クレナズム、タイのアーティストQLERとの共作2曲に至るまで アジア圏ライブへのさらなる意欲も

恋愛観の違いがよく表れた2曲の共作

「Goodbye Goodnight」MVより

ーーその後いよいよ「Goodbye Goodnight」と「old school」を共作するわけですが、最初から2曲作ろうという話だったんですか?

まこと:そうですね。それぞれが主体となって作詞作曲する曲を作るのはどうだろうっていう話になりましたね。

ーークレナズムが主体となって作った「Goodbye Goodnight」はしゅうたさんが作曲を担っています。どんなイメージがあったんでしょう?

しゅうた:最初にミーティングをした時に、2曲とも恋愛の要素を入れたいねっていう話になったんです。QLERの「old school」は甘酸っぱいテイストですが、僕らの「Goodbye Goodnight」は失恋をイメージする曲で。QLERはかなり幸せな人生を送ってきた方だと思うのですが、一方の僕は後ろ向きな性格というか(笑)。だからこそ悲しい別れの曲ができるっていう恋愛観の違いに驚きました。「Goodbye Goodnight」は僕の中では主人公の女性が好きな相手にすごく執着していて、でも別れなきゃいけないみたいな少し良くない恋愛のイメージがありました。2曲ともそれぞれの母国語で書いた歌詞がありますが、僕とQLERがグループLINEで「僕はこういう恋愛観だからこういう歌詞を書いてほしい」っていうようなやりとりをした上で歌詞が出来上がったんですよね。

ーー他の方々は「Goodbye Goodnight」をどう受け止めましたか?

まこと:まず、暗いなと思いました(笑)。自分たちのバンドの暗さや浮遊感が上手く出ているなって。QLERはポップな曲を作るだろうなと思ったので、違いが出ていいんじゃないかなと。

けんじろう:僕もまことと一緒で、「Goodbye Goodnight」のデモを聴いた時、「old school」と対極な感じでちょっと物悲しくて浮遊感があるなと思って。「これは良い曲になるだろうな」っていう予感がありました。

萌映:悲しい曲はこれまでのクレナズムの曲にたくさんあるのですが、少し大人びた雰囲気を感じたのでボーカルはウィスパーな表現が合うんだろうなと思ってそれを意識しましたね。受け入れなきゃいけないけど受け入れきれないっていうもどかしさがある歌詞ということもあって、一番最後の〈Goodbye Goodnight〉というフレーズを歌うところは今までで一番マイクに近づいて歌うという挑戦をしてみました。

「Goodbye Goodnight」MVより

ーー確かにこの歌詞で歌い上げるとクレナズムの曲としては濃すぎるかもしれないですね。これまでにない大人っぽい雰囲気になったのは何でだと思いますか?

しゅうた:意識して大人っぽい恋愛を描いたつもりではありますね。このひとつ前に作った「リベリオン」っていう曲が映画の主題歌ということもあって高校生の青春の曲なんです。それで今度はちょっと大人っぽい曲にしようと思ったところはあります。自分の恋愛観を書きつつ、萌映ちゃんと「失恋した時ってこうだったよね」という話をしながら書き進めていきました。あと、QLER主体の「old school」の日本語詞も僕と萌映ちゃんが書いたのですが、その日本語詞の中に〈I love you I need you〉っていう英語が混じっていて。「Goodbye Goodnight」と同じ時期に書いた歌詞ではあるのですが、情緒が全然違うので自分の中ではおもしろかったです。

culenasm×QLER『Goodbye Goodnight 』(Official Music Video)
QLER x culenasm - old school [Official MV]

まこと:QLERから「ベースを入れてほしい」と言われて「old school」にも僕のベースが入っているのですが、明るくて聴き心地のいい曲だと思ったのでベースもそういうイメージで弾きました。でも「Goodbye Goodnight」は暗さがある曲なので、僕のべースによってどんどん曲が暗くなっていけばいいと思いながらベースを入れていったんですよね。自分としても真逆のことをした感覚があります。あと、「Goodbye Goodnight」は2種類のベースが入っていて「しゅうた、何やってんだよ」と思いました(笑)。でもそれによって切なさが増して良かったなって思います。

しゅうた:ベースの低音感が欲しいけど、ベースの渋くて重いメロディラインも欲しかったんですよね。ギターでメロディを入れるとベースよりは軽くなるので、結果ベースを2本入れてもらうことにしたんです。

ーー台湾のI Mean Us に続きタイのQLERが実現しましたが、アジアのアーティストとのコラボによって発見したことはありますか?

まこと:日本語とは譜割りがかなり違うんですよね。音符が結構長いんだなということを実感して、それは日本語で書く歌詞にも影響が出ていますね。

しゅうた:僕もまことと一緒で譜割りに違いを感じました。「タイ語はわからないけどいい曲だな」って思わせるメロディラインや譜割りがあって。言葉の意味が伝わらなくても聴かせられる曲という意識が芽生えてきました。

萌映:私も譜割りが一番大きいですね。ひとつの音に対してはめ込む言葉数が全然違う。「そういう表現も全然ありなんだ」っていう発見が自分の制作に活きています。

海外でのライブ経験が一人ひとりに与える影響

(撮影=武井勇紀)
(撮影=Hung Hsu Chen)

ーー台湾、香港でのライブを経験していますが、海外でのライブによって内面的にはどんな影響がありましたか?

まこと:海外のお客さんって結構何でもありなんですよね。笑っちゃうくらい踊ってくれている人がいたり、3拍子のめちゃめちゃ暗い曲にすごく浸って乗ってくれている人がいたり。クレナズムの武器は楽曲に浸ってもらったり沁みてもらうところだと思っているので、その反応を見るとさらにお客さんをひったひたにしたいなって思います(笑)。

萌映:台湾でライブをやるとすごくいい意味で自分の中の固定観念が崩されるんですよね。お客さんがとにかくフリーダムで、「今ここでこうしなきゃいけない」みたいな感覚が覆されて、何も考えずに表現を出したらそれがそのまま伝わるっていう感覚になれる。そういう等身大で自由な姿を海外とか日本とか関係なく見せていくことが今の自分の課題だと思っています。

けんじろう:最初ライブをやり始めた時は音源を再現するという意識が強かったんですけど、海外でのライブ経験も増えてきて、メンバーとも長い付き合いになっていく中で、音源とは別モノの演奏を届けるような方向にシフトチェンジしていってる気がします。メンバーとスタジオでライブアレンジをいろいろ試したりしてますし。

しゅうた:台湾に行くとファンの方たちがすごく褒めてくれるので自己肯定感が上がるんですよね。「こんにちは」って挨拶しただけで大歓声が上がるし、現地の言葉で挨拶したら日本語で「生きてるだけで嬉しいよ!」っていう声が上がったり、「愛してるよ!」とかも言ってくれるのですごく嬉しいです。

まこと:国内も海外も変わらず、前のライブより200倍以上気持ちよくなってもらえるライブができるようになりたいですね。

萌映:最近韓国のdosiiっていう男女ユニットがすごく好きで。シティポップっぽいサウンドでドリーミーな浮遊感もあって、いつかご一緒できたら嬉しいなって思っているんですよね。もし対バンができたらより世界観のある空間になるんじゃないかなって勝手に妄想していて。だから来年は韓国でもライブをやってみたいと思っています。もちろん韓国に限らず、いろいろなアジアの国を周っていけたら嬉しいですね。

(撮影=武井勇紀)

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