Ado×林響太朗監督×大野瑞樹プロデューサー「ビバリウム」特別対談 初の実写MVはどうやって生まれたのか?
Adoが向き合った初めての撮影、2日間に詰め込まれたフルコースのMV要素
――撮影に向けていろいろ準備があったと思うんですけれども、気持ちの面もそうだし、フィジカルの面もそうだし、どういう準備をして撮影に臨んでいきましたか?
Ado:ライブでしたら、本番に向けてセットリストの準備をして、リハーサルを重ねますけど、MV撮影となると物理的な持ち物の準備は済ませても、果たして心の準備とは何だろうか、みたいな。MVの撮影はシーンごとに一つひとつ撮っていくわけですから、そこにおける気持ち作りにしても、演じている最中に一定の気持ちを保っていくというのも変な気がしましたし。だから、パフォーマンス以外のところは、ある意味では「なるようになれ!」というか。でも、今回は作詞作曲も自分がした楽曲ということもあって、楽曲の気持ち自体は完成されていて、歌いたい思い、表現したい思いも自分のなかでできあがっているので、「もうあとはもうなるようになってください、私の体!」という感覚でした。
――うんうん。2日間で撮ったということでしたけども、大野さん、林さんのおふたりが世界で初めて実写のAdoを撮るということだったわけですよね。その緊張感も含めて、もちろんカット数もそうだと思いますし、ほかの現場と違う部分はありましたか?
林:AdoさんがもうこれでMV撮影がイヤになっても大丈夫なように、全MVを投入する気持ちで、たぶん普通の3倍、4倍ぐらいの大変さだったんじゃないかなと思っていて……反省しております(笑)。
Ado:そんなそんな(笑)。
林:本当に大変だったと思うんだよなあ、絶対に。
大野:スタジオに缶詰めで、いっぱい撮って。
林:大体の作品はそれで撮影が終わるよね。なのに、次の日は朝イチから――。
大野:日の出とともに走らされる。それが終わったら、プールに落とされる(笑)。
Ado:あははははは!
林:そして、そのあと屋上へ上がる(笑)。
大野:しかも寒い屋上に(笑)。
林:思いつくMVのシチュエーションを大体やる、みたいな(笑)。
大野:しかも、雪降りましたよね。
林:そうだよね。
Ado:雪がちょうど降りましたね。
――初めてMVを撮るとなった時に、「こんなに体張る人、いる?」みたいな。もちろん歌うし、壁に挟まれたり、ドアに激突したり、水に落ちたり、ヒールを履いて全力ダッシュしたり、本当にフルコースだったと思うんですけども、どういう気持ちでその2日間を過ごしていましか。
Ado:本当にまったく「イヤ」という気持ちはなくて。もちろん体力勝負なところはありましたけれど、私がMV撮影というものを経験したことがなかったからこそ、「あ、こういう感じなんだ!」と思って(笑)。
林:ははははは。
Ado:私としては「MV撮影はこういう感じでやっていくんだ!」と、普通に面白く感じていて。「明日は朝走りか、頑張るぞ!」という気持ちで、もっと体力があればよかったのにと思うぐらい、すごく楽しかったのですが、冷静に考えたら、「一曲にこんなシーンあるのか!」という。ほかのアーティストの方のMVを拝見しても、「あ、多いな」とあらためて思って。やっぱりすごくボリューミーに撮ってくださったんだなと思いました。体験するとしないとでは、見えるもの、感じるものが違って。それまで撮影を経験したことなかったからこそ、これからもし何かきっかけがあってまた挑戦することになったとしても、もう大丈夫だろうなと思うでしょうし。とても楽しかったですね。
大野:よかった。
林:よかった。
Ado:大丈夫です、本当に(笑)。
大野:撮影に挑むまでも、Adoさんと僕らの撮影クルーで「一緒にモノ作りをしよう」ということを何度か僕からも言ってて。でも、今回は初の実写ですし、我々もAdoさんの撮り方を知らないわけだし、今までのお手本があるわけでもないので、僕らも不慣れなところあると思うけれど、今回あらためて「一緒にモノ作りをしよう」とお伝えさせてもらって、それにAdoさんが応えてくださったので、それがいちばん本当によかったですし、MVの作品のクオリティを上げることにもつながったかなと思っていて。すごく感謝してます。
Ado:とんでもないです。
大野:楽しかったです。
Ado:ああ、嬉しいです。
何度も挑戦した水中シーン――「『ああ、この子すごいわ!』と思いました(笑)」
林:いちばん最初に撮影したのは、たしか横断歩道のシーンでしたよね。
大野:そうですね。
林:最初は静かめにやってもらったところから、「次はライブのように、いつものようにやってください」と言って、そこから始まったような気がして、すべてが。「あ、これがAdoなんだな」って思ったのをすごく覚えてます。僕も大野くんも、本当に初めてのことって、どこでどういう気持ちになるかが正直見えないから。終わった今「楽しかった」と言ってくれてるからいいけど、もしかしたら体に蕁麻疹が出るぐらいのアレルギー症状がどこかで出てしまう可能性だって全然あって。でも、花開くようにパフォーマンスをしてくれて、そこで「ああ、この人は全然大丈夫な人だ」って思ったんですよね。で、僕らもそれに便乗してというか、引っ張られるような形でみんな気持ちよく撮影できて。だから、撮っているクルー以外の照明チームもそうだし、特効チームもそうだし、美術のチームもそうだし、ちゃんとみんなで全員で野球をできていたような感じがめちゃくちゃよかったな、って。そういうふうにパフォーマンスしてくれたことで、なんかすべてがなんか成立していったような気がしますね。
