Blue Mash、衝動のままフロアを熱狂に包んだツアーファイナル 今この“一瞬”を鳴らす打算なきロックバンドの姿
銀杏BOYZの「BABY BABY」をバックにステージに登場した優斗(Vo/Gt)、げんげん(Gt)、荒川ソラ(Ba)、マサヒロ(Dr)の4人。ドラムを中心に集まって組んだ円陣が解かれると、優斗が歌い出した。〈ドラマみたいな出会いではなかった/大阪梅田駅に君は居なかった〉。「ホワイトノイズ」だ。続く歌詞を、彼はこう歌い変える。〈愛だの恋だの分からない/もうどうでもいいんだ/ねえ 頼むからもう居なくならないでよ〉。過去ではなく現在を、そしてこれからのことを叫ぶそんな言葉が、Blue Mashにとってこのライブが何なのかを言い表していた。メジャーデビュー後初のツアー『この街を出て』ファイナル、渋谷Spotify O-EAST。「-泣くな、東京-」という副題が付けられたこの夜を、大阪・寝屋川からやってきた4人組は満員のオーディエンスとともにひたすらに駆け抜けた。
「ツアーファイナルとかマジでどうでもいいと思ってます。今日初めてこのツアーに来たという人もいるでしょう。おまえにとっては1本目、俺にとっても1本目。今日で解散してもいい、そのつもりで俺はステージに立ってる。青春は一瞬、青春は一瞬!」。「ホワイトノイズ」を終えて優斗が放ったそんな言葉にフロアが波打つように動き出す。そして鳴らされた「セブンティーン」。バンドとフロアがガチっとスクラムを組み、ともにこの一夜を作り上げる、その覚悟が固まった瞬間だった。“特別”なんて簡単な言葉ではとても言い表せない、傷跡のように深く記憶に残り続けるライブが幕を開けたのだ。
「『セトリがよかった』はいりません。『曲がよかった』もいりません。『演奏がよかった』もいりません。『生きててよかった』って言ってくれ」。3曲目「M19」、早くも優斗のギターの弦が切れる。すかさずローディが代わりのギターを持ってくるが、彼は持ち替えを拒否。「弦が切れても思いは途切れません!」。きれいな音を鳴らすことでも、上手な歌を歌うことでもない。Blue Mashがこの場、この瞬間に何を届けたいのか……いや“届けたい”ですらないのかもしれない。「アイドル観に来たんなら帰ってください」とギターソロに入るげんげんを指して「いちばん不細工なギター!」と叫び、「あなたの好きなバンドはね、歌が下手ですよ。これでもボイトレ行ってるんですよ。ギター、下手でしょ。ギターレッスン行ってるんですよ」と言い切る優斗は、何も整理されていない気持ちを整理されていないままにぶちまけるだけだ。
「あなたの好きなバンドの客はすっごい汗だくで、全員俺みたいな前髪してますよ。きれいにメイクしてきたんでしょ? 残念、不細工ですよ。それでいいやろ! あなたが好きなバンドは不細工4人組です!」。げんげんもソラも隙あらばフロアに飛び込み、そのたびにバンドのアンサンブルはぐっちゃぐちゃになり、テンポもヨレまくる。たしかにお世辞にも“うまい”とは言えないかもしれない。でもそんなことは優斗がいうとおり関係ない。ここで何かが燃えていて、その熱と勢いに心と頭が吹っ飛ばされ続ける、それこそがロックバンドのライブを観るということだからだ。とにかく燃えている。燃え尽きてもいいという向こう見ずな姿勢と、でも絶対にこの炎は消えないという確信が、このバンドを走らせている。
「春のまま」に「死にたくなったら会いにきて」、そして「恋人のすべて」。MCでメンバーと楽屋みたいな会話を繰り広げ、曲ごとに歌うのと同じレベルで喋りまくり、普通ならとっ散らかってしまいそうなライブだが、最終的にはバンドのかき鳴らす音と叫びのような歌が全部をひとつの物語にしてしまう。それはBlue Mashの音楽が、打算や戦略とは無縁の場所で、居ても立っても居られない感情のままに生み出されているからだろう。マサヒロのドラムのラッシュから「桜新町」が繰り出される。ツアー中に作ったという新曲「若者白書」を「僕の決意の歌です。心躍らせるために歌うんや!」という言葉とともに披露すると、まだ足りない、まだいけると感じたのか、「ちょっと、もう1回やろうか」と同じ曲をもう一度演奏する。「この曲が、2026年の俺らの代表曲です!」。先ほどよりも明らかに盛り上がるフロアを前に鳴らされた2回目の「若者白書」。このバンドはこうやって自分たちの音楽を血肉化し、さらには目の前にいる一人ひとりのものにしてきたのだろうなと思う。
気がつけば、もうライブは後半に差し掛かっている。「少女」を終え、いっときの静寂がO-EASTを覆うなか、優斗がギターをかき鳴らしながらそれまでとは少し違うトーンで話し始めた。これまでメンバーチェンジを繰り返してきたBlue Mash。ようやく出会え、メジャーデビューという節目をともに迎えることができたメンバーに「俺とバンドやってくれてありがとうございます」と感謝を伝えると、彼は「次の曲を書いてたとき、やめようかなと思っていた」と告白した。上京後、彼は曲がまったく書けなくなっていた。「書いても書いても誰かの曲みたいで。何者かになりたいなって思うたびに自分にもなれなくてさ」――そう言うと即興でこれまでのこと、そして音楽への思いを歌い始めた優斗。そのストーリーが〈新大阪駅のホームが最後/もう君に会うことはないね/僕は東京へ行きます〉と始まる「泣くな東京」へとつながっていく。感情を昂らせながら歌うその姿が、一度張り直したはずなのにいつの間にかまた弦が切れているギターが、〈生きてかなきゃ〉という最後のフレーズが、その傷だらけの旅路を照らし出す。
優斗の「俺より先に死ぬんじゃねえぞ、Blue Mash、武道館やるから」という宣言とともに「ロックバンド症候群」が投下されると、溜めに溜めた感情を爆発させるように、ステージの上も下も大暴れ。クラウドサーファーが続出し、ここに来てO-EASTのボルテージはさらなるピークを迎える。そして「二度と言うことないと思いますけど」と断りながらビクターエンタテインメントのチームに感謝の思いを伝えると最後の曲へ。「武道館で会いましょう」――そんな言葉と、会場中で声を合わせた「ワン、ツー!」の声から「海岸線」へ。曲を終えると優斗は「バンドって夢あるっすね! バンドってかっこいいっすね!」とステージに倒れ込んだ。
その後のアンコール。Blue Mashは「すべてのバンドに愛を込めて」と告げて「君がバンドを辞めた夜」を歌った。先ほど、本編の最後で優斗が言っていた「Blue Mashが永遠に続くとは思っていない」という言葉が甦る。この曲は彼があるバンドの解散ライブを観に行ったことをきっかけにできたものだという。終わりはいつか来る。だからこそ今を刻み続け、約束をし続ける。だからこそ彼らは〈アンコールが鳴り止まない/夜を探している〉のだ。少なくともこのツアーファイナルは、そう呼ぶにふさわしい夜だったと思う。曲がよかったとか演奏がよかったとか、そんなのいらねえと優斗は言っていた。でもあえて言おう。この日Blue Mashが見せたのは、ロックバンドが見せる最高の曲と最高の演奏に満ちた、最高のライブだった。