不眠症「ボカロPって夢のある活動だな」 憧れだった島爺とのコラボ、同級生 くじらとの交流を明かす

 ボカロPとしての活動を経て、現在は様々なシンガーを迎えたフィーチャリング楽曲を多く手掛ける若き新星クリエイター・不眠症。これまでにも缶缶や吉乃、水槽や相沢、philoなど、歌い手活動を主なルーツとする個性派アーティストを自身の楽曲に数多く迎え、中でもあらきが歌唱を担当した「白昼夢」は、ボカロ・歌い手双方のシーンリスナーから大きな注目を集め話題を呼んだ。

白昼夢(feat.あらき) - 不眠症

 そんな彼が今回、満を持して長年のファンであったというシンガー・島爺をフィーチャリングに迎えた楽曲「フェアウェル」を10月18日にリリース。今回はそれに際して、バンドサウンドを軸としながらも多彩な音楽を生み出す彼のクリエイションに、改めて迫るインタビューを行った。

 元々2020年のボカロPデビューの背景には、学生時代からの長い付き合いとなる友人・くじらの先導もあったと話す不眠症。「春を告げる」「ねむるまち」などの楽曲でスマッシュヒットを記録した偉大な先人であり、同時に良き友でもある彼との貴重なやりとりも本稿には収録。様々な面で注目のエピソードが満載の内容となっている。(曽我美なつめ)

ルーツとなるバンドサウンド、そして盟友・くじらからの助言とは

『無重力サイレン』/ 不眠症 feat.flower

ーーボカロPの活動は2020年からですが、それ以前に音楽活動経験はあったんですか?

不眠症:中学の頃からバンドをやっていました。本当はテニス部に入る予定だったんですけど、当時学校の新入生歓迎会で先輩がやったASIAN KUNG-FU GENERATIONの「フラッシュバック」があまりにもカッコよくて、方向転換してバンドを始めた形です。パートはギターボーカルで、そのまま中高と6年間続けてました。

ーー当時はどんな音楽を聴いていたんでしょう。

不眠症:いわゆる邦ロックが好きでしたね。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやELLEGARDEN、ストレイテナーとか。あとはUKロックとか、そっちの系統も好きです。元々家族が洋楽好きで、小さい頃から身近にあったんですよね。幼稚園の頃、送迎の車の中でずっとRed Hot Chili PeppersやU2、Deep Purple、ヴァン・ヘイレンの「Hot for Teacher」とかもよく流れていて。それもあってバンドサウンドに傾倒したのは大きいかもしれません。

ーーそんなバンド音楽への興味を経て、ボカロP活動を始められた形ですよね。

不眠症:ボカロで曲作りを始めたのは大学の頃ですね、ボカロ自体は小学生の頃から聴いていたんですけど。ちょうどカルチャー黎明期の頃で、がっつりハマっていたわけではなく、ryo(supercell)さんの「メルト」「ワールドイズマイン」なんかの有名曲をさらっと聴いてた感じです。バンドにハマってからは少し離れてたんですが、軽音部の先輩がコピーしていたDECO*27さんの「愛迷エレジー」を「カッコいい!」と思ったのをきっかけに、またちょっとずつ聴き始めたんですよ。

 高校時代にオリジナルはすでに作り始めてたんですが、その曲を聴いてくれた中高一緒のくじらが、「不眠症の曲はボカロ好きな人も絶対好きだと思う」とずっと言ってくれてて。当時もよく彼とは一緒にスタジオ入って曲作りをしてたんですけど、「無重力サイレン」ができた頃に「これボカロで投稿してみたら?」って背中を押されて。それがそもそもの始まりでしたね。

ーーということは、くじらさんとはかなり長いお付き合いですね。それこそ「春を告げる」のビッグヒットの時も、その様子を近くで見られていたんじゃないですか?

不眠症:ちょうど自分がボカロP活動のいろはを彼に教えてもらってる頃でしたね。(「春を告げる」を)リリースして、「すごいことになってるね!?」って。その前には「ねむるまち」がYouTubeでもミリオンを突破して、その後の「金木犀」も大反響で、「どんどん活躍してくねえ!」みたいな話をしてましたよ。

ーーただ、くじらさんとは音楽性が真反対の印象もあります。そういった点も含めて、少し意外な接点という気もしました。

不眠症:彼の方が打ち込みの強いエレクトロな感じですもんね。お互いにお互いの曲を「作れないタイプだよね」って話はよくします(笑)。なのでいつも新しい視点からの気づきをもらえたりして、彼の存在にはすごく刺激を受けてますね。

ーーちなみにですが、ボカロ自体は最近も聴いていますか?

不眠症:聴いてますよ。最近だと、あばらやさんの「かなしばりに遭ったら」がすごく良くって。この曲を聴いて新しさというか、「今の人の曲だ!」というムードを強く感じたんです。個人的には最近ハウスっぽい曲がマイブームなんですが、海外のレーベルと契約してからのMILLENNIUM PARADEもめちゃくちゃハウスの匂いを感じて「超カッコいい!」と思ってて。その要素をあばらやさんの曲からもドンピシャに感じて、「すげえ人がいる!」ってなっちゃいました。

ーーボカロ以外だと、やはりさっき名前の挙がったMILLENNIUM PARADEですとか……。

不眠症:King Gnuも好きですね。常田大希さんが大好きなんですよ。バンドやソロプロジェクトだけでなく、あの人が作った曲は全部追いかけてます。

ーー音楽以外のコンテンツはいかがでしょう。お好きなものはありますか?

不眠症:マンガがめちゃくちゃ好きですね。祖父が本の好きな人で、中学の頃お小遣い代わりにいつも1万円分の図書券をくれてたんですよ。それで毎日学校帰りにマンガを買って帰り道に読む、みたいなことをしてました。

ーーいいですねえ。ちなみに、一番好きなマンガを聞かれたら何を挙げますか?

不眠症:最近だと『呪術廻戦』ですね。あとは『ダンジョン飯』の九井諒子さんのショートショートがずっと大好きで。九井さんって世界の切り取り方がすごく独特で、そこに惹かれるんです。『ひきだしにテラリウム』っていうショートショート集の中に図形を食べるお話があるんですけど、読んだ当時その発想に強い衝撃を受けました。曲を作る上でも自分の中で、なるべく固定概念に囚われないようにしてる部分はあって。そういう発想は、好きなマンガの“着眼点の面白さ”の影響もあるかもしれません。

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