歌声分析 Vol.22:Penthouse 2つの声が魅せる高い可変性、浪岡真太郎と大島真帆が支える洗練されたポップス

言葉をリズムへと変換する、浪岡真太郎の緻密な発声

 まずは浪岡から。爽快なアップチューン「夏に願いを」(2023年)をピックアップしたい。この曲を聴いてまず思うのは、浪岡は日本語のアクセントの付け方が独特で、バリエーションも実に多彩だということ。冒頭の〈晴れる空の青さは/忘れられぬパノラマ〉という歌詞の中には、ら行が“れる”、“(そ)ら”、“(わす)れら”、“(パノ)ら(マ)”と多く登場するが、浪岡はら行のニュアンスを大胆に変えて発音することで、メロディの中に印象的なフックを作っている。単語を立たせながら、助詞などは軽く扱い、母音の長さや子音の強さを細かくコントロールしている。結果、言葉数が多くとも窮屈にならず、日本語そのものがリズムとして軽快に流れていくのである。一聴して日本語か英語かがすぐには判断できない歌い方は、浪岡の持ち味のひとつだが、その発音こそが要因なのだと思う。

Penthouse - 夏に願いを [Official Music Video]

 一方、ミディアムバラード「花束のような人生を君に」(2024年)では、浪岡は一音一音に息の成分を多く含んで歌い出すアプローチを見せる。子音のアタックは繊細で柔らかくなり、母音も明確に切らず、旋律の中へ溶かすように歌っているのだ。声を大きく張ることもなく、自身の持ち味である少し掠れた声も封印気味。音と音の間を滑らかにつなぎ、ときにわずかなタメを作るアプローチには、ソウルをルーツのひとつに持つ浪岡らしさが表れている。ただ、いわゆる“ソウルシンガー的”に感じられる濃厚な粘りはない。ソウル由来のフレージングを意識させながらも聴感はさらりとしていると同時に、声を張らないことで増した息の成分が、楽曲に深みと優しさを加えている。

Penthouse - 花束のような人生を君に [Official Music Video]

濁りのない透明感と物語性、大島真帆のアプローチ

 一方の大島の歌唱には、どんな言葉であっても濁らない声質と明瞭なアタック、そして音程やリズムを精密に再現する力がある。声に感情を過剰に乗せず、楽曲に必要な音色やニュアンスを正確に提示するアプローチこそ、Penthouseにおける大島というボーカリストの技だ。しかし、最新アルバム『Neon Garden』に収録されたソロ歌唱曲「シルエット」(2026年)では、普段よりも大きく感情を解き放っているように聴こえるのが面白い。ゆったりと間合いを取り、前の言葉が持つ感情を次の言葉へ手渡すようにフレーズをつなぎ、歌詞全体をひとつの物語として運んでいく。学生時代にミュージカル部で活動していたというバックグラウンドを踏まえると、感情を歌に含むのはむしろ得意なはず。その歌い方をこれまであまり見せてこなかった彼女が、ここにきてPenthouseのアルバムの中で披露したことは、バンド自体の表現の幅が明らかに広がっている証と言えるだろう。

シルエット

 次に取り上げるのが、ビッグバンドを彷彿とさせる「閃光花」(2023年)だ。注目したいのは、〈飾らぬ貴方の影にもいっそ逆らって〉の歌割りだ。〈飾らぬ〉(大島)、〈貴方の〉(浪岡)、〈影〉(大島)、〈にも〉(浪岡)、〈いっそ逆らって〉(浪岡&大島)という歌割りの中で、大島が“かざ/らぬ”、浪岡が“あな/たの”と、2文字単位で区切るように歌っている。このように、曲のリズムに合わせ、単語の途中で歌唱を切ってリズム感を出す手法は、Penthouseのツインボーカルの真骨頂だ。1人で歌った場合は区切りが目立ちすぎて、メロディよりもリズムが先行してしまうかもしれないが、2人で交互に歌うからこそメロディが立ち上がり、歌として成立するのだと考察する。また〈掛け違った誓いなど/丸めて引き潮の何処かへ〉の2人のハーモニーでは、大島がメインで伸びやかな声を広げているが、一瞬だけフロントが浪岡に入れ替わったりする。そうした変化を加えることで、より大島の声質のクリアさが際立っている。

Penthouse - 閃光花 [Official Music Video]

 こうして聴いていくと、Penthouseのツインボーカルの最大の特徴が見えてくる。それは、浪岡と大島のどちらにも高い可変性と、それをコントロールするスキルがあることだ。Penthouseの男女ツインボーカルが、いわゆる男女デュエットのように聴こえない理由もここにあるのではないだろうか。2人が異なる人物として会話をするのではなく、楽曲に必要な2種類の声として存在している。だからこそ、ボーカルが目まぐるしく入れ替わる曲でも、楽曲の視点は分断されず、重なれば互いにない音色を補い、激しくぶつかればそれが曲の推進力へと変わっていく。

 さらに、その2つの声は、ピアノ、ギター、ベース、ドラムと同じように、Penthouseのアンサンブルを構成する重要な要素でもある。情報量の多いサウンドが、技巧だけを前面に出した音楽にならず、ポップミュージックとして直感的に届く。その中心には、楽曲に応じて姿を変えながら、バンドのグルーヴを牽引する浪岡と大島の歌声がある。この自在な可変性こそ、浪岡真太郎と大島真帆という2人のボーカリスト、そしてPenthouseというサウンドそのものの正体である。

Penthouse - 流星群(Shooting Star)[Official Live Video at PACIFICO YOKOHAMA 2024.12.19]

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