分島花音による“音楽のデリバリー”ツアー Wアンコールの大団円、会場全体が心をひとつにした幸福な夜

 楽曲の力と巧みな演奏によって一度味わえば虜となってしまう、そんな魅力にあふれている分島花音のコンセプトライブ『The strange treat!』。ライブ会場をレストランに見立て、観客に“音楽”というメニューを届けるという趣旨の元、分島は定期的に公演を行ってきたが、2024年版となる今回はツアー=みんなの元に届ける⇒デリバリー、ということでツアータイトルは『分島花音 Live Tour 2024 「The strange treat! delivery diner」』と名付けての開催に。東京は吉祥寺を皮切りに、名古屋、京都と巡ったあと、最後は再び東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEで最終日を迎えた。ツアーファイナルとあって豪華なバンドメンバーが召喚され、分島と共に小粋な仲間たちが素敵な音楽を生み出していた。観客の盛り上がりに応え、Wアンコールまで達した一夜をここで振り返りたい。

人生をさらに味わい深いものにするライブ

 開演前、ステージ上には、ピアノ、ベース、ドラム、サックス、ギター、そしてチェロと白のグレッチが並び、訪れた人たちは期待をその身に受けていた。開演時刻となるとステージ上にバンドメンバーが集まってくる。まだ控えめな拍手と歓声。そこへ「ピンポーン」というインターホンの音、そして「The strange treat delivery dinerです。お待たせしました、お客様のオーダーをお届けに参りました」という分島の声が流れる。待ち詫びた客は立ち上がりながらクラップ。分島のナレーションは続き、「スパイシーなドラム」「ビターなベース」「ホットなギター」「スモーキーなサックス」「スイートなピアノ」と紹介していくと呼応して次々と音を響かせる楽器群。最後に、「チェロと歌も注文したって? もちろん、お持ちしましたよ♪」の声を合図にライブ『The strange treat』が開店した。

 現れた分島は赤いメイド服に、アイスクリームなどのワッペンをあしらった白のエプロンドレスという装い。ダイナーの店員の制服を思わせるストライプシャツで統一したバンドメンバーと共に、スタート曲の「The strange treat!」を奏でる。いつものようにチェリストとボーカルの二役を行き来する分島だが、1曲目からすでに満面の笑みを浮かべていたのが印象的だった。その空気感は客席へと伝播していく。弾けるような歌声と演奏で届けられるジャジーでダンサブルな楽曲は観客たちを揺らし、笑顔にさせる。曲終わりに分島はよく行うカーテシー(屈膝礼)を見せ、深く体を二つに折って客席へと謝辞を示したあとに2曲目へ。ハイトーンなロックナンバー「Unbalance by Me」だ。青白いライトの中、分島は客との距離が近いduoの構造を楽しみ、客の目線まで顔を寄せ、身体を近づけていく。

 歌い終えると分島はチェロをステージ中央に運び、最初のMCへと入る。グッズの旗を振って迎える客席。挨拶を済ませると、分島は昨年末の年越しライブで占い師から「上半期に何もするな」と言われたから「本当に何もしなかったんです(笑)」と話す。ただ、15周年ライブがことのほか楽しかったので昨年に続いてのツアー開催を決めたとか。「おなかいっぱいおいしい音楽を楽しんでもらえたら嬉しいです」と述べた。

 MC後、哀愁漂わせる情緒的なチェロと物憂げなボーカルの「ナイチンゲール」で世界を一変させると、歌い出しからファルセットが狂気的な「odette」へ進む。シャッフルビートの中、ミラーボールが回り出し、昭和ムード歌謡や戦前ジャズの頽廃的なエッセンスが増大されていく。そして繋げたのは「少女帰還」。チェロを置いた分島の後ろでドラムが四つ打ちを刻み、ギターのカッティング、サックスが乗っていく。ハンドマイクで歌い上げる分島は間奏でカズーを吹き鳴らし、サックスとの掛け合いを披露する。ここでも分島はステージ上を自由に移動し、表情も眉間に力を入れたり微笑んだりと豊か。サビでは歌詞に合わせて客を指差し、身体を揺らし、全身で歌を表現していく。続いて「さんすくみ!」はまずバスドラが、次にハイハットがリズムを生む中、客もイントロに合わせてクラップし、会場はさらに一体感を増していく。約10年弱前に生まれたときはテクノポップでコケティッシュな楽曲だったが、ライブ演奏ならではの瀟洒で大人な楽曲へと昇華した姿を見せてくれる。

 二度目のMCでは、「The strange treat!」=“奇妙なご馳走”というライブタイトル誕生のきっかけから。野菜はドレッシングをかけたらもっと美味しくなるというキューピーマヨネーズのCMを見た際、「音楽とドレッシングは似てるな」「人生も、それだけですごく素敵だけど、音楽というドレッシングをかけることによってもっと味わい豊かになる」と分島が感じ、「誰かの素敵なドレッシングになるような音楽を作りたい」という想いから生まれたと話してくれた。そして、分島にとって思い出深いアニメ『selector』シリーズ、WIXOSS10周年を記念として復活、舞台を10年後に移した『selector loth WIXOSS』が発表されたこと、数々の主題歌を担当とした分島が今回もテーマソングを手掛けたことを改めて告知した。当然次にお届けするのはその「INNER CHILD」。sugarbeans(Piano)、堀崎翔(Gt)、時光真一郎(Ba)、池田しげのぶ(Dr)、横田寛之(Sax)というスペシャルなメンバーを得たことで音源よりもスタイリッシュな披露となった。そのまま『selector』楽曲のターンに。「world’s end, girl's rondo」、そして「killy killy JOKER」の両曲で分島は、「いくぞ!」「うしろ!」と曲頭で煽り、お返しに客席からは力強い「オイ! オイ!」とクラップを浴びる。運命に翻弄されながら進むべき道を駆け抜けるように高低を乱高下するボーカルを聴かせる一方、イントロとアウトロではチェロを装備して低音を響かせる分島。そして、跳ねるピアノと四つ打ちのドラム、分島のチェロで始まる「悪魔の囁き」。チェロの横で凛々しく経つ分島は弓を振って客席を煽る。ステージの上下で干渉し合い、盛り上がりを加速させていった。Aメロを歌いながら笑みを浮かべ、サビのジャンプもどこか女王様風の分島。間奏でもチェロとサックスのソロ合戦で高まりを見せるが、2番を終えるとチェンジオブペース。緩急を付けながら歌声には魔性を込める分島だった。盛大な旗振りで終えると、今度は「今際の女神」へ。女性らしいボーカルでビブラートを利かせ、歌声を転がせるさまが優しいサックスの音色とマッチする。

 続くMCでは、その「今際の女神」について前回のツアーファイナルで初披露した楽曲だったと紹介した後、ネット社会の到来によって素敵な邂逅もあるけれども遠い世界で起こるニュースに心痛めることも増えた今、「自分の幸せを実感できることが一つでもあれば」「人生を振り返ったときに失うことが惜しいと思える記憶が多い人生であれば」という曲に込めた想いを語った。

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