2024.07.12 20:00

サバシスターの“始まり”を見た渋谷クアトロワンマン　ロングツアーで手にしたバンドの根幹を支えるもの

文＝石井恵梨子、写真＝齋藤タカヒロ

　ただ無邪気なバンドではないことは、常に切実さを湛えているなちの表情からも伝わってくる。必死、頑な、と書けば言葉が硬すぎるが、とにかくひたむき。おそらくは相当芯が強い。だからこそ印象的だったのは、運のいい天然ガールには絶対に書けない曲、後半の「ミュージック・プリズナー」で彼女が思いを爆発させていたシーンである。

　その直前にあったのが冒頭のMCだ。初めての実感を伴うツアーだったと語ったあと、ファイナル直前に風邪をひき、大事な練習を飛ばしたことをなちは明かしていく。もっと上手くできたはずのことが多々あったし、開始前の不安は相当だったらしい。ただ、同情を一切寄せ付けない表情でこう言えるところが格好よかった。「それも含めて今のサバシスターの実力。よく言えば今しか見れないサバシスター。そんな私たちを見せるために、今、ここにいる」。

　始動後すぐにシーンの台風の目となり、〈僕を褒める人が増える度／僕を殺す人が増える〉日々が続いてきた。それでもメジャーデビューにあたり〈やると決めたらやるしかない〉と腹を括った。そういう大事な経験を凝縮した「ミュージック・プリズナー」を歌いながら、なちは少し泣いていた。曲調がアッパーなので決してしんみりすることはないが、バンドや音楽に賭ける思いの強さが溢れ出すこの曲に、サバシスターの始まりを見た気がする。結成から2年と少しで渋谷クアトロワンマンというのはアマチュア集団にとって驚くべき快挙だが、これはゴールでは全然ない。それまでの緊張から解き放たれたように笑ったなちの笑顔が、ちょっと泣きたくなるほど眩しい未来を予感させた。

　なお、アンコールで初披露されたのが新曲「ハイエースナンバー」だったことも、今のサバシスターを祝福するストーリーのひとつ。夜中の高速道路から始まりライブハウスの景色に辿り着く楽曲は、このツアーで手にしたライブバンドの実感をしみじみと伝えてくれる。それはおそらく、10年、20年と変わらない、バンドの根幹を支えるものになっていくはずだ。

　もっと有名になって、あの時自分はクアトロにいたんだってみんなが自慢できるようにしたい。これも後半のMCでなちが語っていたことだが、きっと私もおおいに自慢すると思う。やっとバンドになったばかりの、まだ伸びしろしかなかった時期の、サバシスターの始まりをあの日見ていたんだよ、と。

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■セットリスト
『覚悟を決めろ！ツアー』
7月10日（水）渋谷 CLUB QUATTRO
1.覚悟を決めろ！
2.リバーサイドナイト
3.ジャージ
4.キラキラユー
5.生活
6.スケボー泥棒！
7.アイリー
8.よしよしマシーン
9.しげちゃん
10.マイベストラブ！
11.東京こえー
12.ヘイまま！プリーズコールミー
13.22
14.！
15.ミュージック・プリズナー
16.タイムセール逃してくれ
17.ナイスなガール