今井美樹は8年ぶりのアルバムになぜ『smile』と名付けたのか? “あの頃”との向き合い方、原点への立ち返り

布袋寅泰が音楽家として具体化していった今井美樹の“心”

――アルバムは『smile』というタイトルになりましたが、その根底にあるのはツアータイトルにもなった『Our Songs!!』なわけですね。当初は“Our”(私たち)の意味って、今井さんとファンの皆さんとの関係性を示したものだったわけですが、この新作を聴いて感じたのは、リスナーにとって“Our”のなかにパートナーや子どもたちも含まれていて、“Our”の母体がどんどん広がっているということでした。かつて一対一で共有していた音楽が、今では家族で楽しむものに変化している。それが今の今井さんが生み出す音楽であり、伝えるべきメッセージになったのかなと感じたんです。

今井:すごく素敵な解釈ですね。ありがとうございます。

――どの曲も“あの頃”に僕たちが今井さんの音楽から感じた瑞々しさが感じられると同時に、今の年齢だから表現できることもたくさん見受けられる。それは歌もそうですし、サウンドに関しても同様で、ちゃんと40年の積み重ねが伝わってきて、だけど今の僕らの年齢で聴くからこそめちゃくちゃ刺さるものがありました。

今井:よかった。アラウンド60じゃないと伝わらないようなことばかりだったので、若い人にも届いてくれたらいいんだけど(笑)。

――「こういう大人の生き方も素敵だね」と感じてくれる若い世代も、きっといるはずですよ。

今井:だったら嬉しいですね。

――本作のなかで個人的に印象的だったのが、5曲目の「美しい場所 ~Final Destination~」とラストの「Life is a journey」。それぞれに“Destination”(行き先/目的地)と“Journey”(旅/道のり)という象徴的なワードが使われていますが、今の今井さんが歌うからこそ響く曲であり、重みを感じるワードだなと思いました。

今井:ありがとうございます。このアルバムの制作に向けて、一昨年の暮れくらいから曲を集め始めたんですけど、そのなかに美奈ちゃん(川江美奈子)の「Life is a journey」が含まれていて。美奈ちゃんは一昨年一緒にツアーもまわってくれていたんですけど、実は「Life is a journey」はそのツアー中にはもうできていたそうなんです。バンドメンバーには先に聴かせたりしていたらしいんですけど、ツアーが終わるまで私に聴かせるのは待ってくれていて。で、ライブが終わったあとに「Life is a journey」や「ワンマイル」、あと数曲準備してくれたんです。私自身も美奈ちゃんの曲が歌いたかったですし、何より一緒に旅をしてきたというのもあるし、ここのところ制作における大事なパートナーでもあるし。女性としての目線で描いてくれる世界も思わずニヤッとしてしまうものだったので、このアルバムはまず「Life is a journey」と「ワンマイル」から始まったと言っても過言ではないんです。

――そうだったんですね。

今井:むしろ、それ以外については何も決まっていなくて。でも、『みんなのうた』(NHK総合/NHK Eテレ)のお話をいただいて、布袋さんが「だったら僕が、ちょっとドライブ感のあるルーズな曲を書くね」と、「青空とオスカー・ピーターソン」を作曲してくれた。そういうふうにして、ちょっとずつ曲が集まってきたって感じなんです。だから、「旅の目的地はあそこね」と決めたくらいで、どういう行程になるか見えないままスタートした旅だったので、不安しかなかったです(笑)。だって、たとえば「乗り物は何で行くか」とか「どこで給油するか」とか、旅の行程があまりにもざっくりしたものしかなくて、日にちだけはどんどん過ぎていくし。そんななか、私にちょっと喉のトラブルがあって、声が一切出せなくなってしまって。1カ月くらい作業がストップしてしまい、河野(圭)くんは超多忙で別のツアーも入っていましたし。まず彼に2曲録ってもらって、1カ月後に別の曲を録ってもらうという大雑把なスケジュールで、作業の遅れを取り戻していきました。そんな状態だったから、仮歌を録ったりキー合わせすることもできなくて。しかも、核になる曲がないまま、いい感じに曲が集まっていったので、何を核にしてアルバムをまとめるのかがはっきりしないまま作業を進めなくちゃいけなかったんですよ。

今井美樹 -「青空とオスカー・ピーターソン」Lyric Video(NHKみんなのうた)

――まさに“Journey”だったわけですね。

今井:今回は布袋さんもプロデューサーとして入ってくれていますけど、最初はいち作家としてのみの参加だったんです。でも、今井美樹チームだけではいろんなことが進まなくなってしまって。そこで「この手の曲が足りないんだったら僕が書いてみるよ」って、次第に介入するようになりました。私としては珍しく、今回は1曲目と2曲目はアップテンポでいきたいという絶対的な思いがあって、スタッフにも再度アップテンポの曲を集めて探さなきゃと話していたんです。そんな声を聞いて布袋さんが新たに書いてくれたのが「Because of you」なんですね。

