ツミキ、音楽におけるボーカリストの重要性 ノーメロ みきまりあ、Aooo 石野理子、星街すいせいらシンガーに託すもの

Aoooはポップスシーンを“逆流”するバンド

Aooo 1st Album『Aooo』Trailer Movie

――Aoooとしては、shibuya eggmanで初ライブからちょうど1周年となる9月16日にワンマンライブを開催しました。

ツミキ:世に出ている曲がまだないと言ってもいい中で、チケットがソールドアウトもして、ワクワクさせてくれるバンドだなと思います。これからもっと大きいステージに立ったりすることもあるだろうし、その上でこの初ワンマンの光景はこれから先も忘れられないものになるんだろうなという思いがあります。

――全曲ではないにしろ、今回の1stアルバム『Aooo』のお披露目と初ワンマンとしてのバンド自体のお披露目ライブ的な側面もあったのかなと感じます。

ツミキ:そもそも、今まで音源をサブスクで解禁してこなかったのは、現地での体験でしか分からないということがたくさんあるという思いからでした。それは今回の1stアルバムの録り方、収録内容にも影響していると思うんですけど、剥き出しの熱量みたいなところをできれば最初にライブで体験してほしいという思いがあったので、そういった意味ではお披露目としては成功したように感じます。

――サブスクで先行して配信してこなかったというのは、デモCD『Demooo』を物販で販売していたというところですよね。

ツミキ:実際に観に来ないと買えないもの、パフォーマンスという部分においてもデジタルでは表せられないものがあるかなと思います。

――デモCDの販売については、チームの総意として決めていったんですか?

ツミキ:ぼんやりって感じです(笑)。Aoooは、個々の能力や我が強いバンドなので、音楽で対話するみたいなことがあるんです。あまり言葉数が多くはない。仲が悪いとかではもちろんないんですけど、言葉を交わさずとも、なんとなくシンパシーを感じる人たちなので。具体的にこういうものを目標にみたいなことはあんまりなかったです。けど、たぶんみんなそう思ってるというか。

――ワンマンで石野理子さんが「制作を経て、お互いを分かり合っていった」というようなことを言ってましたよね。

ツミキ:そうですね。初ライブがスタジオに初めて入ってから1ヶ月ぐらいとかだったので、バタバタしていて気づけばライブみたいな感じでした。現場で音を鳴らしてコミュニケーションを取っていくみたいなやり方でしたね。

――同じメンバーのすりぃさんは、ツミキさんと活動経歴が似ているところがある印象ですが、そこは意識されたりもしていますか?

ツミキ:僕がボーカロイドを始めたのが2017年12月なんですけど、すりぃが始めたのは2018年3月なので、ボカロPとしてはほぼ同期なんです。東京に来て初めてボカロPとしての友達ができたのもすりぃで旧知の仲です。地元も大阪で一緒で、お酒を飲めば喧嘩するようなこともあるんですが、そういう関係性が僕は居心地がいいなと思っています。商業的な部分でのライバルではあるんですけど、そういうことを度外視して、普通に友達と言えるなと思います。

――Aoooの成り立ちとしては、ツミキさん、すりぃさん、やまもとひかるさんの3人が集まって、そこに後から紹介という形で石野さんが加わったわけですよね?

ツミキ:元々は、僕がひかるちゃんを誘って、そこに後からすりぃが入ってきている感じです。ひかるちゃんとは昔からの仲で、いずれ一緒にやろうということはずっと話していたんです。たまたま会う機会があり、飲みの席のテンションから今に至りますね。

――ここからはアルバムの中からツミキさんが手掛けている楽曲をピックアップして聞いていきます。まず、「イエロートイ」は新録として、デモの音源からアレンジがガラッと変わっていて驚きました。

ツミキ:Aoooは、いわゆるポップスシーンに、グランジやオルタナティブなバンドが減ってきている中で、そこに逆流することができないか、抗ってみようというところからフィジカルを作りたいというのがまずありました。これは「イエロートイ」に限らずですけど、全部の楽器が一斉に鳴っている空気までを収録したいという思いがあって。デモCDの時は、それぞれが家で録ってきてそのアレンジにびっくりするということもあったんですけど、今回はバンドの熱量がスピーカーとかイヤホンを飛び越えるものを作りたいという思いでディレクションをしましたね。

