矢野顕子が『さとがえるコンサート』で紡いだ豊かな時間 30年分の物語、“おくりもの”を授かった一夜に

本編ラストは、30回目を開催できた感謝とともに「GREENFIELDS」を披露

 第2部は弾き語りからスタート。『さとがえるコンサート』開始時から2006年まで続いたアンソニー・ジャクソン(Ba)とクリフ・アーモンド(Dr)との“さとがえるトリオ”を振り返り、彼らと演奏した「Water Ways Flow Backward Again」へ。この曲は武満徹のライブで聴いた「Water Ways」に感動し、その夜に書いた曲とのこと。渡辺香津美(Gt)のソロ作『KYLIN』に坂本龍一も参加したバージョンが収録されていると紹介。この10月に世を去ったアンソニーへの想いも込めた矢野の熱演は10分を超えた。

 「どうしたらピアノが上手くなるだろうか、ずっと考えながら来年はレコードデビュー50年、わたしは3歳からピアノを弾いているので、ピアノを弾いて67年。練習は嫌いなんです、でもピアノを弾くことを嫌いになったことは一度もありません」と自負を語ったかと思うと「でもたまには違う楽器を」と前に出てギターを手にした。過去に『Granola Tour』でオベーションを弾いたことがあり、その写真が「圧倒的な実力!」という見出しと共に某ロック専門誌の冒頭に掲載されたと矢野が話すと、笑いが起こった。

 続いて林もドラムを離れてギターを持ち、4人が並んでのカバーコーナーに。今回は「矢野顕子の世界と言ったらラーメンか宇宙しかない」との林の発案でThe Byrdsの「Mr. Spaceman」が選ばれた。小原と林がそれぞれ考えた日本語詞で歌い、佐橋がバンジョーを弾く軽やかな演奏に場内の空気が和らいだ。「音楽はわたしたち自身が作り出したものではなく、贈り物としてわたしたちがもらったと思っています」と続けた「音楽はおくりもの」で、矢野は鍵盤ハーモニカを演奏。音楽は誰にでも伝わる“おくりもの”だと改めて思わせてくれた。

 キューライスのイラスト入りツアーグッズの紹介の後はコンサートも佳境。来年リリース予定の新作に収録されるという新曲「Do you love me ? 愛されたいおれら」を力強く歌い、山下達郎の「PAPER DOLL」のカバーではソウルフルな演奏に乗って矢野の歌も踊り出す。「皆さんも大好き」と紹介した「クリームシチュー」には観客のハンドクラップが加わり、「ひとつだけ」に繋がった。30回目を開催できたのはバンドのメンバーやスタッフ、何よりも観客の皆さんのおかげと深い感謝を伝えてのフィナーレは「GREENFIELDS」。情感豊かな矢野の歌声がNHKホールを満たした。

 アンコールは観客との記念撮影に続き、矢野が書き下ろした『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)の新テーマソング「生きものたちへ」。このコンサートの最後を飾ったのは、もちろん「ラーメンたべたい」。伸びやかな矢野の歌とピアノを3人のメンバーが悠々と受け止める演奏は引き込まれずにいられない。軽やかにして深い、矢野顕子ならではの音楽空間に引き込まれた豊かな3時間だった。

■セットリスト
『矢野顕子 さとがえるコンサート 2025』
2025年12月14日@東京・NHKホール

M01.春咲小紅
M02.夢のヒヨコ
M03.てはつたえる→てつだえる
M04.Super Folk Song Returned
M05.魚肉ソーセージと人
M06.ただいま
M07.ニットキャップマン
M08.YUMEDONO
ーIntermissionー
M09.Water Ways Flow Backward Again
M10.Mr. Spaceman 
M11.音楽はおくりもの
M12.Do you love me ? 愛されたいおれら
M13.PAPER DOLL
M14.クリームシチュー
M15.ひとつだけ
M16.GREENFIELDS
-Encore-
M17.生きものたちへ
M18.ラーメンたべたい

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