クレナズム、タイのアーティストQLERとの共作2曲に至るまで アジア圏ライブへのさらなる意欲も
福岡在住の4人組バンド、クレナズム。タイや台北や香港といったアジアでも積極的にライブを行う彼らがタイのシンガーソングライター、QLERとコラボレーションした楽曲が2曲配信されている。1曲目は“QLER, クレナズム”名義での「old school」。2曲目は“クレナズム, QLER”名義での「Goodbye Goodnight」だ。「old school」はタイの陽気が匂ってくるような爽やかなシティポップに乗せて甘酸っぱい片想いが歌われ、「Goodbye Goodnight」はピアノのアルペジオとストリングスが絡み合うしっとりとしたトラックに乗せて狂おしい情念が歌われる。2曲とも両者の大きな魅力であるウォームでチルな質感を感じさせつつ、タイ語と日本語と英語が交じり合う歌詞が独特の磁場を形成している。
そもそも、クレナズムのメンバーがアジアの音楽をディグっていたところQLERの楽曲を耳にし、コンタクトを取ったところからコラボレーションの話が生まれた。クレナズムはQLERの他にも台湾インディー・ミュージックシーンで絶大な支持を受けるドリームポップバンド、I Mean Usとの共作曲も実現させているが、アジアのアーティストの交流にどんなことを感じているのだろうか? 萌映(Vo/Gt)、けんじろう(Gt)、まこと(Ba)、しゅうた(Dr)にインタビューした。(小松香里)【※記事最後には、香港フェス『HKT 西九龍音楽祭』出演レポートも掲載】
クレナズムとQLER、まずは互いのカバーで深めた繋がり
ーーコラボが実現したQLERにはそもそもアジアの音楽をディグっていたところ出会ったそうですが、アジアの音楽に興味を持ち始めたのは何かきっかけがあったんでしょうか?
しゅうた:コロナ禍で活動がストップする中で娯楽が音楽しかなかったので「日本以外のアジアの音楽ってどういう感じなんだろう?」と思っていろいろと聴き始めたことがきっかけでQLERの楽曲を知って。めちゃくちゃ声が甘くていいなと思いました。ちょうどシティポップにハマっていた時期だったこともあり音楽性もすごく好きですね。あと、タイのシンガーのALLYさんという方のことも知って。K-POPっぽい要素がある楽曲がよくてメンバーに教えたらまこともハマってくれて機材車で結構流してますね。この前『MINAMI WHEEL』に出ていたSoft Pineというタイのオルタナバンドのライブも観に行きました。タイの音楽はおしゃれなところが好きですね。
萌映:コロナ禍に入る直前に初めて台湾でライブをさせていただいたこともアジアの音楽に触れようと思うきっかけになったと思います。台湾のフェスでトリを務めさせていただいたのですが、会場入りした時に台湾のアーティストさんが演奏していて、お客さんが全身で音楽にどっぷり浸かっている感じ、演者さんも思うがままに自由に演奏している感じにいい意味でショックを受けたんです。それで台湾のアーティストさんに興味が湧いていろいろ聴いていきました。何を歌っているかがわからなくても気持ちいいと感じるサウンドを鳴らしているアーティストさんが多いんですよね。特にイルカポリス海豚刑警というオルタナポップバンドが好きです。
まこと:今年の6月に台湾でワンマンライブをやった時に台湾のファンの方から教えてもらった無妄合作社No-nonsense Collectiveというバンドの「山頭」っていう曲が特に印象的で。7分くらいあってずっと変な感じなんだけどすごくかっこいい。機材車で流しながら、しゅうたくんと「よくわからないね」みたいな話をしたよね(笑)。
しゅうた:「難しいね」って(笑)。
まこと:でもライブ映像もすごくかっこよくてハマってます。
けんじろう:僕はコラボさせてもらったI Mean Usとかゲシュタルト乙女も聴いていますね。台湾のアーティストが好きです。
ーーしゅうたさんがQLERに直接コンタクトを取ったんですよね。
しゅうた:そうですね、I Mean Usの時もそうだったのですが、海外のアーティストって好きなアーティストのSNSに「最高!」みたいなノリでコメントしてくれることが多いので、コロナ禍で人との関わりが減ったこともあって、僕もそういうマインドでやっていこうって思ってコメントし始めたら結構返事が返ってくることが多かったんです。そのノリでQLERさんにもメッセージを送ってみたらクレナズムのことを知ってくれていて。
萌映:プレイリストで見つけてくれたんだよね。
しゅうた:そう。日本の音楽が好きらしくて、日本の楽曲が入っているプレイリストからクレナズムを知ったそうなんです。それで嬉しくて事務所の方も入ってもらってオンラインミーティングをさせてもらってコラボの話になりました。
ーーしゅうたさん以外の方はQLERのどんなところに惹かれましたか?
