由薫、ONE OK ROCK・Toruとの共作で手にした“J-POP”としてのあり方 EP『Sunshade』から始まる第2章

 由薫の新たなEP『Sunshade』が完成した。今作には、ドラマ『笑うマトリョーシカ』(TBS系)の主題歌「Sunshade」、ツアーでいちはやく披露していた「もう一度」、ONE OK ROCKのToruとの共作曲「ツライクライ」をはじめ、全5曲を収録。1stアルバム『Brighter』を経て、彼女は何を見つめ、どこへ向かっていくのか。ここから第2章のスタートを切る今を語ってくれた。(編集部)

1stアルバム『Brighter』を経て幕を開ける由薫の第2章

――『Sunshade』が完成しましたが、今の心境はいかがですか?

由薫:1月に1stアルバム『Brighter』をリリースするまでが第1章で、今回は「ここから第2章が始まるんだ」という心持ちで制作しました。ジャケット写真は無地の白いTシャツを着て、素の自分に近い雰囲気でアートワークも作っていただいたんですけど、そういうところから新章を始めるって、すごくいいなと思っています。

――今作を制作する上で、テーマやコンセプトは決めていましたか?

由薫:EPの制作が決まったのが、デジタルシングル曲の「Sunshade」「もう一度」「勿忘草」をリリースすると決まったあとで、それらの曲を手がかりにEPとしてのメッセージを伝えたいと思いました。今回はしっかりと向き合うことに重きを置いていて、なかでもJ-POPに対して目をそらさずに向き合った側面が強いですね。

――表題曲「Sunshade」は、放送中のドラマ『笑うマトリョーシカ』(TBS系)の主題歌です。YouTubeに公開されたMVのコメント欄を拝見すると、この曲がきっかけで由薫さんの音楽と出会った方も多いようですね。

由薫:そうですね。ドラマを観てくださった方から「あの登場人物の曲なんじゃないか」「あの人の心情を歌ってる曲なのかも」というコメントもあったりして。いい意味で、みんなが惑わされてくれているなって。このドラマは、その時々で“マトリョーシカ”のように焦点を当てる人物が変わっていきます。「Sunshade」の主題はドラマと離れたところに軸がありつつも、ドラマの世界と歌詞が重なり合って、みんなが「これってこうなんじゃない?」と思える余白があったらいいなと思って作ったから、それがしっかりと具現化できたかな、と。皆さんからいい反応をいただけてうれしかったです。

由薫「Sunshade」MV

――脚本や台本を読まれて、どんな印象を持ちましたか?

由薫:濃密な内容なので、最初は読み終わるのに時間がかかりました。一人ひとりの人物描写が非常にしっかりしていて、そこに自分の生活と重なる部分もあって。そもそも“太陽(=sun)の影(=shade)”を意味する「Sunshade」というタイトルにしたのも、“日傘”が小説のなかで印象的なフレーズに感じたからなんです。ふとした表情とか仕草で、明るいと思っていた人に一瞬でも影を感じるのってとても小説的だし、魅力的でもあって。楽曲でもそこを反映させたいと思い、このタイトルに決めてから制作を進めていきました。

――順番で言うと、どのように進めていったんですか?

由薫:ドラマの主題歌ということで、まずはメジャーデビュー曲「lullaby」や「星月夜」でもご一緒したONE OK ROCKのToruさんとスタジオに入りました。Toruさんの提案を受けてBPMや曲調を決めていき、私がそれを持ち帰って歌詞を書く流れだったので、音が先にあったうえで進めていきましたね。アレンジや音のイメージもどんどん変わってはいったんですけど、ロックなサウンド感は最初からあって、そこに歌詞を付けていきました。

由薫 - lullaby (Official Music Video)
由薫 – 星月夜(Official Music Video)

――静かなところから激しいラウドロックに変わっていく、静と動を感じるサウンドだなと思いました。

由薫:「Sunshade」の持つ二面性を表現するべく、Toruさんが提案してくださいました。歌詞の部分でもそれを意識していたので、お互いに目指してる方向は最初から一緒だったのかなと思います。

――〈空っぽな部屋の真ん中で 大丈夫だと笑って見せた〉や〈どこにもいない/君を探した〉などの相反する言葉の連結や、静かさと激しさを感じるサウンドからも、まさに二面性を感じさせる楽曲でしたね。ちなみに〈ねえ、カレンダー何年分用意してればいいの?〉から始まる一連のフレーズが2回出てきますが、1度目は訴えかけるように歌われていたけど、2度目はどこか無機質な感じで歌われています。これはどういう意図があったんですか?

由薫:疑問系のなかには「何年分用意してればいいの?」という普通の疑問と、「ねえ! 何年分用意してればいいの!?」みたいに言葉の裏に怒りが込められている場合があるんですよね。後者の感情はただの疑問というよりは、そこに対して反発もこめられている。そういう違いを〈ねえ、カレンダー何年分用意してればいいの?〉もそうですし、他の歌詞でも語ろうとしていて。同じような言葉が、別の雰囲気で聴こえる面白みは私も感じますね。

――歌詞を書きながら、由薫さんはどんな情景を思い浮かべていました?