 ただ、今回はどんなふうに始まってどんなふうに終わるかっていう、アルバム一枚としての流れみたいなものが自分のなかに最初から起承転結として存在していて。だから、どうしてもアップテンポの曲がほしかったんだけど、何でもいいわけじゃない。曲は集まってくるものの、なかなかイメージ通りにはならなくて、すごく苦しい時期もありました。そこに途中から布袋さんが入ってくれたことで、私が感情的にしか伝えられなくてジレンマに感じていたことを、彼は音楽家として具体的に形にしてくれたんですね。

自分の足で走り切った充実感「だから、こんなにもハッピーでいられるんでしょうね」

――いろいろ滞っていたことが一気に動き出したんですね。

今井:以前だったら、「わかった、OK」と受け入れていたことも、今回はどうしても「う〜ん、ピンとこない」「違うの」と立ち止まって進まなくなることも多く、それは布袋さんにだけなく、河野くんとのアレンジの時もそうだったし、ミックスの時もエンジニアの方に「もっとこうやってみたいんです」とか、本当に悩みが尽きなかった。歌も、どれだけトライさせてもらったか。本当に牛歩みたいな感じだったんです(笑)。でも、それをやることによって確実にベターなものになることがわかっていたから、みんなが受け入れてくれて。

 最後の最後までトライしたいことはなんとか時間をやりくりしてでもやる、今回は本当にそこにこだわったなあ。意地だったかも(笑)。迷惑よねえ、みんな。旅の途中で思いがけず寄り道をしてみたり、それこそ忘れ物をしたから戻ったり(笑)、先々で出会うことの喜びが大きく歩みを進めてくれたり。ギリギリまで「『この旅は楽しかった!』っていうことにしたいよね」って言っていました。関わってくれたすべてのミュージシャン、作家さん、エンジニアさんたちみんなで最善を探しながら、最後の最後にちゃんと船を港に着けることができたのかな。皆さんが「すごく楽しい制作だったね」と言ってくださったことも、個人的に本当に嬉しかったです。

――ハッピーな気持ちで制作を終えられた、と。

今井:正直、こんな気持ちで終われるなんて思っていなかったんです。それは、私が一生懸命にコロコロ転がりながら、歩いたり、走って立ち止まったりしている両サイドを小旗を振りながら、制作に参加してくれたみんなが「いけーっ!」って応援してくれているような、そんな距離感でいてくれたから。私は無理やり手を引っ張られたわけでも背中を押されたわけでもなく、「自分の足で走り切りたいんだ」という気持ちでまっとうできたんじゃないかな、と。だから、こんなにもハッピーでいられるんでしょうね。伝わりましたか?

――はい、しっかりと。

今井:ちょっと話が長くなりましたけど、「美しい場所 ~Final Destination~」についてもですよね(笑)。さだ(まさし)さんがこの曲を提供してくださったんですけど、私は最初この曲がすごく難しいなと思ったんです。

――それは歌うことが?

今井:歌詞の解釈ですね。「この歌詞はどういう意味ですか?」「“美しい場所”ってどこですか?」っていう。彼が言う“Final Destination”(最終目的地)は、ずっとずっと先にあるんじゃなくて、気がつかないだけでここに存在するものだったと思うんです。「ほら、ここに幸せはあるよ」「毎日が新しい“Final Destination”なんだよ」ということなんじゃないかな、って。「本当はあそこに行きたいのに」とないものねだりで今の自分を認めないのではなく、小さな毎回毎回が自分にとって“美しい場所”であって、小さな幸せが私たちのまわりにはちゃんと存在している。こうやって歩いていくことで、それぞれの“Final Destination”にたどり着ける――そういうことを伝える歌なんじゃないかなと思っているんです。

 そういう「美しい場所 ~Final Destination~」に加えて、私と同じ女性の目線で描かれた違う角度の「Life is a journey」では、それでも旅は続いていくことを伝えてくれる。その旅で出会った人たちが、それぞれの楽しかったことやいろんなことに気がついて、感謝してまた自分たちの日常に戻っていき、「またこの旅の先で再会できるといいね」と約束する。なんだか、すべてが繋がっているような気がするんですよね。

今井美樹 -「美しい場所 〜Final Destination〜」PV Short Version(作詞・作曲:さだまさし)

――まさに、『Our Songs!!』というコンセプトそのものなんですね。

今井:だから、収録曲がすべて揃ったあと、アルバムの曲順を決める時に「Life is a journey」は絶対にラストだなと確信しました。今作のプロモーションが始まったばかりの頃、アルバムを聴いてくださった方が「この曲は今井美樹の『My Way』ですね」と言ってくれて。そんなつもりはまったくなかったんですけど、「たしかにそうかもな」と思うようになりました。きっと、美奈ちゃんはツアーというミクロの世界を通して感じたことを、彼女なりの言葉で「Life is a journey」というマクロの表現へと昇華してくれた。あのツアーで私たちは高揚感と幸せと感謝を得られたけど、これからまた新たな道でいろんなことにぶつかっていくでしょう? そんな時、「Life is a journey」は私たちのなかでふと流れてくる曲になるんじゃないかと思います。

