DOPING PANDAとthe band apartのロックは時代を先取ってきた 変化と美学が詰まったスプリットEPの裏側

 DOPING PANDAの華々しいカムバックから2年、ついに盟友 the band apartとの初のスプリットEP『MELLOW FELLOW』がリリースされた。一度は解散するも10年ぶりの再結成を果たし、新たな青春の真っ只中を迎えているDOPING PANDA。インディーズ一筋でマイペースかつスタイリッシュに、4人それぞれがソングライティングの個性を更新しているthe band apart。まるで小説と日記のように対照的なストーリーラインを描いてきた両者だが、固定観念やトレンドに安易にとらわれず、己の美学を指針にする互いのスタイルをリスペクトし合うからこそ、今回のスプリット盤が生まれた。紆余曲折、25年以上のキャリアゆえに為せる技を、肩肘張ることなくスッと差し出せるかっこよさ。記名性の高いグルーヴが自然に溶け合う本作は、バンド同士が手を取り合う理想像とも言えそうだ。共作曲「MELLOW FELLOW」「SEE YOU」の制作や、互いのカバー曲に込めた想い、そして両バンドの変遷に至るまで、Yutaka Furukawa(Vo/Gt/DOPING PANDA)、木暮栄一(Dr/the band apart)に語り合ってもらった。(信太卓実)

Furukawa×原が挑んだ表題曲の土台「必死でした」

ーー昨年の『mugendai THE CARNIVAL 2023』でのthe band apartとの対バン(『mellow fellow』)からスプリット盤制作という流れは、すぐに決まったんでしょうか。

Yutaka Furukawa(以下、Furukawa):そもそもドーパンが再結成した頃に、最初のオフィシャルな対バンはバンアパにしたいと言っていて。その時から『mellow fellow』を復活させること、当時できなかったスプリット盤を作ることは頭の中にありました。「SEE YOU」という曲までは作れたんだけど、スプリット盤までは辿り着けなかったので、バンアパと一緒にできるのは念願ですね。

ーーフィーチャリングなどではなく、スプリット盤にしたのはどうしてなんでしょう?

Furukawa:フィーチャリングだとこっち主導になってしまうから。もっとお互いのものを持ち寄りながら、“一緒に作る感”を出したかったんで、そこは妥協したくなかった。

ーーthe band apartはスプリット盤を何度か作ってきてますけど、いかがでした?

木暮栄一(以下、木暮):「ドーパンから言われたらそりゃあやるでしょ」って感じかな。普段こういうオファーがあった時、他の3人が乗り気になることって少なくて(笑)。みんなが「どっちでもいいや」って感じだと俺が決めることが多いんだけど、今回は原(昌和/Ba)が「ドーパンとやるなら!」ってかなりやる気になってて。そういう時はスムーズに行きやすいんですよね。制作がスムーズだったかは疑問だけど(笑)。「表題曲とドーパンのカバー、バンアパの曲、今回は全部俺にやらせてくれ」って言うから、これは珍しく気合い入ってんな、けどスケジュール的に無理だろうなって(笑)。

Furukawa:今回「goodbye to the old me」のイントロって、ドーパンがインディーズで出した最初のシングル(『DREAM IS NOT OVER』)の1曲目(「JUST SAY GOOD-BYE」)と全く同じリフなんですよ。なんでかと言うと、まーちゃん(原)が「JUST SAY GOOD-BYE」をめちゃくちゃ好きで、最初そっちをカバーすると言ってくれてたので。

木暮:うん、言ってた。

Furukawa:結局それは時間なくてできなかったんだけど、そういうストーリーがあったことをちゃんと残したくて。それで歌い出しも〈Just say goodbye〉になってます。

ーーそうだったんですね。具体的に原さんとの共作はいかがでしたか。

Furukawa:スプリット盤自体は俺がガシガシ主導しなきゃと思ってたんですけど、「MELLOW FELLOW」の曲作りに関してはまーちゃんがすごかったので、振り落とされないよう死ぬ気で食らいついてました。ソロで一緒に作った「ドナルドとウォルター」の時はほとんど否定しないで9割ぐらいまーちゃんに乗っかったけど、今回はある程度頑固なところも出しましたし。疲れてベースラインを変えようとしてるなってわかったら、「いやさっきの方がいい!」と言ったりとか。あと、せっかく集まってるのに楽器を全然持ってくれない時もあるので(笑)。まーちゃんが口頭で言ったやつを俺がスマホでメモって、家持って帰って打ち込んで、「こういうギターかな?」って入れて、まーちゃんに送って……みたいにしてできたのが「MELLOW FELLOW」の第1稿です。そしたら「お前すげえな。口で言ったやつをよくここまで」って(笑)。

木暮:(笑)。

Furukawa:もう必死でしたよ、必死。あと木暮は今回、俺の中でだいぶ株が上がった……って別に下がってたわけじゃないんだけど(笑)、すげえしっかりしてたんですよ。やっぱ1人ぐらいしっかりしてるヤツがいないと25年もたないんだなって、木暮と仕事してよくわかりました。ちゃんとレスが返ってくる唯一の人物だったので(笑)。締切までに逆算できる人だったし。