由薫:私、SFが好きなのもあって、太陽が地球にぶつかってしまう混乱のなかで“君”を探す登場人物みたいな、SF映画の映像を頭に浮かべていました。SFのいいところって、当たり前を疑うことだと思うんですよね。たとえば「明日世界が終わるかもしれない」というテーマのSFだとしたら、そもそも今日があることに感謝したりとか、当たり前を「そうじゃなかったとしたら……」と想像するのってネガティブだけれど、それによってポジティブを生み出す効果があると思っていて。日常や当たり前を疑う意味でのSFの要素を思い浮かべながら、この曲を書いていました。

――少し話がズレちゃうかもしれないですけど、占星術師のノストラダムスって知ってますか? 今となれば嘘のような話ですけど、ノストラダムスが「1999年、7の月、空から恐怖の大王が降ってくる」と予言したその年はテレビや学校でも「本当に地球が滅亡するんじゃないか」と騒がれていたんですよ。あれもまさに、当たり前を疑うSF的な状況だったなと思いました。

由薫:すごい! まさに、その予言の話を「Sunshade」の制作中に私がToruさんに熱弁していて(笑)。 実は、私もそれを念頭に置いて歌詞を書いていたんです。私は2000年生まれなんですけど、1999年に生まれた知人と「私たちは世界が終わる前と後みたいだね」って話をしていたこともあって。私が生まれた時代性と、今の将来に対する不安や戦争など、いろんなことが渦巻いている状況も、どこか私の人生のタイム感が「世界の終わり」というトピックと結びつくことが多くて。最近、友人と話していてもそういう話題が日常会話で出てくるんですよ。「将来の設計図を考えるけど、地球がいつ終わるのかわからないよね」って。そこまで真剣に話し合っているわけではないにしろ、「世界の終わりみたいだね」とか、そういうのがナチュラルに出てくるのは、今のリアルな私のタイム感なのかなと思って。そういうことを歌詞にしたい気持ちが以前からあったので、ちょうどこの機会に「Sunshade」というタイトルをつけて、あらためて考えてみようと思ったのもあります。

――終わりを感じることで日常のありがたみを知るという意味で言うと、「Sunshade」だけでなく「ツライクライ」と「勿忘草」も連作のように繋がっている感じがして。3曲とも身近な人がいなくなったことで、その人が自分にとっていかに大切だったのかを痛感する曲ですよね。

由薫:先ほどEP『Sunshade』を通してJ-POPに向き合った、と言いましたけど、それって日本的な情緒と向き合ったとも言えるんです。それこそ、「Sunshade」「ツライクライ」「勿忘草」も日本の心を意識して書いていて。私も連作的な感覚があったうえで、一枚のEPとしてまとめたかったという思いがあるんですよね。なので、今のご指摘はズバリです。

――「Sunshade」を作るにあたって、Toruさんと由薫さんのあいだで共通のキーワードとして掲げていたものがありました?

由薫:私がToruさんにノストラダムスの予言や太陽の暦、世界の終わりの話をするなかでToruさんによく言われていたのは、「あくまで人に伝わる方法でそれを書いていくっていうことだね」と。哲学的になりすぎてしまう部分を、もうちょっと噛み砕いて、あくまでポップスに昇華していく。そういう意味でも、J-POPに向き合いました。あとは力強さですね。レコーディングの時も「力強く歌ってほしい」と言われていて。ドラマのサスペンスなトピックに対してこれくらい大きな熱量で歌ったほうがいいんじゃないかという感覚は、お互いの共通認識だった気がします。

――ドラマでも、同じ曲なのに毎話ごとに違って聴こえていて、そこはドラマとの親和性の高さもあるでしょうし、ドラマのために書き下ろした主題歌が放つ魅力なのかなって。

由薫:「毎回違ったように聴こえてほしい」という狙いもありましたし、ドラマの制作の方も毎回同じ感じで曲を流すのではなく、イントロが長かったり短かったり、曲の切り方を変えていたり、曲の使い方をうまく変えてくださっているんです。私自身もドラマと楽曲の相乗効果が生まれる使い方をしてほしいと思っていたし、それを言葉にしていなくても、ドラマ制作陣の方々に伝わっていたのかなと感じて。曲を作った側としてはとてもありがたい使い方で、やりたかったことをしっかりと感じ取ってくださっているなと、ドラマを観るたびに思いましたね。

――主題歌というだけでなく、劇伴的な使われ方をしていますよね。

由薫:そう思ってもらえたらうれしいです。おこがましいですけど、せっかく私の曲を使っていただけるなら、曲からもドラマに作用できるものがあったらいいなと思っていたんです。作中で流れている部分の歌詞がそのシーンにマッチしていると、私も「おー!」って興奮しますし。夢が叶ったような感覚になりましたね。

関連記事