中島健人「鬼事」に宿る表現者の美学 『逃げ上手の若君』に寄り添いながらアイドルとしての華を魅せるバランス感

Viral Hits Focus

 話題のバイラルヒット曲を毎週収録するSpotifyによる日本向けエディトリアルプレイリスト「Viral Hits Japan」(※1)。同プレイリストより、本記事では中島健人の「鬼事」をピックアップする。

 「鬼事」は、7月17日より放送中のTVアニメ『逃げ上手の若君』第二期(フジテレビ系)のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲だ。原作は『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』で知られる松井優征による『週刊少年ジャンプ』(集英社)連載作品で、鎌倉幕府滅亡の混乱のなか8歳にしてすべてを失った北条時行が、逃げる才能ひとつを武器に信濃から鎌倉奪還を目指す姿を描く、南北朝を舞台にした歴史エンターテインメントだ。二期オープニングテーマ「鬼事」には中島自身も作詞に携わっている。

TVアニメ『逃げ上手の若君』第二期ノンクレジットオープニングムービー(歌詞有)|中島健人「鬼事」

 興味深いのは、「鬼事」というタイトルそのものが作品世界と深く共鳴している点だ。『逃げ上手の若君』は、しばしば主人公と足利方の攻防を生死を懸けた鬼ごっこになぞらえて描かれる物語であり、逃げることを恥とせず、生き延びることそのものを才覚として肯定する作品である。「鬼事」とは鬼ごっこの異称(ほかにも能や狂言で、鬼などを主人公とする作品を指す)。“追う者と追われる者”という構図を軸にした本作のテーマを、楽曲のタイトルで体現していると言っていい。思えば、シリアスな史劇のなかにどこか愛嬌のある軽妙さを溶け込ませる手腕は、『ネウロ』や『暗殺教室』でも松井が繰り返し見せてきた手腕でもある。今回『逃げ上手の若君』の“逃走劇”のテーマソングに、子どもの遊びを思わせる言葉を曲名に当てはめるセンスにも、松井の作家性と呼応するものを感じ取れる。

 歌詞も、鬼ごっこの呼びかけを思わせる一節から幕を開け、あらゆる困難に屈することなく自分の望む未来を手繰り寄せようとする時行の奮闘に、静かに寄り添う内容へと展開していく。抗いがたい宿命を抱えながらも、限られた時間のなかで精一杯生きようとする切実さが、歌詞全体に通底しているのだ。サウンドは艶やかな質感を纏い、耳に残る旋律を反復させることで記憶に残る強度を持っている。そこに中島ならではの色気と芯の強さを感じさせる歌声が乗ることで、柔らかさと強度が同居する一曲に仕上がった。

 MVでは、本楽曲が生真面目な世界観の再現に終始していないことがわかる。鬼ごっこに興じる遠い昔の若君として爽やかな和装姿の中島が現れ、子どもたちとの無邪気なひとときから一転、艶やかな鬼へと変貌を遂げる。現世のカットも交錯させながら展開するこの構成は、作品の世界観に寄り添いつつも、中島健人というアイドルの華を主役に据えることも決して忘れていない。悲劇的な史実を背負う時行という人物像に接近しながらも、そこに沈み込みすぎることなく、“変身”というキーワードでアイドルらしく見せ場をきちんと用意する。中島にとって、「アイドルとして何を魅せるか」は繰り返し向き合ってきた問いでもあるはずで、歴史ものというシリアスにもとらえられる文脈に足を踏み入れてもなお、その本分を手放さない姿勢には一貫性を感じる。作品世界への敬意と、パフォーマーとしての自己主張。このふたつを天秤にかけすぎず、どちらも取りにいく距離の取り方こそ、中島ならではのバランス感覚と言えるだろう。

中島健人「鬼事」Music Video

 「鬼事」は、作品のテーマを表層的になぞるのではなく、モチーフの深さまでをもさらに掘り下げ、そこに中島自身の身体性を違和感なく重ね合わせている。『逃げ上手の若君』という物語に静かに寄り添いながら、中島健人というアイドルの輝きを決して曇らせない、その塩梅の巧みさこそ、この楽曲がバイラルチャートで存在感を放ち続ける理由なのかもしれない。

※1:https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWZZbpkxU5t9L

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