カラコルムの山々、ZAZEN BOYS 向井秀徳を迎えた“夏の奇祭” 圧巻の演奏力&独創性で見せた大器の片鱗

 ここまでで30分も経過していないのにどこかに旅しているような感覚に陥るし、演奏のフィジカルの強さにも惹きつけられるしで、自分がどんどん前のめりになっているのがわかる。再び石田がZAZEN BOYSとの出合いに言及するMCをして、最新EP『週刊奇抜』のタイトルチューンへ。ディスコファンクっぽさの中に80年代の日本のニューウェーブを感じさせる(というかもっと言えばゲルニカの日本語表現か)歌も聴こえ、既製品ではない若者のカルチャーが生まれたあの時代をちょっと思い出していると、歌の最後に〈君は一体何が好きなんだい?〉と来た。好きなバンドの名前を言うのも馬鹿にされたりしないかと若者が躊躇するご時世に、この問いの強度には射抜かれた。ジャンル混交とか演奏が巧いとか以前に、この強度がカラコルムの山々のフィロソフィーを決定づけているんじゃないかと確信。

 反復するアンサンブルが進行していき、モーリス・ラヴェルの「ボレロ」的なピアノリフが聴きどころの「惑星数珠つなぎ」でメンバー全員のプレイヤビリティを存分に発揮した後は、石田のナイスカッティングやキャッチーなサビのメロディに心情を重ねやすい「ハツラツ」(なんで切ない曲にこのタイトルなんだろうかと思いつつ)と、似た曲が存在しない本編をほぼノンストップで走ってきた。それだけでも相当な集中力だ。だが、さらに本編ラストは新曲を用意してきた。「甘露だらり」とタイトルされた未聴の曲に自然と起こるクラップ。夏の奇祭に参加しているような異様な興奮に誰もが目を輝かせていた。

 アンコールでは変拍子がハイレベルすぎて真似できないクラップをそれでも覚えたくなる「大仏ビーム」で再び奇祭のムードが高まる。なんでも石田が小川に京王線の車内で「ZAZEN BOYSの未発表デモを入手したのだが聴くか?」という照れか自信か判然としない口説き文句とともに聴かせたというバンド黎明期の1曲である。そして鋭くも色気のあるテレキャスの響きに歓声が上がる。そう、ZAZEN BOYS「KIMOCHI」のカバーだ。途中から向井も参加し、終わることのない〈貴様に伝えたい 俺のこのキモチを〉のリフレインではさすがに石田もファンの顔つきになっていた。

 エモ消費とか消費期限の短い笑いとか、殺伐としたSNS上のやり取りから遠く離れた場所で自分の好きなものを手当たり次第に消化して、しかも深く愛すること。トレンドなきバンドシーンで頭一つも二つも突き抜けそうなカラコルムの山々に今のうちに出会ってみてはどうだろうか。

※1:https://note.com/sotarodax/n/n2657ac9eadbc

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