木暮:普通なんだけどね。

Furukawa:社長がいて、リーダーがいて、フロントマンがいて、コンポーザーの主がいるでしょ。4人がそれぞれ違う形で看板を背負ってるから、やっぱりすごいバンドだなって思いました。

DOPING PANDA / the band apart「MELLOW FELLOW」

木暮が閃いた「MELLOW FELLOW」歌詞のモチーフ

ーー両バンドの個性を1つに落とし込むに当たって、何か意識したことはありますか。

Furukawa:意識ってほどじゃないけど、昔「SEE YOU」を一緒に作った時、ドーパン3人で録ったデモをバンアパに送ったら、全く違う曲になって戻ってきたので(苦笑)、ちゃんとお互いの色が入るように“共作”したいなと。「MELLOW FELLOW」は俺とまーちゃんで作ってたんですけど、Hayato(Hayato Beat/Dr)がドラムを叩くのは決まっていたので。じゃあ歌詞は絶対、木暮に書いてもらおうと思って。

ーーDOPING PANDAらしいタイトなビートを軸とした演奏に、the band apartらしいグルーヴィなベースラインが絡んでくるのが新鮮でした。

Furukawa:そう、「MELLOW FELLOW」はドーパンサイドのプロダクトになってて、ベースだけまーちゃん。そのテレコで「SEE YOU」はバンアパのプロダクトなんだけど、ベースはタロティ(Taro Hojo/Ba)に弾いてもらってて。

木暮:「MELLOW FELLOW」はHayatoの音がエレドラ(電子ドラム)で、他の曲と明らかに違う、最近の打ち込みの音楽みたいな雰囲気になってるんだけど、そこがいいなと思いました。音楽的な狙いも少しはあるのかもしれないけど、Hayatoが徳島に住んでるから、それを逆手に取った遠隔レコーディングになっていて、生活がナチュラルに反映された結果なんだなって。“今のドーパン”って感じですごくいいし、そこに原のベースが入ってきてーー。

Furukawa:まーちゃんのベースも聴こえ方が変わるよね。いつもの速水さん(速水直樹/the band apartのエンジニア)が録ってる時と、ドーパンのプロダクトに乗った時って。

木暮:まあ厳密に言えば違うんだけど、やっぱり原は原だなっていうのを再確認したかな。あいつの場合、上手/下手を超えたプレイとかフレージングを持っていて、それは稀有なことなんだなって。

Furukawa:確かに音質変わってもまーちゃんだよね。それは本当にすごい。スティーヴ・ヴァイぐらいだよ、プロダクト違っても「こいつの演奏だ!」ってわかるのは。

ーー木暮さんは「MELLOW FELLOW」の歌詞をどのように書いていきましたか。

木暮:実は元ネタがあって。ドーパンのことを好きな友達がいるんだけど、「FaniconでFurukawaさんがすごくいいことを書いてた」って言うから、見せてもらったのよ。

Furukawa:ダメだよ、そんなつもりで書いてない超クローズドなやつなんだから(笑)。しかも、まーちゃんも1回見てるんだよね。勝手に見てんじゃねえって(笑)。

木暮:その文章が元ネタ。言ってなかったっけ?

Furukawa:初めて聞いた。そもそも俺、木暮に「英詞で書いてくれ」ってLINEしてますからね。「SEE YOU」で木暮が歌詞を書いてたから、時を経てまた木暮が英詞で書いた方がいいなと思ってて。で、送ってくれた歌詞を見たら「めちゃくちゃ日本詞じゃん」って(笑)。でもすげえいい歌詞だったから、これで行きましょうってことになりました。よかったです、無視してくれて(笑)。俺が元ネタって聞いたら恥ずかしくなってきたけど。ちょっと自画自賛みたいじゃん。

木暮:(笑)。今の俺らは40代中盤で、大人も大人な年齢だけど、そこまでの意識もないなあって俺は常々思っていて。そしたらYutakaも「いつの間にか大人になっちゃったけど、心はもっとキッズだよ」みたいなことを書いてたから、同じことを思ってるんだなって。それを噛み砕いて、俺らがやってきたこととか、ドーパンが解散してた時間があることとか、いろいろな繋がりも入れて書いた感じです。

Furukawa:2番のXTCみたいになるところ(〈The B D A P T〉から〈今だけ 聞いてくれよ〉まで)がまーちゃんの歌詞じゃん。そういう合わせ技ってバンアパでよくやるの?

木暮:うん、よくある。歌入れまでに原の歌詞が間に合わないから、(木暮に)「書いて」って言ってきて。それで書いたやつを見せたら、「ここにもうちょっとストレートな言い方を入れたい」って言われたり。

Furukawa:そうなんだ。違和感なく2人の共作になってたから、すごいなって。「夏休みはもう終わりかい」とか、「DEKU NO BOY」もそうなんだけど、最近のまーちゃんは命の灯火みたいな歌詞が多いんですよ。「MELLOW FELLOW」は木暮のアンニュイでスタイリッシュな歌詞に、いきなりまーちゃん節が入ってきて業火みたいな熱量になるから、そこがバンアパっぽい。バンアパの日本語詞すごくいいんですよね。でもメロディと歌詞が上がってきたのがレコーディング当日で、そんなギリギリなことしたことなかったから、よく荒井(岳史/Vo/Gt)はこれで歌ってるなと思った(笑)。

木暮:20年以上ずっとそれだからね。

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