まこと:のちのち僕たちがカバーさせてもらうことになる「Blur」っていう曲を初めて聴いて、タイのアーティストの楽曲なのに懐かしい感じがしたんですよね。それでいて音も綺麗で声もよくて不思議な感覚になって。他の曲も聴きましたが、未だに「Blur」が一番好きですね。
萌映:私もまずQLERの歌声に惹かれました。ボーカリストなら誰しもが羨むような声質で、すごく優しくて甘いけど、しっかり芯があって耳に残るというか。あと、すごく覚えやすくてキャッチーなメロディだなって思いました。たくさん好きな曲はあるのですが、私も「Blur」がダントツ好きですね。すごく歌いたくなるようなメロディだなって思います。
ーーその「Blur」をカバーすることになったのはどういう経緯があったんですか?
しゅうた:最初のミーティングで僕が「一緒に曲を作りませんか?」って誘ったんですけど、言語が違うしいきなりコラボしたところでどういう効果があるかわからないから、土台を作るためにもまずはお互いの曲をカバーするのはどうか、という話になりました。そうすることでクレナズムとQLERの繋がりが広がるところもあるだろうし。QLERに日本をもっと知ってほしいっていう気持ちもありましたね。それで僕たちは一番好きな「Blur」をカバーさせてもらって、QLERが「夕凪詠草」が好きだと言ってくれたので「夕凪詠草」をカバーしてもらいました。
ーー「Blur」のカバーをする上でどんなことを意識しましたか?
しゅうた:僕が編曲したのですが、オリジナルが浮遊感とおしゃれさのある曲で。僕たちの音楽性のひとつとしても浮遊感という要素があるので、そのポップさと浮遊感を失わずに僕たちなりの悲しい雰囲気をできるだけ入れ込もうと思いました。めちゃくちゃ悩んだアレンジでした。
ーー日本語の訳詞は誰が担当したんですか?
けんじろう:僕と萌映ちゃんが担当しました。
萌映:土台をけんじろうくんが作ってくれて、私は「もうちょっとこんな感じが歌いやすいかも」くらいの加筆をした感じでした。
けんじろう:原曲を何度も聴く中で、「空耳アワー」みたいに日本語で聞こえてきた箇所があったので、そこをピックアップしていって、印象的な母音を残しつつ歌詞にしていきました。メロディがポップなので日本語にしやすかったですね。
萌映:私たちの「Blur」のアレンジは原曲と比べると結構落ち着いてるので、原曲の雰囲気のまま歌うと楽しい雰囲気になってしまうことに気を付けつつ、自分たちの色を出すための言葉の調整をしましたね。
ーー「Blur」のカバーを聴いてQLERはどんな反応だったんですか?
しゅうた:最初デモの段階で送ったら、「いいね」みたいなめちゃくちゃ軽い反応で(笑)。
萌映:ラフだけど優しいよね(笑)。本当に友達みたいな感覚で。
しゅうた:その後マスタリング音源を送ったらめちゃくちゃ長文のメッセージを送ってくれました。「原曲のよさがありながらも、こういう新しいアレンジになっていて信じられないし嬉しい」みたいな情熱的なことが書いてありました。すごく嬉しかったですね。
ーーそして、QLERからも「夕凪詠草」のカバーが送られてきたと。
しゅうた:そうですね。原曲の「夕凪詠草」って結構和な感じの曲なんですよね。日本の美しい風景の空気感を閉じ込めたというか。その感じをQLERがちゃんと曲に入れてくれていてグッときました。しかもタイ語なのに。QLERがJ-POP好きっていうのもあるかもしれないですけど。