RHYMESTERがジャズの殿堂で魅せた“キング・オブ・ステージ” 8人編成による圧巻のエンターテインメント

 JAZZもRAPも、どこか古典落語に似ている。いわゆるマスターピースを、いかに自分たちのものとして今という時代に光り輝かせることができるかーーそれを現場で魅せるエンターテインメント芸術だ。“キング・オブ・ステージ”とは、つまり真打ちのこと。RHYMESTERが11月9日、ジャズの殿堂・BLUE NOTE TOKYOに三たび立った。

 「After The Last」の壮大なサウンドとともにスーツでキメた3人が登場すると、会場は大歓声に包まれる。「BLUE NOTE TOKYO、準備できてますか? アーユーレディ?」と宇多丸が声をかけると、割れんばかりの歓声がそれに応えた。間髪入れず「そしてまた歌い出す」の軽快なピアノのリフが滑り込み、流れるようにラップを紡ぎ出す宇多丸とMummy-D。バンドが繰り出す強烈なビート、キレのあるキメ、スリリングなラップ。それぞれの要素が一分の隙もなく、見事なグルーヴを生み出し、観客の熱気がそれをさらに加速させた。そして「Just Do It!」へと続くと観客は、大人しく座っているのもままならないといった様子で、手を挙げながら声を出す。2011年のアルバム『POP LIFE』の冒頭の流れを完全再現する形で、序盤から会場を完全に掌握した。

宇多丸

 「RHYMESTERがBLUE NOTEに帰って来ました」。BLUE NOTE TOKYOでのライブは3年目であることに触れ、「一昨年まではお客さんが声を出せなかったよね」とMummy-D。「でもまたインフルエンザが流行り始めていて、この辺(ステージ近く)の人は、おつゆが100%かかるから、帰って必ず手洗いうがいしてください」と爆笑をさらった宇多丸。トークの鋭い嗅覚と反応速度はさすがだ。

Mummy-D

 「梯子酒」を演奏する際は、「RHYMESTERがここでやると、BLUE NOTEの人もびっくりするくらい酒が売れる」と宇多丸。BLUE NOTEでは出演アーティストにちなんだオリジナルカクテルが提供されており、2022年は「Lime & Star」、昨年は「Future Is Born」と命名されたカクテルが好評で、売り上げ記録を作ったとのこと。今年のカクテルは、異なる種類の酒が四層になって一杯ではしごができる趣向で、その名も“梯子酒”。「コスパがいい」とMummy-D。「でも四軒行ったのと同じだから気をつけて」と宇多丸。

 「梯子酒」は祭り囃子を取り入れた和テイストの楽曲だが、この日はニューオリンズファンクのアレンジで披露された。そんなことができるのも、生バンドだからこそ。この日のバンドメンバーは、「Jaguar」などの世界的ヒット曲を持つバンド“A Hundred Birds”の中心人物・タケウチカズタケ(Key)をバンドマスターに、ジャズヒップホップユニット“SMOKIN'theJAZZ”のメンバー・藤山周(Gt)、山下洋輔からSUPER EIGHT、オマーまでジャンルレスに参加する柳原旭(Ba)、ブルース/ソウルなどブラックミュージックのアーティストを数多くサポートする脇山広介(Dr)、さらに“GOMES THE HITMAN”や“タマコウォルズ”などのバンドでも活動する高橋結子(Per)。「このメンバーを揃えるのも大変。年に一度が精一杯」と宇多丸。JAZZ/HIP HOP界隈では名の知れたメンバーによるワールドワイドなノリと美味しいお酒に、観客は舌鼓を打って酔いしれた。そして楽曲のシメを飾る“カーン”と鳴るビブラスラップを担当したDJ JINは、「ジャズの名門BLUE NOTEで3年連続チケット即完売。皆さんのおかげです。最後まで楽しんでください」とコメントした。

DJ JIN

 中盤、「このバンドでやるのは初めての曲」「意外な曲です」と紹介した「ガラパゴス」は、この日の新たな試みのひとつだった。同曲は、2015年にリリースされた『Bitter, Sweet & Beautiful』に収録の1曲で、日本語ラップを否定するアンチに対するアンサーを歌った楽曲だ。宇多丸は、JAZZもHIP HOPもアフリカ系アメリカ人から生まれて世界で花開いた音楽であること、何も持たない若者たちが育んだ文化であることに触れながら、「RHYMESTERはそのフォーマットに勇気を得て、自分たちの表現まで高めたつもりだ」とコメント。さらに、ルーツやオリジナルを生み出した人たちへのリスペクトと、その上で新しいことにチャレンジする大事さをコメントして楽曲を披露した。

 荘厳なオルガンの音色で始まった同曲。呟くように言葉を重ねながらどんどん熱を帯びていく宇多丸とMummy-Dの言葉、それが最高潮に高まった瞬間、切り裂くようにヘヴィなビートが展開。ダーク系のミクスチャーロックのようなサウンドに、観客も体を前後に揺らした。またそこから一転、Mummy-Dの〈Bang!〉という叫びから、パイプオルガンのような神々しい音色が流れ、まるで雲の切れ目から光が指すような展開も。〈その銃に込めた自由ですべての Blueを撃ちぬけ〉。すべての表現者を肯定し勇気を与えるその言葉に、胸をアツくした観客も多かっただろう。

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