Ado:嬉しいです。
大野:そこで一気にお互いの緊張感が解けて、「一緒にやるぞ!」「おりゃー!」みたいな感じが始まった感じがしましたね。
――もちろん演じている部分もあるでしょうけど、普段ライブでやってることにもすごく近い身体表現でもあったのかなというふうに思って。いつものAdoというか、そういうものと近い感覚で撮影に臨めた部分もあったんじゃないかなと思ったりもして。
Ado:最初は私もわからないところがあって、横断歩道のシーンはご要望だったり指示していただいたレールをなぞっていくというか、従っているところが主だったのですが、だんだんやっていくなかで「パフォーマンスの雰囲気で」というご要望が挙がったので、それこそさっきの「なるようになれ!」の精神で、いつも通りの私で、いつも通りのAdoとしての身体表現で。Adoとして見せる機会というと、いちばんはやっぱりステージ上やライブですから。撮影で「もっと思いっ切りやっても大丈夫です」というお話が挙がったなかで、「じゃあ、もういつも通りやろう」という気持ちになって。ステージやってるつもりで、“Ado”という人間の最大限の私を表現できたらいいなと思いながら、撮影していましたね。
――すごく印象的だったのが、目に寄ったりとか、手に寄ったりとか、そういうインパクトのあるカットがたびたび入ってくるじゃないですか。そこに生々しさみたいなものをぶわっと感じて。あんなに近くで撮られることないですもんね。
Ado:ないですし、ほかのアーティストさんとかでもこんな近いシーンはなかなかないんじゃないか、っていう。
大野:もうレンズが当たってるんじゃないかくらいの。
――一瞬なんだけど、記憶に残りますよね。Adoさんのなかで特に記憶に残っているシーンはありますか。
Ado:もう擦り倒すように話しているんですが、水に落ちるシーンは本当に(笑)。「私は水に落ちたぞ!」っていう話は、擦り倒しています。
――何回飛び込んだんでしたっけ?
Ado:何回でしたっけ? 10……。
大野:15回はいってるんじゃない?
Ado:フォームとかを変えて、何回も飛び込んで。自分を見せる手段として、水に飛び込むというのは、海のなかで演技をするとか、そういうストーリーなものでない限りは基本的にあんまりないことだと思います。水に飛び込むと、単純にびしょ濡れになるわけですから(笑)。水のなかに飛び込むというのは、シーンとしては本当に美しく映りますが、かといって自分自身がやるってなるとやっぱり抵抗する方もきっと多いだろうな、と。でも、私は水の飛び込みいいですねと思いながら、他人事のように思いながら、実際飛び込んで。「おもしろかったな」と思っています。
大野:僕も印象的だった場面があって。最初、Adoさんからは「泳ぎは苦手なほうです」と言われながら15回くらい飛び込んでいただいたわけなんですけど、僕がAdoさんの近くにいて、林監督はちょっと遠いところにいて。いろいろコミュニケーションを取っていくなかで。「どう? 怖い?」と聞いたら、「だんだんよくなっていて、高みを目指している自分がいます」って言ってて。
Ado:あははははは!
大野:それがすごく印象的で、「ああ、この子すごいわ!」と思いました(笑)。「みんなが『わあ、きれい!』って喜んでくれてるから、高みを目指してる自分がいます」って、びしょびしょになりながら力強く言ってくれたあの光景がずっと残ってます。
林:すぐ教えてくれたもんね(笑)。
――たしかに。スタントを入れてもいいし、CGで処理することもできそうなシーンだけど、ビハインド動画を観て、やっと「本当に飛び込んだ!」とわかるという。
大野:しかも、足から水面に突き刺すパターンと背中から行くパターンがあって。背中から行くのって、すごく怖いんです。足から行くと深く沈むし。そのパターンを交互に林さんが求めて、「次は足を突き刺すパターンの飛び込みで」とか言って。
林:理由が一応あって(笑)。画で見た時に、思ってたよりも深く潜らないものなんだな、と。その時に物理を知りました。人間の体は思ったよりも深く落ちないんだな、って。「どうすれば深く落ちるんだろう?」ってずっと考えて、そればっかり頭で考えてた。たぶん、Adoさんの近くで見てたら、たぶんあそこで冷静な判断はできてなかったと思います。
大野:遠いところにいたから。
林:遠いところで、そこばっかり見てたから(笑)。でも、すごくよかったですよ。あの水のシーンは、横断歩道のシーンと同じように、意味がちゃんとある。自分のなかでは、深く潜る、内側に潜るみたいな。その象徴として水はすごくいいんじゃないかな、と思いまして。そういうメタファーとして入れるのもすごく大事だったから、水のシーンはマストだったんですよね。だから、本当に素晴らしい潜りをしてくださってありがたいな、と。
Ado:とんでもないです。
林:そして、こんなに擦っていただけると思っていなかった(笑)。めちゃくちゃ嬉しいです。
大野:嬉しいですね。
――新たなスキルを獲得したわけですね、Adoさんは。
Ado:「私は水に落ちれます」と言って、「水、OKです」と言って(笑)。
大野:何がきても大丈夫(笑)。