キュウソネコカミ、『出現！鼠浄土』に詰まった10年やってきた意味　より自由になった現在のモードを語る

　メジャーデビュー10周年を迎えたキュウソネコカミが、記念アルバム『出現！鼠浄土』をリリースした。10年という節目を迎えた彼らだが、アルバム制作において特別な計画や戦略は一切なく、程よく力の抜けた状態で完成まで到達したという本作。その過程や、新曲「ネコカミたい」がアルバムの中心となった背景、バンドの未来への想いを語ったメンバーの率直なインタビューを通じて、キュウソらしい“自然体”な作品作りの姿が浮かび上がる。（編集部）

「4人でもやるしかねえじゃん」　進む道が定まった瞬間

──『出現！鼠浄土』はメジャーデビュー10周年記念アルバムですが、制作する上で作品としての構想は何かありましたか？

ヤマサキセイヤ（以下、ヤマサキ）：構想があったのは「ネコカミたい」ぐらいですかね。あとはいつも通り、“できた曲をブチ込め！”みたいな感じでした。

ヨコタシンノスケ（以下、ヨコタ）：最初のほうは「10周年だな」と思いながら作っていたんですけど、だんだん時間が足りなくなっていって、最終的に1カ月で5曲くらい仕上げるっていう。だから全然計算されていないし、何の戦略性もないです（笑）。

ヤマサキ：10年目と思えん（笑）。

ヨコタ：ほんまやな。なんなら今までの作品の中で一番ギリギリだったな。

──10年経っても作り方は変わらずだと。

ヨコタ：変わらないですね。

ヤマサキ：プロデューサーを入れたり、アメリカでレコーディングしたりしたかった（笑）。

オカザワカズマ（以下、オカザワ）：最初、構想はいろいろあったよな。コラボしたり、それこそプロデューサー入れたりとか。

ヤマサキ：全部無視してしまった（笑）。

──でも逆に言うと、いろいろなアイデアはあったもののやはりオリジナルアルバムを作りたかった？

ヨコタ：今、カワクボタクロウ（Ba）が活動を休止していることもあって、10周年のタイミングで新曲を作っていないとファンのみんなに心配をかけてしまうじゃないですか。実際、どうしようかなと思っていたときにセイヤが「ネコカミたい」を作ってきてくれて。「これだったらアルバムが作れそうだな」と思いました。

ヤマサキ：このまま進むのかどうか、みたいなことをすごく迷ったんですよね。でも「4人でもやるしかねえじゃん」ってなってからは一気に進みましたね。

──アルバムを聴かせていただいて、今まで以上に自由なアルバムだなという印象を受けました。そこは意図的だったのでしょうか？

ヤマサキ：「もっと売れなあかん」とか「10周年だからこうやらなあかん」とか、メンバー全員が揃っていたらそういうことをぐだぐだ言っていたと思うんやけど、それこそこのまま進むのかみたいなことを考えている時間が長かったから、そういうことを言っている時間がなかったのが逆に良かったというか。

ヨコタ：自然と、10周年ということに対して力が入っていないよな。

ヤマサキ：どこかで、「この状況だし、活動しているだけで、音源を出しているだけで、すごいだろう」くらいに思っているところがあるんですよね。

オカザワ：あとは、なんといっても「ネコカミたい」ができたことが大きい。これができた時点で完成したみたいな感覚もあったよな。だからあとはもう自由でいいみたいな。

──では、アルバムの主軸になったという「ネコカミたい」からお話を聞かせてください。この曲は「ビビった」のオマージュ要素もあり、今のキュウソの状況や決意も綴られた1曲です。この曲はどのような経緯で生まれたのでしょうか？

ヤマサキ：「ビビった」のアンサーソングみたいなものを出したいなと考えていたんです。というのも、「ビビった」で歌っている歌詞が、ちょっとずつ古くなっているなと感じていて。メジャーデビュー10周年のタイミングで新たな形のものを出せたらアツいかなと思った。

