さだまさし、活動53年目の哲学 人生、戦争、SNS――混迷の時代を射抜く最新作にして最高傑作

 さだまさしからニューアルバム『神さまの言うとおり』が届けられた。

 前作『生命の樹〜Tree of Life~』から1年ぶりとなる本作は、ソロ通算46作目、グレープ時代のアルバムなどを含め通算51作目。今年で活動53年目を迎えたさだは、デビューから一貫して、ほぼ1年に1枚のペースでアルバムを発表し続けていることになる。

現在進行形の社会への鋭い眼差し、ジャンルを凌駕する音楽性

 これまで積み重ねてきた経験や研鑽された芸術を活かしながら、“これぞ、さだまさし”という納得感、そして、“こんなさだまさしは聴いたことがない”という驚きを共存させる。ありふれた言葉で申し訳ないが、本作『神さまの言うとおり』を聴いて“最新作が最高傑作”を継続させるさだまさしの凄さを改めて実感することができた。

さだまさし 5/13 New Album『神さまの言うとおり』Teaser

 1月に制作がスタートした本作。1~2月にかけてタイトル曲の「神さまの言うとおり」(映画『お終活3 幸春!人生メモリーズ』主題歌)を制作し、そこから3月のわずか約1カ月間で残りの9曲を一気に完成させたという。楽曲の並びをイメージし、“今歌いたいこと”と“音楽的な広がり”を両軸に構成された本作には、現在進行形のさだの創造性が瑞々しく反映されているのだ。

 まず印象に残ったのは、現在の社会や世界とリンクした歌だ。2曲目の「イップス〜yips〜」は〈誰にもまだ言ってないけど/僕の心が イップスになったみたいだ〉という告白から始まる。歌詞のなかには、ホルムズ海峡に停泊したままのタンカーや〈ザポリージャの老婆〉を描いた一節もあり、これは言うまでもなく、今世界で起きている争いを背景にしている。また「ふりだしにもどる」では、承認欲求と向き合わざるを得ない現代人の心のありようを描き出し、「美しい雨の名前」はメールやSNSを介してではなく、自分自身の目で物事を見つめること、直接コミュニケーションを取ることの大切さと愛おしさを歌う。これらの楽曲に共通しているのは、さだが“今”を歌い続けていることだ。声高にメッセージだけを主張するのではなく、音楽としての美しさをきちんと守りながら、詩的な表現として「これはどうなの?」「おかしくないですか?」と投げかける。この繊細にして絶妙なバランス感覚があるからこそ、さだの楽曲は時代性と普遍性を同時に提示することができるのだと思う。(ちなみに、ウクライナ戦争を受けて発表された「キーウから遠く離れて」(2022年)は、今年の春、英訳の歌詞を付けてYouTubeにアップされた。今後も既存曲の歌詞の英訳するプロジェクトが進んでいるということなので、さだの歌が英語圏にも広がっていくことになるだろう)

さだまさし 5/13 New Album『神さまの言うとおり』Trailer〈前編〉

 「やかましい妖精」の歌詞も心に残った。心の中に“やかましい妖精”がいて、〈今までに無い歌を作りなさい〉と指導される。常に自分を俯瞰している自分が存在していて、そいつがダメ出しするので頑張らざるを得ないということだが、これはもちろん、さだ自身の創作に対するジャッジの厳しさについての歌だ。そうやって自らを律しているからこそ、さだは50年以上にわたって音楽シーンのど真ん中で活躍を続けられるのだろう。

 「やかましい妖精」は音楽的なアイデアでも際立っている。基調になっているのは、歌とバイオリンのユニゾンだ。冒頭から歌とバイオリンが同じ旋律を奏でながら楽曲が進んでいくのだが、このアレンジにもまたーーシンガーであると同時にバイオリン奏者であるーーさだの特徴がはっきりと現れている。

 クラシックのルーツが最も色濃く出ているのは「夏の名残」だろう。アイルランド民謡をモチーフにしたH.W.エルンストの楽曲「夏の名残のばら」をバイオリニストの河井勇人が演奏。それを前奏、間奏、後奏に配し、そのなかで、花と人生を交差させるような叙情的な歌が奏でられる。

 「イップス~yips~」「身も蓋もないBOOGIE-WOOGIE」「神さまの言うとおり」では、管楽器隊をフィーチャー。特に「神さまの言うとおり」は本格的なジャズのビッグバンドが実現していて、まるでフランク・シナトラを想起させるようなゴージャズかつオーセンティックなサウンドが響いている。総勢23人によるアンサンブルを通して、音楽本来の豊かさを感じてもらえるはずだ。

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