加藤ミリヤ「誰もが愛されるべき存在」 デビュー20周年と第3子出産を経て、葛藤の先に掴んだ“歌う理由”

加藤ミリヤが伝えたかった“自分と向き合う”本質

――4月にMVが公開された「ないものねだり」では、どんなことを歌いたかったんですか?

加藤:今の世の中に必要な歌にしよう、と。10代の頃は何にでもなれると思っていたし、20代もまだ勢いがある。でも30代になって家族ができると、自分に100%ベットできなくなって、いろんな制限がかかってくる。やりたいことにも、100%で向き合えなくなっていくんですよね。でも、もっとこうしたいって気持ちは今でもあって。要は「隣の芝は青く見える」っていうことだと思うんです。

――周りが羨ましく思えてくる。

加藤:SNSでいろんな人の生活が見えるぶん、自分の軸がブレやすくなるし、私はそれで生きづらさを感じるんです。たとえば私だったら、「1日ぐらいキム・カーダシアンになってみたい」とか(笑)。そう思ったとしても、本当は誰かみたいになりたいわけじゃない。自分のことに集中していればそういう発想も出てこないはずなのに、目に入るものが多すぎて、つい比べちゃう。そういうしんどさを感じている人は多いんじゃないかなって思ったんです。

――そういう人たちに、この曲を通してどんな言葉をかけたかったんですか?

加藤:自分に集中すること。悩むのは自分と向き合っている証拠だと思うし、悪いことじゃない。でも、自分として生まれたからには、自分として生きていくしかないじゃないですか。だったら、自分の人生がどうなれば自分を認められるようになるのか。それは日々を楽しんでいくことだと思うんです。そこで、ただ「大丈夫だよ、頑張ろうよ」っていうんじゃなくて、「しんどいよね」っていう気持ちを共有したかったんです。

加藤ミリヤ『ないものねだり』

――MVはのコンセプトについても教えてください。

加藤:「何者かになりたい」と思っている人が主人公なんです。自分の居場所はここじゃないのにな、って思いながら結局そこにいるっていう。だから、救いのないMVなんですよ。最後も目の前の現実を受け止めて歩いていくっていうストーリーなので。

――ミリヤさんはよく孤独感をテーマにしていますが、この曲は惨めさや自己嫌悪が滲むんですよね。

加藤:確かに、孤独の話ではないですね。

――夢ばかり追いかけていられない。でも、その現実を否定しているわけではない。そこがポイントかなと思いました。

加藤:もともと私って現実的なタイプなんですよ。「これがしたい」と思っても、無理だと思うことは「難しい」と思っちゃう。でも、その現実を受け止めたうえでどうしていくか。それが大事だと思ってます。

――アルバムラストの「Saving Grace」は、昨年生まれた第3子に向けた歌ですか?

加藤:そうです。すやすや寝ている姿を眺めながら書きました。やっぱり新生児って神々しくて、ただそこにいるだけなのにすごいパワーがある。自分にとってだけじゃなく、この世界にとっても、その存在が“希望の光”みたいに見えたんです。同時に、私たちもかつてはそうだったんだよなって思ったりして。子どもたちの存在が、自分の救いになっているなと思って書きました。

――この曲を書いてから、アルバムタイトルを『Velvet Grace』としたんですか?

加藤:同じぐらいのタイミングでしたね。3年前くらいから教会によく行くようになったのが大きくて。今は赤ちゃんが生まれたのであまり行けないんですけど、当時は週1くらいで通っていて、そこでのお祈りが「今、自分はこれが辛いんだな」と気づくきっかけになったんですよ。家だとなかなかメディテーションもできないから。

――子育てで慌ただしくて、それどころじゃないでしょうから。

加藤:そうなんですよ。だから意識して時間を作って行くようにしています。ライブの前も、お祈りしてからステージに向かうようにしたら、集中できるようになりました。自分の中で、もっと深いところで音楽と繋がる意識を持てば、より没頭できるんだなって。それは大きく変わりましたね。生きているといろいろあるけど、やっぱり私って恵まれているな、恵みを与えてもらっているな、と感じるようになって。そこから「Grace」という言葉が自分の中に入ってきたんです。

――「Velvet」は?

