イープラスが仕掛けるイベント『FAVOY』は何が新しいのか? ネット音楽の“つながり”を生むプロジェクト誕生の背景
『FAVOY』らしさが感じられるコラボパフォーマンス
ーー今回の出演者はどういうところを意識してブッキングしましたか?
鈴木:初回ということで1日目は女性をターゲット、2日目は男性をターゲットにするという狙いはありつつ、一番意識したのは今まで一緒に作品を作っている組合せで、かつ同じ舞台に立ってこなかったアーティストたちでした。ファンが一目見て「この人たちが出るってことはこの曲をやってくれるんじゃないかな」とワクワクしてもらえる組合せを重要視しました。
コラボ楽曲がある人たちでも一緒にレコーディングしていない人たちは多くて、それこそ初日に出ていただいた超学生さんと缶缶さんは「ドロシー (feat. 超学生)」という曲を作っていますが、実際に会うのは今回が初めてだったそうです。なので同じ舞台に立って楽曲を披露するのも今回が初でした。リリースしたのも少し前なので、こういう機会を作ることが今後の『FAVOY』らしさになっていきそうだなと。
インターネット音楽界隈のアーティストの方々のすごくいいところは、コラボすることに対して前向きなんですよね。コラボパフォーマンスをライブで披露するのってハードルが高いことだと思うんですけど、「面白いですね!」と言ってくださって。「事前の練習が……」というマイナスな反応よりも先に「やってみたい」という方が多いのが、音楽を作る段階で共作していくことが多いインターネット音楽の特徴としてあるなと思いましたね。
ーー実際の作品を生み出すときのフットワークの軽さが、そのままライブにも活かされているのは興味深いです。今回参加されたアーティストの反応はいかがでしたか?
鈴木:イベント後も交流が続いている人たちもいるようですし、当日はお互いファンだった人たちが実際に会えて喜んでくれていたり、自分が出る日ではない日に遊びに来てくれたりしましたね。アーティストにとって、一緒にライブをやったりするコミュニケーションってすごく大切だと思っていて。そのチャンスがインターネット上だけだと生まれにくいというのはあると思うので、そうしたきっかけにもなれたのはよかったです。
ーー初日に出演されたDAZBEE(ダズビー)さんは、ライブ自体かなり貴重ですよね。
鈴木:韓国ではライブをやっていますが、日本だと2回目だそうです。解禁のタイミングでも「DAZBEEが来るの?」という声は大きかったです。DAZBEEさんサイドも日本にファンがいるのはわかってても、いきなりワンマンをするのハードルは高いでしょうし、後日発表された日本初ワンマンの前にイベントで来られるというのはメリットに感じていただけたのではと思います。DAZBEEさんは韓国のバンドメンバーと出演いただいたのですが、お客さんには普段聴いている音源の良さとはまた違う良さを感じてもらえたのではないかなと。超学生さん、Souさん、Empty old Cityもバンドによるパフォーマンスでしたが、このシーンもバックバンドがいるとさらにライブならではのよさが出るなと改めて感じましたね。特にDAZBEEさんは、打ち込みだけでは表現できない生の音が声と混ざるとすごくよかったです。
ーー実際の来場者は10代が多かったですか? 男女の比率も狙いどおりだったのでしょうか。
鈴木:10代が多いことを想定してのブッキングでしたが、実際は20代前半が多かったのが新たな発見でした。学生が多かったのですが、社会人1年目で会社を早退してきた、というような方も意外と多かったです。男女の比率も狙いどおりで、初日は女性がおよそ7割・男性3割、2日目は男性およそ7割・女性が3割、2日間合計するとちょうど半々くらいでした。今後も性別に関係なく、インターネット音楽のいろんなカテゴリを楽しめるラインナップを目指していきたいと思っています。
ーーイラストレーターの萩森じあが描き下ろしたイベントのキービジュアルも印象的です。
鈴木:みなさんの青春の記憶に残ってほしい、あるいはみなさんの青春時代に戻ってほしいという思いと、萩森さんに書いていただいたラフがマッチしましたね。現実社会のなか、学生が非現実の世界の中にいる、非日常を味わうためにイベントに来ているというイメージをイラストで表現いただきました。第2回のキービジュアルも萩森さんにお願いしています。イラストレーターさんとはキービジュアル以外でもご一緒できたら面白いなと考えています。例えばライブエンタメと作品展示を一緒に行うなど、いろんな方々と関わりを持っていきたいです。そうした広がりもインターネットカルチャーのイベントだからこそだと思いますね。
ーーちなみに鈴木さんが最近気になっているインターネット音楽は?
鈴木:最近は9Lanaさんという歌い手の方をよく聴いています。変幻自在の声の持ち主で、誰が作る曲を歌っても映えるんです。それこそ、ボカロ曲をボーカロイドが歌っているからこそ、人間である歌い手によって解釈が異なるのがインターネット音楽の面白いところの一つだと思います。この表現が合っているかはわかりませんが、クラシック音楽などにも近いというか。ピアニストの解釈によって弾き方が変わるのと似ているなと思っています。今回出演いただいたSouさんと、超学生さんにはコラボパフォーマンスで同じ歌ってみた曲を歌っていただきましたが、それぞれの声のよさ、解釈のちがいをライブで体験できたのもこのシーンの音楽の面白さを体現していたように思います。
ーー今後の『FAVOY』の構想や展望を教えてください。
鈴木:来年3月25・26日都内で第2回を行うために準備を進めています。初回を受けて、地方で開催してほしいという声も届いているので、いずれ各地にも広げていけたらいいなと。あとは今回、会場規模にしては海外のお客さんも多かったんです。海外需要のある文化なので『FAVOY』として海外展開もできたらいいですよね。アーティストも配信では国内外の視聴者をカバーできているけど、ステップアップとして海外でさらなる認知拡大を目指したいという人は少なくないので、その点も含めて『FAVOY』がサポートできたらと思っています。
また、アーティストにとってもお客さんにとっても、組合せが面白いイベントとして定着していくようにブッキングや企画を考えていきたいですね。イベントだけではなく、イベントでコラボした組合せでユニットが生まれたり、楽曲制作に繋がるなど、アーティストに出てよかったと思ってもらえるような、活動のプラスになるようなプロジェクトとして進めていけたらと思います。初回は歌い手同士のコラボも多かったので、ボカロPやクリエイターと歌い手のコラボなど、ここでしか見られないブッキングを目指していきたいです。