「JYOCHOはこれからも続くので」ーー歴史、寂しさ、温かさ 全てを音に乗せて届けた現体制ラストライブ
4年ぶりの3rdアルバム『忘れたくないこと』を6月にリリースしたJYOCHO。よりライブを意識したダイナミズム、宅録では出せないバンド感を備えた曲が増えていたが、同時に発表されたのは、猫田ねたこ(Vo/Key)が8月のワンマンライブをもって卒業、バンドはライブ活動の無期限休止に入るというニュースだった。決して嬉しいとは言えない “その日”をどう受け止めればいいのか。複雑な気持ちのまま会場に向かったファンも多いだろう。Spotify O-WESTはソールドアウトである。
ただ、開演直前、撮影や物販に関する注意事項が流れたところで緊張は緩む。どう聞いてもメンバー4人が半分遊びながらアナウンスを読み上げているもので、だいじろー(Gt/Cho)は不意打ちのように甲高い声を連発。楽しそうだな、仲いいなぁという実感が、“現体制ラスト”という言葉のシリアスさを軽やかに超えていく。事実、始まった2時間のライブは、その空気がずっとキープされたままだった。
猫田加入後、最初のアルバムの一曲目、現体制始まりの曲となる「Lucky Mother」からスタート。高原の朝焼けみたいな自然を感じるポップスであり、中心にあるのは猫田のメロディと、どこかノスタルジックで人懐っこい歌声である。これだけならJYOCHOは当然J-POPに分類されたと思うが、続く「pure circle」になると一気に変拍子やマスロック的フレーズが飛び出してくる。最も目立つのはだいじろーが十本の指を駆使する超絶タッピング。ただ、ほかのメンバーが脇役というわけでもなく、絶えず両手を動かし続けている山﨑浩二朗(Dr)の動き、変則的なリズムの上でひらひら飛び続ける蝶のように奏でるはやしゆうき(Fl)など、とにかく全員から目が離せない。
しいて言うなら、『FUJI ROCK FESTIVAL』のなかで最も玄人感の強いFIELD OF HEAVENに登場するインストバンドのよう。それなのに愛らしさやナチュラルな透明感が勝っているのは、歌の存在もあるが、何拍子かわからないが踊れないわけではない、という楽曲の骨子も大きいはずだ。笑顔で飛び跳ねる猫田はもちろん、手拍子を自然発生させる観客の“慣れ”がすごい。ポカンとするのではなく、愛情を持ってシンパシーを表現したがっている。JYOCHOに猫田が入ってから9年だが、この時間が目の前の光景を作り上げているのだと実感する。
5曲を終えて、「めちゃくちゃ練習して詰めてきました。いい景色作ります!」と猫田が宣言。そこからの3曲の流れが私には最も面白かった。まずはTVアニメ『神の庭付き楠木邸』(テレビ朝日系)のエンディング主題歌となった「うたまひ」。心に沁みる歌もので、後半のドラムが異様に展開することを除けばナチュラルなポップスである。続いては人気曲のひとつ「太陽と暮らしてきた」。前述した歌ものの魅力と、タッピングや変拍子などの技巧が真正面からぶつかり合うプログレポップの真骨頂だろう。さらにはインストの「sugoi kawaii JYOCHO」。笑えるタイトルが示すように、難解なわりに「俺すごいだろ」アピールがなく、ダンスミュージックと言ってもいい抜けのよさがある曲だ。フロアではいよいよ勝手に踊り出す人も出現。どこにもない難易度を追求しながら、いつしかフロアを巻き込むアッパーな空気が生まれていた。これもまたJYOCHOの歴史だ。「リズムに関して理解できていなくても笑顔になれる」と語るだいじろーのMCは、このバンドの本質を言い当てていたと思う。
新曲はそのムードが最も強く、後半に披露された「山川草木」や「無常の合唱」などは、過去イチでいいライブバンドになった今のJYOCHOを証明するものだった。それがいったん終わってしまうことの寂しさは全員が頭の片隅で感じていたと思うが、口にするのは野暮、という空気がまずあった。しみったれたものにしたくない。スカッと明るくやりきりたい。そういう意志をメンバーがまず示していた。もちろんフロアもそれを尊重していた。
本編ラスト手前、「話しだすと泣いちゃうかもしれない」と言う猫田に対し「じゃあ話さなきゃいいやん(笑)」とドライに返しただいじろー。このやりとりは冷たさではなく、やっぱり仲いいなぁ、という実感となり皆の笑顔を誘っていた。代わりにだいじろーが話し出すうち、ひっそり猫田が泣くシーンもあったが、「えー、泣いてる!」と茶化すことで空気は崩れずに保たれる。気を取り直した猫田が「大切な9年間でした。JYOCHOはこれからも続くので、私もみんなと同様に応援し続けようと思います」と締めることで、そして、過去曲のなかでも最もブライトな部類に入る「夜明けの測度」が来ることで、さっぱりと明るい現体制ラストライブは完遂されたのだった。
アンコールでは「この場所がめちゃめちゃ好きやなって、今思ってます」とだいじろー。ライブの予定は当面なくなるが、完全な終わりはまず来ないな、と確信できる一言だ。山﨑も「また生きて会いましょう」と笑い、はやしも「JYOCHOがストップするわけじゃない。これからもよろしく」と手を振っていたので、その言葉をそのまま信じていようと思う。信じる、なんて言葉を出さずとも、この人たちは勝手に自分たちのやりたいことをやるだろう。こんなにヘンテコで面白く愛らしいバンド、どこにもいないと自覚しているのは彼ら自身のはずだ。
<セットリスト>
01. Lucky Mother
02. pure circle
03. 悲しみのゴール
04. 366
05. Strong Body~Macho Minimal Fairy
06. うたまひ
07. 太陽と暮らしてきた
08. sugoi kawaii JYOCHO
09. family
10. グラスの底は、夜
11. 黙祷
12. 山川草木
13. 忘れたくないこと
14. はじめからすべて知っている
15. 無常の合唱
16. 夜明けの測度
EN01. やさしい天気
EN02. 惜春
セットリスト プレイリスト:https://jyocho.lnk.to/wasuretakunaikoto
■関連リンク
公式サイト:https://jyocho.com/
X:https://x.com/jyocho_jp
Facebook:https://www.facebook.com/jyocho.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/jyocho_jp_kyoto/
YouTube:https://www.youtube.com/c/JYOCHO