優河、単身渡米と変化の日々を超えてビルボードライブへ 「『私はこれでしかない』と思えています」
単身渡米の決断「初めての場所にひとりで行ってみたら、何ができるんだろう?」
――そのLAでレコーディングされた『All the words you said』のアナログ盤がリリースされましたよね。本当に素晴らしいEPだったんですけど、そもそも渡米に至った経緯はどういうものだったんでしょう?
優河:『Love Deluxe』を出した2024年もまた、傷つくことが重なってしまって。「日本の音楽業界でやっていくのはこんなにも大変なんだな」と思ってしまったんです。同じ感覚を持っているミュージシャンたちと一緒に演奏できている一方で、私の音楽を売る側の人たちからもいろいろな影響を受けてるんですけど…………今はどこの国もそうなのかもしれないけど、曲ができたらすぐリリースして、すぐ売っていかなければ回っていかないっていう感覚が強いから、どうしても消費されているような気がしてしまうんですよね。お客さんには純粋に受け取ってもらえることが多いけれど、音源を作ってお客さんに届ける、売っていくという過程のなかにはたくさんの人が関わっているから、いろんな感覚があるし、いろんな価値観がある。そのなかで傷つくこともあって。さらにそういう憤りがありながらも、「私ひとりでは何もできない」という気持ちもあって。やっぱり一緒に音を作るプロデューサーの岡田拓郎くんやバンドメンバーの力が本当に大きいと思うし。そんなことがあったので、「初めての場所にひとりで行ってみたら、私には何ができるんだろう?」って考えて、単身渡米することにしたんです。もちろん、Yohei(Shikano)さんがいたからこそできたことだし、決してひとりの力だけではないんですけど。
――実際に行ってみていかがでしたか?
優河:ジェイさん(ジェイ・ベルローズ/『All the words you said』でドラム&パーカッションを担当)さんとジェフさん(ジェフ・パーカー/『All the words you said』でエレキギターを担当)が、「君と一緒に演奏するのは本当にご褒美みたいなものだよ」と言ってくれて。現地ではほとんど無名な日本からやってきたアーティストに対して、わざわざ言わなくてもいい言葉なのに、伝えることを選んでくれたふたりの言葉を信じないわけにはいかないし、本当にそれっていちばんの宝物だなと思って胸のなかにしまいました。実際、3人でスタジオに入ってセッションしてみても、今まで自分に対して「足りてない」と思ってきたことに対して、「いや、足りてるのかも」「足りないことなんてない」っていうふうに思うことができたんですよね。もちろんスタジオで歌ってはいるんですけど、本当に私が何もしていないような感覚――すなわち“足りている”という感覚を持てたことはすごく大きかったです。もしかしたら私はもっといろんなことができるのかもしれないし、最後には自分の声が味方してくれるんだなってことにも気づけました。
それから日本に帰ってきて、ミュージカルがあったのでライブ活動はしばらくできなかったし、さっき言ったようにプライベートでもいろんなことがあったんですけど、LAの経験があったから、無理やり「元気です!」って歌う必要はまったくなくて。「不安定な時は、そのまま不安定な波を使えばいい」って、自分で自分の大きな波を肯定できるようになったのはすごく意味のあることでした。
――だからこそ、歌詞も今まで以上にシンプルなのかもしれないですね。見ているものをありのまま描くことで、優河さんの内側がスッと出てきている感じがしましたし、そこにジェイさんとジェフさんが自然に音を合わせている。こういうゆとりのあるバランス感って、東京で忙しなく生きていたらつい忘れてしまう気もしますし、“本当のこと”を思い出させられたような気がしたんです。
優河:とても嬉しいです。たとえば、「このレベルに見合わないといけない」とか、「これくらいのフォロワー数がいなくちゃいけない」とか、生きているなかで知らず知らずのうちに受け取っている情報のせいで、いかに自分が「足りていない」と思い込まされているか……そういう無意識の尺度が、こんなにも感覚を狭めてしまうんだなって思うと、すごく怖いんですよね。私自身もまさにそうだったんですけど、LAのスタジオに入って、ピュアな音だけの世界にいられたことが本当によかったなと思います。
――『All the words you said』で、個人的に「Konomama」がすごく好きなんですけど、波や川や風をそのまま切り取った歌詞が、どうしてこんなにも胸の奥に入ってくるんだろうなと思って。でも今の話を聞いて、削ぎ落とされた空間で必要な音“だけ”がパッケージされているし、そのなかでドラムが山のような雄大さを自然と担っていたりもするから、優しさや思い合いが演奏に表れていることが大きいのかもしれないなって思いました。
優河:そうですね。自分だけで完成する必要はないんだなとも思えましたし、自分だけで完成していたらつまらない。「Konomama」とか「Touch of rain」って途中までしかどうしても歌詞が出てこなくて、「足りないな」って感じていたんですよ。でも、演奏してみたら「むしろ足りてるな」「これしか出てこないんじゃなくて、これがいいのかもしれない」って思えた。求めるものがトゥーマッチになりすぎていたのかもしれないです。
――なるほど。昨年末に、今度のビルボードライブ公演と同じバンド編成で行われた吉祥寺キチムのライブ(『Sayonara 2025』)を観させてもらいましたけど、あまりにも素晴らしいライブで。どうしてこんなにもよかったのか、年末年始ずっと考えてたんですよ。
優河:ええ(笑)!?
――それくらい素晴らしいライブだったんですけど、優河さんも含めてメンバーが6人いるから、普通だったら6人分の音圧でドーンと圧倒するのが聴きどころになりそうなところ、すごく音作りにゆとりがあって、曖昧さや余白が残っている気がしたんですよね。それなのに一音一音ははっきりと粒立っていて、そこに歌がスッと入っていくのが抜群に気持ちよかった。そういう、まどろみのなかにある手触り、移ろいゆく時代における確かなことが表現されているような気がしたというか……抽象的なんですけど、そんな気持ちになる演奏でした。
優河:ああ、なるほど。森(飛鳥/Pedal Steel)くんが加わったことで人数としては増えているんですけど、確かにあの時のライブって音数が本当に少なくて。去年の後半から森くんと一緒に演奏する機会が増えて、彼の音楽が大好きだったから、バンドに入ってもらいたいなと思って。でも人数的に多くはあるので、余白をどう作れるかなと思っていたのですが、メンバーみんな本当にすごい感覚の持ち主だから、ひとり増えたことで、それこそ“何もしない”をする瞬間が増えたと思います。それってとても贅沢なことだと思う。(周りが出す音を聴いて)何が必要かを瞬時に察知して鳴らしている。だから、言っていただいたように演奏にゆとりがあったし、それぞれが必要だと思う音をポンって置いていけたというか。“足りている”って思えているからこそ、みんなが出す音もミニマムになっていた、というかしてくれていたんじゃないかなと思います。