草彅剛『フードファイト』は時代を超える 木村拓哉に「らいおんハート」……SMAPが彩った平成の名作
「俺の胃袋は宇宙だ!」――あの名台詞が帰ってきた。草彅剛が主演を務め、2000年代初頭に大きな話題を呼んだドラマ『フードファイト』(日本テレビ系)シリーズが、3月6日よりHuluで一挙先行配信された。
野島伸司が挑んだ“大食い”という寓話
『フードファイト』は、『高校教師』、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』、『未成年』(すべてTBS系)など、社会のタブーを鋭く描く作品を次々と世に送り出してきた野島伸司が企画を担当。2000年に連続ドラマ(全11話)が放送されると人気を博し、翌2001年にはスペシャルドラマ『フードファイト 香港死闘篇』『フードファイト 深夜特急死闘篇』も制作された。続編が期待される幕引きだっただけに、今回の配信決定の知らせに、SNSには多くの喜びの声が寄せられた。
草彅が演じたのは、大手食品会社・宮園総合食品で清掃員として働く井原満。仕事を終えると、自身が育った孤児院・つくし園に顔を出し、子どもたちと気さくに戯れる、みんなの“お兄ちゃん”的存在だ。少しひょうきんで、親しい女性に「今日のパンツの色は?」などと聞いてしまう、今の時代ならアウトと思われるような発言もどこか憎めない。そんな愛嬌を持ったキャラクターである。
しかし、満にはもうひとつの顔があった。宮園総合食品の会長・宮園恭作(佐野史郎)が主催する闇の大食いバトルに、フードファイターとして参戦していたのだ。無敗のチャンピオンとして賞金を稼ぎ続ける満。普段の飄々とした姿から、勝負師の顔へと一瞬で切り替わる表情は見事だ。そして、獲得した賞金はすべて匿名でつくし園に寄付するという、その健気な姿もどこか寓話的で、時代を超えて楽しめる要素だ。
他者の痛みを“食べる”という物語
久しぶりに観返してみると、やはり面白い。思わず次々と見進めたくなる、強い惹きがある。もしかすると、今のドラマでは難しいとされる表現が、作品に勢いを与えていたのかもしれない。もちろん、多様な視点から配慮することは大切だ。だが、作品のテーマによっては、表現がマイルドになりすぎることで、かえって伝わりにくくなることもある。その点、野島作品ならではの社会の影に切り込む鋭い描写は、『フードファイト』が抱える“痛み”と向き合う物語に欠かせないスパイスだったのだとあらためて気づかされる。
そして、2000年当時には気づかなかった、満にとっての“食べる意味”も見えてくる。ドラマのフードバトルは、やがて能力バトルのようなスケールへと発展していく。子どもの頃に観ていたときは、満が勝つという展開そのものが痛快で、それだけで十分に楽しかった。
しかし、26年の時を経て見直してみると、満が食べていたのは料理そのものではなく、彼が接する子どもたちの抱える“痛み”だったのではないかと思えてくる。虐待を受けて育った子、親に捨てられた子、トラウマから抜け出せずにいる子……。そんな子どもたちの苦しみに共感し、その痛みを食い尽くすかのように、満は料理をかき込んでいく。ときには涙を流し、ときには怒りに包まれるような表情は、まさに名優・草彅剛の凄みを感じさせる。
なぜ、目の前の子は苦しんでいるのか。満はその痛みを決して見逃さない。そして、問題行動にも思える子どもたちの振る舞いにも全力で向き合う。スーツのまま泥水に飛び込むことさえいとわない。そうしてようやく「なぜこの子はそんなことをするのか」を理解し、その痛みを噛みしめるように食べ物を胃のなかへ収めていくのだ。その愛情の深さこそが、“宇宙”なのだろう。もちろん、すべての人を救うことはできない。それでも、自分にできることはあるのだと、気づかされるようだった。
SMAPが彩った“平成の時代”を味わうドラマ
とはいえ、そうした重たさだけの作品であったのなら、これほど観進めることをやめられない感覚には陥らない。思わず笑ってしまうような滑稽さも、このドラマの大きな魅力だ。なかでも光るのが、草彅のコミカルかつ熱のこもった演技。第2話のゲスト 田口浩正がペットの九官鳥・九太郎を食べてしまったと勘違いして掴みかかるところなど、本気の演技のぶつかり合いが見られて笑ってしまう。また、孤児院のボランティアスタッフ・田村麻奈美を演じる深田恭子、会長夫人・宮園冴香を演じる宮沢りえとの軽快なやり取りも微笑ましい。
さらに、満の前に立ちはだかるフードファイターたちの顔ぶれも実に豪華だ。市川染五郎、いしだ壱成、浅香光代、桜井幸子、さだまさし、安達祐実、河村隆一、泉ピン子など、大食いのイメージとは程遠いキャストが次々と登場し、異次元の食べっぷりを披露する。スペシャルドラマのラスボスに、草彅にとって芸能界の師匠である萩本欽一が登場したのも、また痺れる展開。「私の胃袋は大宇宙だ」と豪語する姿は、現実と地続きの関係性も相まって、“超えられない壁”を感じさせる粋な演出だった。
また、粋といえば九太郎の声を木村拓哉が担当していることも忘れてはならない。連続ドラマ放送時には伏せられており、最終回で明かされるサプライズが大きな話題を呼んだ。九太郎はわかりやすいギャグパートでもあり、満と九太郎が気分よくデュエットのように歌う場面は、草彅と木村の貴重な歌唱シーンとしても見逃せない。そして主題歌が、なんといってもSMAPの「らいおんハート」。作詞は野島が手がけた。〈君を守るため そのために生まれてきたんだ〉という歌詞は、満の生き方とも重なって聴こえてくる。
平成を代表する名作ドラマのひとつ『フードファイト』。あの時代だからこそ生まれた勢い。そして、時を経た今だからこそ見えてくるものがある。その両方を味わいながら、あらためてこの物語を楽しんでいきたい。