カネヨリマサルのかけがえのない10年の物語 大阪城野音ワンマンで生み出した格別な一夜を観て

 2024年9月28日、大阪城音楽堂。カネヨリマサルのワンマンライブ『君と私の世界を変える大阪城野音ワンマン』が開催された。当日のライブは定刻17時、ほぼきっかりで始まった。くるりの「THANK YOU MY GIRL」が鳴る中、上手からメンバーはステージにやってきた。曇天ながらも雨は降らず、ぼんやりとした明るさの中で、この日のライブは始まった。

「ようこそ、野音ワンマンっ!」

 ちとせみな(Vo/Gt)のそんな掛け声とともに、この日の1曲目として「恋人」が披露された。そして、初っ端の「恋人」だけでも、カネヨリマサルの魅力が十全に詰まっていた。誰かの生活に根差したリアルが歌詞の中で描かれていて、聴く人の生活と重ねるように言葉が響く。理想論でもなくて、綺麗事でもなくて、あまりにも誰かの生活にハマった言葉が、誰かの本音と接続した言葉が、血の通った言葉となって解き放たれる。だからこそ、カネヨリマサルの言葉は刺さるし、奏でるビートとシンクロするように身体が動く。「恋人」から、そんな想いを強く感じることになるのだった。「バンドマン」「関係のない人」と、立て続けに楽曲が披露される中で、その想いはより強くなっていく。

 ただ、この日のライブは単に一つひとつが“良かった”に話が留まらなかった。2時間ほどの時間の使い方と構成があまりにも巧みだったからだ。歌ってきたことと、MCで話すこと、そしてライブを通じて“カネヨリマサル物語”の折り重なり方が、あまりにも美しかったのだ。というのも、冒頭で披露された「恋人」「バンドマン」「関係のない人」は、比較的カネヨリマサルというバンドそのものの想いも歌になった楽曲であるように感じた。そして、この日のライブはカネヨリマサルのこれまでの10年を総括するような構成になっており、冒頭でなぜこの曲を歌ったのか? を後から伏線回収するように、MCだったり、ライブ全体の構成で紐解くように進んでいったのだった。

 3曲の披露が終わって、ちとせを中心にMCの時間があった。何曲かやってからライブMCをすること自体は他のバンドでもよくある流れだが、この日のカネヨリマサルが凄かったのは、冒頭からのMCの密度。簡単な挨拶だけで終わるかと思ったら、のっけから、大阪野音ワンマンへの想いや地元のライブハウスへの感謝、これまでお世話になった様々な場所にポスターを渡しにいった話など、具体的なエピソードも口にしながら、この日の特別な想いを言葉にしている姿が印象的だった。

 そして、それを聞きながら「ああ、そうか、さっき歌った歌とこのMCは全て繋がっているんだ」ということを感じさせる温度感が宿っていたのだった。この日展開された歌もMCも含めて“浮いているもの”がひとつもなく、この日のライブはカネヨリマサルのこれまでのジャーニーであり、これからのジャーニーであるんだということを感じさせてくれた。4曲目の「ラクダ」ではオーディエンスとシンガロングを行い、5曲目には「秋になるけど、夏の歌を」ということで、ハンドクラップを展開させながら「嫌いになっちゃうよ」を歌い上げ、6曲目には疾走感のある隙のないバンドアンサンブルで「君が私を」を歌い上げる。一つひとつの楽曲としての充足感も半端ない。けれど、この日のライブは「どの曲を歌うのか?」も注目しながら、「どういう構成の中で、次に繋がるのか?」のワクワクを持っている自分がいた。

いしはらめい(Ba/Cho)

 次のMCのブロックでは、いしはらめい(Ba/Cho)が軸になってMCを行っていた。このMCでは自分たちが高校生の軽音部時代にこのステージに立ったこと、今日カネヨリマサルとして3人でこのステージに立てた喜びを口にしたのだった。「次のブロックではカネヨリマサルとしての初期衝動的なジャーニーが描かれているんだ」ということをなんとなく感じた。だからこそ、比較的新しい曲でありながら「嫌いになっちゃうよ」がこのタイミングで披露されたし、ブロックのラストで「二人」に行き着いたんだなあということも感じた。

 そして、9曲目に「二人」を披露した後、MCのブロックはドラムのもりもとさな(Dr/Cho)がMCを行う。もりもとのMCでは、自分が後からメンバーに合流したこと、誰よりも自分がカネヨリマサルの古参であることを表明した上で、この日のセットリストが最高であることを名言してからの「ひらりとパーキー」の流れ。ここも良かった。さらに、「ひらりとパーキー」は入りがかっこよすぎた。ベードラで繋いだライブアレンジとなっており、ゴリゴリのアンサンブルから、ボーカルに入る流れが秀逸。3人のアンサンブルの隙のなさを体感する瞬間でもあった。

もりもとさな(Dr/Cho)

 明るかったはずの大阪城野音はいつの間にか暗くなっており、照明の明るさが際立つ。改めてステージに視線を送ると、のぼりのデザインはピンクとオレンジとブルーのグラデーションであることに気づく。これはたまたまかもしれないが、ステージを彩る照明も、ピンクとオレンジとブルーが基調になっており、(だからこそ、一部の楽曲の瞬間的に赤でステージ全体を照らす瞬間がすごく印象的だった)「わたし達のジャーニー」の歌詞にもあるように、この色合いがカネヨリマサルのジャーニーであると言わんばかりに、ステージをデザインしているのも印象的だった。

 そんな幻想的な景色の中で12曲目に披露されたのは「ネオンサイン」。この楽曲の入る前のMCでは、ちとせがどういう想いで音楽を奏で、歌を作っているのかという想いに触れていた。バンドがキャリアを重ね、3人でライブを重ねていく中で、カネヨリマサルの音楽に対する想いが強くなっていく意志を、どこまでも克明に感じられる瞬間でもあった。「ネオンサイン」のあとに披露されたのは、新曲「ゆびきりげんまん」。陽が落ちた夏の終わりの野外に似合う楽曲で、どこまでもその日の景色とシンクロしていたのが印象的だった。しっとりとした楽曲で、丁寧に三人がアンサンブルを作り出し、ちとせが情感をもって、洗練された歌詞を歌い上げる。最後のサビ前には、瞬間的に赤でステージ全体を照らす瞬間がすごく情熱的でもあり、幻想的でも、インパクトに残るライブパフォーマンスだった。

 ライブの後半では「今日は特別ゲストがいる」と伝えた上で、キュウソネコカミのヨコタシンノスケがステージに現れる。ここからは4人で楽曲を披露します、とアナウンスし、ヨコタはキーボードとしてカネヨリマサルの布陣に加わる。

ヨコタシンノスケ(キュウソネコカミ)

 その様子を観ながら、ぼんやりと思った。カネヨリマサルの3人の音って過不足がなくて、そのバランスが絶妙で、だからこそ4人のアンサンブルってどんなことになるんだろうか、と。ドキドキとワクワクとちょっとした不安があったが、そこは流石の布陣といった感じで、「もしも」や「南十字星」といったカネヨリマサルのキラーチューンも、この日しかない音圧と調和されたアンサンブルで、いつもよりもロマンチックに楽曲を響かせるのだった。「南十字星」のサビで、ステージに作られた“南十字星”の照明も美しかった。

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