加藤:今の自分を表す言葉としてつけました。ヴェルヴェットって上品な感じもあるし、重厚感もある。10代の私のアルバムには絶対つけられないし、20代の私にもまだ早いと思うから。あとは語呂とか見た目ですね。“V”って可愛いなっていうのもあって(笑)。

――前作はミリヤさんとしての強さや母としての強さ、ひとりの女性としての強さが出ていた気がします。今回のアルバムは、“弱さ”が透けて見える印象です。

加藤:うん、強さではないですね。教会に行くことで自分と向き合えるようになったし、自分の弱さも認めるようになった。ただ受け入れる、という感覚に近いかもしれないです。受け入れて、自分と向き合い、凛として立つ、みたいな。

――自分の弱さを認めている時点で強いと思いますが。

加藤:どちらかというと、自分の中にあるネガティブな感情を音楽で昇華できることに感謝している、という感じかも。音楽というものを与えてもらって、それが自分にとっての恵みになっているんだなって。私は、嬉しい時より悲しい時のほうが曲を書きたくなるから。そういう時に聴いてもらえる存在でありたいなって思ってますし。

――じゃあ、少し落ち込んでいる人に、このアルバムを聴いてもらえたら。

加藤:そうですね。自分と向き合いたい方に聴いてもらえれば、何か発見があるかもしれないなと思います。

過去曲の再発見ーー中国でのバズと“アーカイブ”が持つ真の強み

――ところで、先日「THE FIRST TAKE」で「SAYONARAベイベー」と「HEART BEAT」が公開されました。まず、この2曲を選んだ理由を教えてください。

加藤:2曲歌ってほしいと言われて、1曲は「SAYONARAベイベー」を希望されたんです。中国で「SAYONARAベイベー」がバズっているとも聞いて、今の時代でも惹かれる要素があるんだなって。もう1曲も過去曲から選んでほしいと言われて、すごくハッピーな曲をやりたいと思って「HEART BEAT」にしました。「これ別人じゃない?」っていうくらいの曲をやったら楽しいかなと思って(笑)。

――「SAYONARAベイベー」は、昨年末から中国でダンス動画や歌詞動画が投稿されるようになって再生数が急増しましたが、どんなところが受け入れられているんだと思いますか?

加藤:自分ではわからないですけど、作った時から自信があった曲で。今聴いてもかっこいいと思うからライブでずっと歌っているし、古さを感じない。そういう曲ってあまりないと思うんですよね。

加藤ミリヤ - SAYONARAベイベー / THE FIRST TAKE

――SNSなどで過去曲が再発見される流れについてはどう感じていますか?

加藤:最初はあまり前向きに捉えられなかったんです。「アーカイブ、アーカイブ」ってスタッフに言われて、新しいものに力が入らないのは嫌だなと思っていたから。でも、過去の曲も別軸で広がっていく可能性があるんだなって。今は新しい曲も作りつつ、アーカイブがある強みも感じています。

――ライブでの過去曲の扱いはどう考えていますか?

加藤:私は結構アレンジしちゃうから、どんどん変わっていくんです。変えすぎて、本当の歌がどうだったかわからなくなったりとか(笑)。ただ、今回の「THE FIRST TAKE」の反響を見て、私と同時代を過ごしてきたみんなが、当時の自分に戻れるような体験になるのはすごくいいなと思いました。

加藤ミリヤ 『SAYONARAベイベー』

――過去曲の再評価は、新作の制作にも影響していますか?

加藤:直接的にはないですけど、ヒントはもらえるかも。売れてる曲には理由があるんだろうし、その時の背景もあると思うんですよ。

――「SAYONARAベイベー」は20代になって初めて出したシングルでしたね。

加藤:当時、ここまで恋愛の駆け引きを書いたことがなかったから、「サビを男女の会話にして、夜の匂いがする歌をやろう」と思って。それがちゃんと届いたんですよね。だから、奇をてらうところまではいかなくていいけど、目新しさのあるものを探しながら、新しい曲を作っていきたいと思います。

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