一人ひとり異なる人生を歩んできたMINI。その無数の“個”が集まることで、東京ドームという巨大な空間にひとつの光景『CITY OF LIGHTS』が生まれている。

 オープニングで感じた「群衆と個」というテーマが、ここでまったく違う意味を帯びて戻ってきたようにも感じられた。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

おじさんが見たINIという集合体

 そして「SUPER NOSTALGIC」。

 いよいよ、本当に最後だ。11人は、まるで東京ドームにいるMINI全員と目を合わせようとするかのように、客席を見つめ、手を振り続ける。名残惜しそうに。何度も。何度も。なんて美しい空間なんだろう。東京ドームの内側だけが、外の世界から切り離された別世界になったようだった。温かくて、心地よくて、幸福感に満ちている。

 INIに向けられた歌声で満たされる東京ドーム。手を振る11人。歓声で応えるMINI。無数に瞬く光。そして気がつけば、後方の巨大なLEDモニターには花火が打ち上がっていた。最高の大団円だった。

 私はこの日、INIというグループについてほとんど何も知らない状態で東京ドームへやってきた。だからこそ、先入観なしに感じたことがある。INIの魅力とは、11人の“個”の光が消えないことなのだ。11人それぞれに全く異なる輪郭がある。普通、集団としての完成度を高めれば高めるほど、個人の凸凹は均されていく。

 しかしINIは違う。鍛え抜かれた11人それぞれの個性が、むしろ激しくぶつかり合っている。そして、その11個の個性が集合した瞬間にだけ、「INI」という他に類を見ないひとつの表現体が生まれる。30人のダンサーに囲まれても埋没しない。巨大な映像にも負けない。火柱にも、ストリングスにも、164メートルにも及ぶ巨大なムービングステージにも負けない。どれだけ演出が巨大化しても、最終的に観客の視線が戻ってくる場所は11人なのだ。

 そこが、このライブの最も感動的かつ恐ろしいところだった。

『2026 INI 5TH ANNIVERSARY DOME TOUR [CITY OF LIGHTS]』©LAPONE ENTERTAINMENT

初見の46歳がたどり着いた「INI、恐るべし」

 最初から最後まで、徹底的にこだわり抜かれた超立体的な演出。一瞬の感動のためだけに投入される、途方もない物量と熱量。30人のダンサー、バンド、ストリングス、映像、照明、炎、巨大な可動式ステージ。しかし、それらすべての中心にいるのは、あくまでINIの11人だった。

 鍛え抜かれた身体。歌。ラップ。ダンスのスキル。そして、それぞれまったく違う個性。その“個”の集合によって、INIというひとつの巨大な芸術が生まれている。なんて恐ろしいほど美しく、完成されたエンターテインメントなのだろう。これで、まだデビューから5年? おいおい、冗談でしょ。

 今回、INIについてほとんど知らなかった私が、東京ドームで数時間のライブを観た。それだけの話。なのに、こんなにも心揺さぶられるとは思っていなかった。そして私と同じように、「INIって名前は知っているけど、俺たちの世代には関係ないグループでしょ?」くらいに思っている同世代の人がいるなら、一度でいいから触れてみて欲しい。

 彼らが作っているものは、世代を限定したエンターテインメントではなかった。優れた音楽があり、優れたダンスがあり、驚くべきコンセプト/ストーリーを体現する舞台演出がある。そして何より、目の前にいる観客を絶対に楽しませようとする11人の優れたエンターテイナーがいる。

 感動体験に年齢は関係ない。少なくとも私は見事にやられちゃいました。INI、恐るべし。

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