Mrs. GREEN APPLE「Brand New」に刻まれた喪失と成長の証 『スパイダーマン』と共鳴する“孤独”を引き受ける覚悟
Mrs. GREEN APPLEが7月13日に配信リリースした「Brand New」は、「lulu.」「風と町」に続くフェーズ3第3弾となる楽曲。現在公開中の映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の日本版主題歌として書き下ろされ、スパイダーマン全世界UGCソングにも抜擢された。ミセスの3人がトム・ホランド、ゼンデイヤ、ジェイコブ・バタロンとリモートで対談したり、ロサンゼルスで行われたワールドプレミアのレッドカーペットに参加したりしているのを見ながら、とんでもないことが起きているなと思う。
今回制作された「Brand New」は瑞々しいパワーポップだ。憧れの作品へのリスペクトがそのまま音に変換されたような楽曲で、笑顔で楽器を掻き鳴らす3人の姿が浮かんだ。初期衝動が呼び覚まされたかのような熱量だ。ミセスらしくピアノもしっかりと存在感を放つ中、ドラマティックなストリングスが楽曲にさらなる推進力を与えている。その煌びやかな音像は、摩天楼が並ぶニューヨークの光景を連想させるもの。さらに間奏では、スパイダーマンが糸を放つ際の効果音が取り入れられている。驚かされるのは、それが単なる話題作りのギミックではなく、楽曲における大事な一要素として組み込まれていること。大胆なアイデアを見事に成立させたサウンドプロダクトに唸らされた。
MVにもまた、憧れの作品とコラボレーションできた純粋な喜びが滲み出ている。スパイダーマンのように宙を舞い、重力を無視してビルの壁を駆ける3人の姿は、超人版パルクールとでも言うべきか。男の子の夢をそのまま詰め込んだような映像で、そういう意味では、3人が魔術を操ってバトルする「クスシキ」のMVにも通ずるテンションだ。観ているこちらまでワクワクさせられる。
ところで筆者は、映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の公開をきっかけに、恥ずかしながら『スパイダーマン』シリーズに初めて触れた。そこで感じたのは「スパイダーマンは、これほどまでに喪失と孤独を抱えたヒーローだったのか」ということだった。正直なところ、かなり面食らった。
前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)で主人公のピーター・パーカー(スパイダーマン)は、自分に寄り添い続けてくれた叔母を、自らが原因となった戦いの中で失う。込み上げる自責の念、そして愛する人たちに危機が及ぶことへの恐れから、彼は世界中から自分の存在の記憶を消し去る選択をした。つまり“一人の青年 ピーター・パーカー”としての幸せな日常を自ら手放し、“世界を守るヒーロー・スパイダーマン”という役割に人生の全てを注ぐ道を選んだのだ。
その延長線上で展開される今作は、誰もピーターを知らない世界が舞台となっている。任務のために外へ出ては、次の任務に備えて自室で研究や調整を重ねる。その繰り返しだけが、彼の日常の全てになっていた。かつての恋人MJや親友ネッドの姿をSNSで追ってしまうのは、かつての日常が恋しいから。しかし湧き上がる感情を押し殺し、ヒーローとして粛々と活動する。大切な人を、そして世界全体を守るため、自身の私生活を犠牲にすると決めたのだから。しかし孤独から来るストレスがやがて彼の精神に、そして身体に壊滅的な影響を及ぼしていく。
ピーターの深い孤独と終わらない葛藤を描く今作を観ながら、「ミセスみたいだな」と何度も思った。当の3人にもしそう伝えたら、「いやいや、畏れ多い」と首を振るかもしれない。それでも筆者は、この物語にミセスの歩みを重ねずにはいられなかった。大森元貴(Vo/Gt)はどんな気持ちで「Brand New」を書いたのだろうと、胸が締めつけられた。