PEOPLE 1、「メリバ」に宿る愛と闘志と『あのクズ』に重なるリリック カオティックなサウンドを徹底分析

 10月スタートのドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系/毎週火曜22時~)が注目を集めている。初回放送でその内容と配役のマッチング度の高さが話題となり、2、3回目の放送直後には、両日ともXトレンドの上位に「#あのクズ」がランクイン。“オリジナル脚本で描くガチンコボクシングラブコメディ”と紹介されている本作の主人公を演じるのは、奈緒と玉森裕太。結婚式当日に新郎に逃げられた佐藤ほこ美(奈緒)は、始まらなかった結婚式&披露宴のカメラマン・葛谷海里(玉森)と出会う。

奈緒×玉森裕太『あのクズを殴ってやりたいんだ』恋も、ボクシングも!! 痛くても立ち向かいぶつかり合う!10/8(火)スタート!【TBS】

 結婚式当日に新郎に逃げられた佐藤ほこ美(奈緒)は、カメラマンの葛谷海里(玉森)と出会う。新郎の“クズ”ぶりがよくわかる描写やほこ美の失敗がコミカルに描かれ、悲劇が笑いに転じる展開に。第1話の最後で海里の“クズ”ぶりを目の当たりにしたほこ美は、「あのクズ(海里)を殴ってやりたい」と、ボクシングジムに入会する。

 本作は、海里に恋心を抱きながら、1人の女性が人生のどん底から、人生をサバイブしていくのがテーマだ。彼女はボクシングと恋愛という、“2つのリング”の上で何度も立ち上がる。そして、リングで闘っているのは相手や恋のライバルだけではなく、自分自身であることに気が付く。回が進むにつれて海里が“クズ”になった理由も描かれており、さらに盛り上がりを見せている『あのクズ』から目が離せない。

『あのクズを殴ってやりたいんだ』11/5(火) 第5話 第一章 完結…クズを救うために立ち上がれ!!【TBS】

 『あのクズ』でのほこ美の感情は非常に忙しい。ボクシングをやりながらランナーズハイの状態になったり、海里の暖簾に腕押しな態度に怒ったり、逆に海里の何気ない一言にキュンとしたり、出戻りで居心地の悪い実家でシュンとしたりと、まるでジェットコースターのようだ。ほこ美の性格は、基本は心優しい正直者。正直者だからこそ、一度火がついたら止められない激しさも持ち合わせている。

 この主人公のエモーショナルな部分、そして感情のジェットコースターぶり、そしてすべて一癖ありそうな登場人物、さらにコメディというカオスな要素ばかりのドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』の主題歌を担当したのがPEOPLE 1である。タイトルは「メリバ」。同曲のMVを観ると“Merry Bad End”の略であることがわかる。スピード感、複雑だが耳に残るメロディ、闘志を彷彿させる歪んだ声でのラップ、光と闇に通ずるようなサウンドのはっきりとしたコントラスト、次の展開がまったく読めないスリリングさ。他にも「メリバ」の魅力は多々あるが、これだけでも前述した『あのクズ』のカオスにぴったりマッチングする。

 2019年末に結成されたスリーピースバンド・PEOPLE 1は、幅広い楽曲性を持ち合わせた、サウンドもパフォーマンスも激しいライブで若者を中心に人気のバンドだ。2021年に初の東名阪ツアーを大成功させ、東京では追加公演も開催。2024年にはアリーナ公演も行っている。2019年からかなりのハイペースで楽曲のリリースを続けており、現在まで、デジタルリリースシングル、EP、CDシングル、CDEP、CDアルバムと、全25タイトル(曲単位だと43曲)をリリースしている。約5年の間に25タイトルという数には、驚きを隠せない。本稿では、最新曲「メリバ」をさらに掘り下げるとともに、彼らの音楽的な魅力に迫っていきたい。

PEOPLE 1 “メリバ” (Official Video)

 「メリバ」は、彼らのアグレッシブな部分と、メロディを最大限に活かすポップネスが、目まぐるしく入れ替わる1曲だ。それは、まるで輝く万華鏡の如く。予想不可能な模様を描き出す万華鏡を形成する一粒一粒は、色も形も異なり、個々で見ると鋭角的な形もある。時には、重なり具合で歪な色も描き出す。本楽曲は既出のように次にどうくるかわからないスリリングな展開で進行するが、アレンジの妙でサイケデリックにも通ずる美しい音像を描き出している。Deu(Vo/Gt/Ba,other)とIto(Vo/Gt)というツインボーカルでみせる声音のコントラストもいい。同じテンポで、メロディこそ違えど、譜割りがほぼ同じようなパートを歌い紡ぐブロックがあるが、2人のリズムの取り方や、メロディに対する言葉の置き方が同様で、両者のグルーヴの捉え方に一分のズレもないのがわかる。サラッとものすごいことをやっているのだ。これは、盤石のリズムを司り、ライブではサンプラーも担当するTakeuchi(Dr)のスキルによるところが大きいと思うが、サビ始まり後のイントロで飛び出し、曲の中でフックにもなっているリズミカルなフレーズも一役買っている。

 また、ビートのアプローチが複数ある曲だが、楽曲全体を通してダンサブルなアップチューンという印象を残すのは、フックになっているフレーズが“ファンクのリズム”をしっかり刻んでいるからだと考察する。ゆえに、聴き手も最後までグルーヴを逃さず、最後までメンバーと一緒に一気に駆け抜けることができるのだ。そして、曲の後半には舌を巻くような展開が待っている。多彩な音色(もうどれがどの楽器かもわからないくらいのレベル)を駆使した轟音シャワーがスッと無くなり、ミニマムなエレクトロニカのアプローチを見せたあと、Deuのソリッドなラップが展開。彼の声は濁音ではない言葉でも濁音のように聴こえるという特徴がある。だからこそラップはドープに、そしてメロディ部分はシャウトしていないのにシャウトしているような聴こえ方が独特の個性になっている。Deuのラップとともに増えていく音数が、再び一瞬で無くなると同時に、Itoの綺麗な中高音とファルセットがほぼアカペラ状態(少しだけバックトラックはあるけれど)で展開。その後にサビが転調し、一気に開放感あるメロディになり、ここでItoはクリアで安定したハイトーンを響かせている。

 スケール感をマックスに持っていった中で放たれるのは、ポエトリーリーディングのような気持ちの吐露。ここの部分以外の歌詞は、自分たちの色を変えずに『あのクズ』の内容を彷彿させる言葉を使っているが、〈2024年秋〉というフレーズから始まる最後のブロックは、自分達の気持ちをストレートに書いているように思う。そして、それが『あのクズ』の主人公2人の人生にも重なるのだ。ポエトリーリーディングという手法を取りながらもビート感をキープし、抑揚ではなく感情の起伏が感じられるボーカルアプローチも斬新だ。

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