――はからずして、すべてが繋がったと。

今井:いろんなことを恣意的に考えなくても、すべては繋がっていくんだな、と。そのために、もしかしたら声も出なくなっちゃったのかな? あの時に声が出なくなったことで「人に思いが伝えられないというのは、これだけ苦しいことのか」と考えましたし、人に何かを伝えることに対してのエネルギーについても考えました。それは物理的にだけじゃなくて、いつも何かを呑み込んで、言いたいことを言えなくなっている人たちがどれほどの思いでいるのかっていうことも。逆に、一生懸命聞く側も聞いているつもりだけど、意識して聞こうと思わないと入ってこないものもある。あの1カ月でものすごく苦しんだことが、今まで考えもしなかったことを私に気づかせてくれたので、それが最初に起こったことは実はすごく大きかったんだと思います。

■リリース情報
ALBUM『smile』
発売中

配信URL:https://imaimiki.lnk.to/smile_dgWE

通常盤
・CDのみ:TYCT-60258/3,630円(税込)
初回限定盤A
・CD+Blu-ray:TYCT-69376/8,800円(税込)
・CD+DVD:TYCT-69377/8,800円(税込)
初回限定盤B
・CD+Blu-ray:TYCT-69378/8,800円(税込)
・CD+DVD:TYCT-69379/8,800円(税込)

<CD収録曲>※全形態共通
01. Because of you
02. 青空とオスカー・ピーターソン
03. One more smile
04. 私のアリア
05. 美しい場所 〜Final Destination〜
06. Silent Dancer
07. あの頃の自分
08. ワンマイル
09. VOICE
10. Life is a journey

<初回限定盤A Blu-ray&DVD収録曲>
『今井美樹 CONCERT TOUR 2023 “Our Songs!!”』2023年12月1日@東京・TACHIKAWA STAGE GARDEN
01. 幸せになりたい
02. 彼女とTIP ON DUO
03. SATELLITE HOUR
04. あこがれのままで
05. Miss You
06. あなたがおしえてくれた
07. Goodbye Yesterday
08. 愛の詩
09. 年下の水夫
10. 海辺にて
11. re-born
12. 祈り
13. Anniversary
14. DRIVEに連れてって
15. 微笑みのひと
16. 雨にキッスの花束を
17. 瞳がほほえむから
18. PRIDE
19. 新しい街で
20. PIECE OF MY WISH

<初回限定盤B Blu-ray&DVD収録曲>
『今井美樹 CONCERT TOUR 2024 “Our Songs!!”』2024年11月3日@東京・Bunkamura オーチャードホール
01. 瞳がほほえむから
02. 微笑みのひと
03. ふたりでスプラッシュ
04. Lluvia
05. memories
06. Blue Moon Blue
07. 海辺にて
08. あなたがおしえてくれた
09. 野性の風
10. Miss You
11. 雨のあと
12. Ruby
13. Bluebird
14. どしゃ降りWonderland
15. 雨にキッスの花束を
16. 幸せになりたい
17. Pray
18. Goodbye Yesterday
19. PIECE OF MY WISH
20. PRIDE

アナログレコードアルバム(重量盤/33回転/1枚組)
2026年5月27日(水)発売

予約URL:https://umj.lnk.to/smile_lpPR

5,940円(税込)/TYJT-59016

■ツアー情報
『今井美樹 40th Anniversary “Our Songs!!” TOUR 2026 〜smile〜』
5月16日(土)埼玉・サンシティ越谷市民ホール 大ホール
5月17日(日)神奈川・クアーズテック秦野カルチャーホール(秦野市文化会館)
5月22日(金)長崎・アルカスSASEBO 大ホール
5月24日(日)福岡・福岡市民ホール 大ホール
5月30日(土)岡山・倉敷市民会館
5月31日(日)広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ 大ホール
6月4日(木)神奈川・カルッツかわさき ホール
6月6日(土)山形・やまぎん県民ホール 大ホール
6月10日(水)北海道 ・カナモトホール(札幌市民ホール)
6月13日(土)大阪・フェスティバルホール
6月14日(日)大阪・フェスティバルホール
6月20日(土)福井・フェニックス・プラザ エルピス大ホール
6月21日(日)石川・本多の森 北電ホール
6月26日(金)大分・iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ
6月28日(日)熊本・熊本城ホール メインホール
7月4日(土)静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7月5日(日)栃木・栃木県総合文化センター メインホール
7月11日(土)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
7月12日(日)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
7月18日(土)高知・新来島高知重工ホール(高知県立県民文化ホール)オレンジホール
7月20日(月・祝)香川・サンポートホール高松 大ホール
7月25日(土)宮城・仙台サンプラザホール
7月26日(日)岩手・奥州市文化会館Zホール
8月2日(日)東京・Bunkamura オーチャードホール
8月6日(木)東京・東京国際フォーラム ホールA

『smile』特設サイト:https://sp.universal-music.co.jp/imaimiki/smile/

今井美樹 オフィシャルサイト:https://www.imai-miki.net/
STAFF X(旧Twitter):https://x.com/imaimiki_staff
Instagram:https://www.instagram.com/mikiimai_official/
YouTube:https://www.youtube.com/@Mikiimai

関連記事