「バッド・バニーによる“ゲームチェンジ”を目撃した」鈴木竜馬氏がグローバル市場から学んだ、日本の音楽ビジネスに必要なこと
ストリーミングの普及により、音楽ビジネスの勢力図は激変した。特にグローバルではその動きが顕著で、インディーズのシェアが50%に迫る勢いで拡大。バッド・バニーのような独立系スターがチャートを席巻するなど、いまビジネスモデルの再編はかつてないスピードで加速している。
この地殻変動の最前線に立ち、The Orchard Japanを率いてきた鈴木竜馬氏は、現在の音楽シーンをどう捉えているのか。
リアルサウンドでは、この春よりソニー・ミュージックソリューションズ(SMS)執行役員専務に就任し、The Orchard Japan エグゼクティブ・アドバイザーを兼任する同氏にインタビュー。ディストリビューターとして駆け抜けた激動の4年間と、音楽の枠を超え「エンタメ総力戦」へと踏み出す新たなる挑戦について語ってもらった。(編集部)
インディーズのシェアは50%に 欧米で加速する音楽ビジネスの再編
ーーこの3年間の音楽ビジネス全体における大きなトピックとして、グローバル市場の変化が挙げられます。前回お話を伺った際にも、インディーズの権利楽曲のシェアが非常に伸びているということでしたが、現在は市場の50%近くに迫っている状況です。まずはこの点について伺えますか?
鈴木竜馬(以下、鈴木):ストリーミング時代に突入し、メジャーレーベルと契約しなくてもThe Orchardのようなディストリビューターと組むことで、世界に音源を届けられるようになりました。これにより、ヒップホップなどのアーティストを中心とした、マスマーケットを持たなくても深くファンに刺さる楽曲を持つアーティストたちの音源が、目の前だけでなく全世界に届く状況になっています。
同時に、こうしたサービスが台頭してきたことで、ソニーミュージック、ユニバーサル ミュージック、ワーナーミュージックといった三大メジャーレーベルのシェアが押され始めている。そこで各社は体制を再編し、ワーナーが早々にADAを傘下に収めて新しいディストリビューションの仕組みを持ったり、ユニバーサルのVirgin Music GroupがFUGAの親会社であるDowntown Musicと統合したりする動きが出てきています。ご多分に漏れず、米国のソニーミュージックも最大手のThe OrchardやAWALが傘下にあり、さらにはスペインを中心に強いAltafonteといった競合にインベストしてM&Aしていくという動きもある。メジャー三社の下にそういったディストリビューターが入っている構造ではありますが、それを抜きにして話すと、インディーズと呼ばれる領域のシェアはグローバルではすでに50%に迫る、あるいは一部では50%を超えているという市場リサーチのデータも出ています。
個人が自ら音源を作って配信する、いわゆるDIYで活動を行う層も日本で言えばTuneCore Japanのようなサービスが門戸を広げています。ストリーミングというマーケットの特性上、インディーズは引き続き拡大傾向にあると思いますね。特に今後、生成AIの発展により、より大きなマーケットになっていくと思います。そこにはまた良いことも悪いこともありますが、それについてはまたの機会に。
ーー自ら楽曲を配信することができる一方、ディストリビューターに流通を委託するメリットはどのようなところにあるのでしょうか。
鈴木:実際はSpotify、Apple Music、YouTubeといったプラットフォームは、個人に直接アカウントを出すことが難しいため、音源を流通させるパートナーとして我々のような存在が活躍しています。一部、アジアのテックカンパニーなどがDIY向けに音源ができたらすぐに流通できる仕組みを提供しているようですが、我々を通す最大のメリットはアナリティクスツールの活用、グローバルなネットワーク、そして蓄積された知見にあります。そのアドバンテージに対して受託料をいただいている形です。
ーーディストリビューターは、TuneCoreのような「セルフ配信型」と、The Orchardのような「一緒になって策を練って広げていく」スタイルの2つに大別されるということですね。
鈴木:そうですね。我々のようなBtoBを基軸にするディストリビューターの基本的な特徴は、原盤権や出版権を持たないことです。もっとも、出版を持たずにやってきたのが我々の歴史ですが、昨今ではたとえばThe Orchardのグループ会社にSMP(ソニー・ミュージックパブリッシング)があるため、我々のクライアントの音楽出版周りをSMPに預けるなどし、タイアップやメディア戦略に流用するなど良い意味で領域がシームレスになってきています。原盤を持たない中で、出版や著作権の管理をどう補えるかが競合との差別化のテーマです。
TuneCore Japanはその点を上手くやられていて、アカウントを作った個人に対して著作権管理の仕組みを提供しています。アマチュアの人たちに「著作物を作った人にはこういう権利がある」というリテラシーを啓蒙し、手数料を分配する仕組みは素晴らしいです。我々BtoB側もグローバルなタイアップや放送の二次利用に対してどうフォローアップできるかを考えていて、The OrchardではKobaltのNeighbouring Rights事業を買収するなどしてサポートを強化しています。
ーーある意味でビジネスモデルの組み直しが進んでいると。The Orchardも競合がひしめく中で、ビジネススタイルのベースは変わらないものの、選ばれるための付加価値が求められているのですね。
鈴木:そうですね。単に手数料の大小ではなく、我々はサービスの手厚さで勝負しています。以前は純粋なディストリビューションという領域にこだわっていましたが、今はさきほどの出版や著作権周辺のカバーに加え、IndieMerchというグローバルEコマースに長けたマーチャンダイジングの会社を買収するなど、360度ビジネスを展開しています。 インディーのレーベルやアーティストがツアーに出る時のグッズ制作や出版サポート、SNSの運用など、どのレーベルにとっても今は360度のマネジメントサポートが必要になっています。
欧米の音楽ビジネスはメジャーを中心にこれまで完全に役割が「縦割り」のカルチャーがほとんどだったんです。しかし今のThe Orchardはそうした機能をどんどん内製化し、マージすることで「これだけの360度サポートを提供します」とレーベルやアーティストに対して提案しています。
YOASOBIが昨年イギリスのウェンブリー・アリーナで公演を行った際には、SMEIとThe Orchardが協業し、メールマガジンのスキームを使って現地でダイレクトマーケティングを行いました。日本でいう「ファンクラブ先行販売」のような形でチケット販売を行ったところ、ものすごい効果がありました。今やディストリビューターがチケットのプレセールスまでサポートできるという良い実例で、グローバルの会議でも素晴らしいケーススタディとして紹介されました。SNSや周辺ビジネスを含め、日本が先行していたファンマーケティング領域のノウハウを応用できる可能性は非常に高いです。