2025.07.27 17:00

汐れいら、「ハレの日に」で描く『薫る花は凛と咲く』凛太郎＆薫子の“その先”　物語性と想像力の進化

　柔らかなギターの音色とともに、凛とした歌声が聴こえてくる。シンガーソングライターの汐れいらの新曲「ハレの日に」は、募る想いが通じ合った喜びと愛する人の存在が輝かせる日常の風景を、どこまでも丁寧に、そしてエモーショナルに歌い上げる美しいミディアムナンバーだ。

　7月6日に配信リリースされたこの「ハレの日」は、TVアニメ『薫る花は凛と咲く』（TOKYO MXほか）のエンディングテーマ。汐にとっては2023年の「味噌汁とバター」以来となるアニメタイアップだ。リリースと時を同じくして放送／配信が開始となったアニメは早くも話題を呼び、それにともなってこの楽曲もじわじわと広がり始めている。

汐れいら / ハレの日に【Official Music Video】TVアニメ『薫る花は凛と咲く』エンディングテーマ

　『薫る花は凛と咲く』は、三香見サカによる漫画作品を原作としたTVアニメ。底辺男子校・千鳥高校に通う主人公・紬凛太郎と、千鳥のすぐ隣にあるお嬢さま女子校・桔梗女子高校に通うヒロイン・和栗薫子のふたりの恋模様を描く青春学園ストーリーだ。まったく違う文化を持つ“近くて遠い”ふたつの学校を舞台に、さまざまな出来事を通して互いの想いを通わせ、未来に向けて成長していく主人公たちを描いた同作は、2021年の連載開始から多くの読者の支持を集め、数々の漫画賞を受賞するなど大ヒット。大きな期待のなか、ついにアニメ化が実現した。

　かたや強面で金髪、ガタイもよく、その見た目もあって周囲から怖がられながらも、その実とても優しい性格の持ち主である男子高校生と、ある出来事をきっかけにそんな彼に密かに想いを寄せるようになった純朴な少女。ふたりの恋はお互いの同級生を巻き込みながら、少しずつハッピーエンドに向かって進んでいく。切なさも愛おしさも満載の物語は、いわば現代版の『ロミオとジュリエット』である。

TVアニメ『薫る花は凛と咲く』ノンクレジットエンディングムービー｜汐れいら「ハレの日に」

　「ハレの日に」は、そんな『薫る花は凛と咲く』の作品世界にどこまでも丁寧に寄り添って、歌を紡いでいく。見かけだけで“不良”と判断されることにコンプレックスを抱いていた凛太郎は、そんな自分にまっすぐ向き合い続ける薫子との出会いを通してどんどん心を開き、自分でも知らなかった気持ちを拾い集めていく。本作の主人公は凛太郎だが、その主人公を突き動かしていく薫子こそが、この物語の中心なのだ。そんな薫子の側に立ち、その心情を優しく掬い上げながら、汐は優しく言葉を重ねる。

　〈泣いてしまった空をみてた／君を想ってる〉――切なくも純粋な愛情から書き起こされる歌詞は、〈Pleased your flower／とびきりのものじゃなくていい／君がくれるからいい〉と、〈わたし〉の視点を通して〈君〉という存在がどれだけ大きなものなのかを描き出していく。凛太郎はケーキ店の息子で、作中でもケーキが凛太郎と薫子を繋ぐキーアイテムとして登場するのだが、そんな背景に託して〈どんな感情も半分にしていたい／君が思うなんでもないことも〉と歌われるフレーズには、汐がいかにこの作品を読み込み、感情移入していったかが克明に映し出されている。

　そんな彼女の作品への愛情が際立つのは、曲の後半、情景が作品では描かれていない”その先”の未来へと加速していくところだ。

〈なんでもないを束ねてたら／大きなブーケになって／「ありがとう」と「愛してる」で／記念日じゃない記念日を飾ってく〉
〈By my side 今はベールの中／哀しいことは君と見つめたい〉

　そんな歌詞が、未来で結ばれるであろう凛太郎と薫子の「ハレの日」を鮮やかに浮かび上がらせる。そして、そうやって“その先”を描き切ることで、この「ハレの日に」は『薫る花は凛と咲く』という作品の枠を飛び越えて、多くの人の心に響き、残っていく可能性を手に入れたといえる。〈By my side 君といたい／ただの日常を一生を祝っていこう〉――。出発点にあったのはアニメの世界観であり、ふたりのキャラクターだったかもしれない。だが、最後にこの曲がたどり着くのは、もっと普遍的で根源的な、“人を愛する”という大きなテーマなのだ。

汐れいら / ハレの日に【Playing Video】TVアニメ『薫る花は凛と咲く』エンディングテーマ

　これまでも曲を通してさまざまなシチュエーションや心情を表現してきた汐れいらというアーティストの本領が、ここにある。彼女の楽曲はどれも物語性が豊かで、それを支えているのはひとつのキーワードやテーマからどんどん世界を広げていくような想像力だ。この「ハレの日に」でも、そんな彼女の魅力が存分に発揮されている。『薫る花は凛と咲く』をきっかけに想像を広げた先に、こんなにも美しい未来があったのだ。

　そしてその未来は、繰り返しになるが、とても普遍的なものだ。アニメのエンディング曲というところから遥かにはみ出たところで、この「ハレの日に」がリスナーにとっても、汐自身にとっても、大事な曲になっていったらいいなと思う。