ヨコタ：俺たちは「ビビった」のオマージュみたいなことをやるという発想が全然なかったから、最初にデモが送られてきたときは「こういうことやんねや」と驚きました。「ビビった」はライブでも外さないキラーチューンになっていたから、それに対してセイヤが「これでいい」と思っていたことを俺たちは知らなかったし。だけど、デモを聴いて面白そうだと思った。そこからはどこまで似せるのか、「それはやり過ぎやろ」みたいなことを話し合いながら詰めていきました。最初はもうちょっとふざけて作るつもりだったんですよ。でも、最終的に現状をきちんと捉えた曲になって。

ソゴウタイスケ（以下、ソゴウ）：作っていくうちにどんどんエモさが上回ってきたよね。でも、そもそも「ビビった」の歌詞もエモいんですよね。盛り上がる曲という立ち位置になっていますけど、よく聴いたら結構エモーショナルで。

ヤマサキ：でも「ネコカミたい」はちょっとエモ過ぎたかもしれない（笑）。

ヨコタ：エモくなったよね〜。

──YouTubeのコメント欄では、ファンの皆さんがキュウソと出会ってからの日々を綴っていたりして。

ヨコタ：自分たちとキュウソを重ね合わせた何年間を語ってくれていますよね。

ヤマサキ：今まで一瞬でもキュウソに関わってくれたファンの人に向けた曲になったなと思います。今はもうキュウソのライブに来ていない人でも、「私のことを歌ってる」って思うんちゃうかな。あと、〈僕らはあんたの毎日を少し変えられたかい？〉って問いかけるとこもキュウソっぽいですよね。俺らがドームツアーとかやってたら多分出てこない歌詞だもんな。ドームまで行ったら確実に変えてるから（笑）。でも、だからこそ「いまだに俺たちも歯を食いしばって頑張っているんだぜ」ということを伝える曲になったなと思いました。

ヨコタ：サウンド面でも、今のキュウソ節を知ってほしいという気持ちがあって。もちろん「ビビった」のオマージュだし、みんなが思っているキュウソのサウンドも入れつつですけど。

オカザワ：「10年経って、なんだかキュウソ収まっちゃったな」って思われたくもなかったしね。そういう気持ちもめちゃめちゃ入っています。

──歌詞にも「ビビった」のオマージュが随所に隠されていますが、ヤマサキさんの中で特に上手く書けたなと思うフレーズはありますか？

ヤマサキ：上手いこと言った、とは違うかもしれないですが、〈俺らと刻んだ瞬間があんたの中にあるはず〉はアツいなと思います。

オカザワ：そこに続く〈会いに行くいつでも来い　更新しようぜ〉もめちゃくちゃいいよな。

──それこそ先ほどおっしゃっていた、一瞬でもキュウソに関わったことのあるファン全員へ向けた言葉ですよね。

ヨコタ：ずっと一緒にいた人にだけ向けているわけじゃないっていうのが、めちゃくちゃ“らしいな”と思いました。

ヤマサキ：“キュウソネコカミ”という名前は知っているとか、「フェスで見たことあるわ」っていう人はたくさんいると思うんですけど、当然そういう人たちが全員ずっと見てくれているわけじゃない。それこそ全員がそうだったら、今頃ドームでライブをやっていると思うんで（笑）。でも実際はそうじゃない。だけど、だからってそれが悲しいことかと言ったらそんなこともなくて。「俺たちはずっとやっているから、君たちも好きにやってよ」と思っているので、その感じが伝えられたらと思って書きました。あとは〈テレビは観ないしCD知らない世代増えていく〉も10年前やったら言わんかったとは思いますね。もはやビクター（キュウソネコカミが所属しているレーベル）も何を売っているんだって話ですからね。

ヨコタ：よくこの歌詞を許可してくれたよね（笑）。

ヤマサキ：でもキュウソはずっとそういうことを歌ってきたんで。最新の曲ではこれくらいのことを歌わないとキュウソじゃない。

ヨコタ：こういうことをSNSで言うミュージシャンはたくさんいるんですけど、これを歌詞にする人はあんまりいない。そういうことをずっとやっているというのが俺らの矜持ですからね。

オカザワ：〈イントロ長いと飛ばされちゃうから早めに歌入れよ〉って歌ったあとに、めちゃめちゃ長い間奏がくるのも皮肉が効いていていいよな。

ソゴウ：最後の〈ビビるのは生きている証らしい〉のところも、上手くまとめたなと思う。

ヨコタ：確かに。ビビってることを肯定してるもんな。