――バンドとしてのグルーヴが伝わってきます。「イエロートイ」の〈ジュースみたい〉のようなギターメロは、ライブで育ってきたというところも。

ツミキ:あると思います。あとはジャストアイデア的にやったこともあるだろうし。

――石野さんのボーカルもさらに乗っている感じがします。

ツミキ:楽器だけではなく、ボーカルも一緒に録ってるので、グリッドからずれることもあるんですけど、全員が同じタイミングでずれればずれにはならない。その辺のぐらつきの面白さ、揺れみたいなのがボーカルにすごい乗っていて。普段は綺麗に調整しちゃうものなんですけど、ピッチ補正もほとんど使ってないので、ライブCDみたいでもありますね。

――「水中少女」はアルバム曲として新たに収録されていますが、サウンドとしてはセンチなバンドサウンドという印象です。

ツミキ:僕の思う一番バンドだと思う音楽みたいなテーマで作りました。ELLEGARDEN、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ストレイテナーといった2000年代の邦ロックに影響を受けて育ってきたので、そのトラディショナルなところをやりたかったんです。

――イントロ、間奏、アウトロで、ギターソロが前面に出てくるところもあります。

ツミキ:すりぃには、割と無茶をさせてると思います。ギターはやっぱヒーローであってほしいので。

――歌詞については、〈溺れてしまうのは生きているって証なのでしょう〉というような、最後に捉え方が反転していくのが希望を与えてくれるいい歌詞だなと思いました。

ツミキ:ありがとうございます。石野の歌声には無垢で、真っ白な良さみたいなものを感じていて。ゼロから何かストーリーが生まれていくのを歌うのが上手なんだろうなと思うんですよ。スタートには何もなくて、曲が終わる頃にはこんなものが手に入ったとか失ったみたいなことを書きたいと思ったんです。

――「MORE」は、いわゆるラップ曲で、今回アルバムを聴いていて一番びっくりした曲でした。

ツミキ:これは最後に制作した曲です。穴埋め的にアルバムの構想ストーリーを作って、完成したものを聴いていたんですけど、1曲だけボツ曲があって。もっと華やかで、遊び心を入れて作ってみたいというところから、ラップというワードが出てきました。アルバムに石野の作曲の曲がなかったので、「作曲やってみたら? ラップだったら作れるんじゃない?」みたいな感じで。とは言え、サビは石野がメロディを書いてきたんですけど。ラップもラテンやファンクっぽいノリを加えていって、いろんな要素を合体させていきました。

――作曲の名義としては石野さんとツミキさんですね。

ツミキ:最初に石野が1番までのサビのメロディと歌詞を送ってくれて、ラップはリズムをつけたことないから、「ツミキさん、得意そうだしやって」みたいな。僕が歌詞をいろいろパズル的にハメていって、ラップで韻を踏んだりしながら、まとめ作業をしていきましたね。

――2A終わりから、いきなりメロディアスなギターソロが始まって、そこからコーラスが入り、いわゆる落ちサビから、強烈なホイッスルが鳴り響く。「なんだ、これ!」と思いました(笑)。

ツミキ:ジェットコースターみたいな(笑)。それは面白かったです。この曲が1番メンバー全員で作った感じがします。僕がひかるちゃんに「このベースラインをかっこよくアレンジして」とオーダーして、データでもらって作っていったり、みんなの協力プレイが相まって面白いです。

――横揺れしたくなる感じで、ライブが楽しみになる曲です。

ツミキ:激ムズなんでみんなやりたがらないですけど……頑張ります。

――「エイプリル」は、アルバムのラストを飾る淡い感じの楽曲です。

ツミキ:これは本当に「アルバムのラストの曲を作ろう」というところから作っていきました。単純に僕が石野に歌ってほしいという感じ、いい曲をいい声で歌ってほしかったというぐらいですかね。

――タイトルの「エイプリル」というのは?

ツミキ:これは思いつきで、そこにストーリーはないんです。でも、僕はそういうことが多くて。適当に絵を描いて、「これ、犬みたい」とかそういう現象が好きなんで。こねくり回して、「春っぽいな」というぐらいです。逆にストーリーがそこに導かれるというか、出来上がっていくというか。

――4月というところでは、始まりを意味してるのかなとも思いました。

ツミキ:それもあると思うんです。その響きとか、言葉にマッチする感じというか。

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