連載『lit!』第92回:SUPER BEAVER、ハンブレッダーズ、The Last Dinner Party……新時代担うロックバンド注目アルバム5選

The Snuts『Millennials』

 スコットランド出身の4人組ロックバンド The Snuts。ギターロック、特にUKロックが好きなリスナーにとって、この数年間ずっと目が離せない存在である若手バンドだ。彼らのルーツは、The LibertinesやArctic Monkeys。そうした偉大な先人たちからUKロックの真髄をまっすぐに継承し、2020年代におけるUKロックシーンの王道を闊歩する姿がとても眩しい。昨年の『SUMMER SONIC 2023』では待望の初来日を果たし、InhalerやNOVA TWINSらとともに、UKロックシーンの最前線における熱きリアルを堂々と示してくれた。まさに今、破竹の勢いで躍進し続ける彼らから届けられた今回の新作。まず、軽妙に躍動する鮮やかなギターサウンドが光るオープニングナンバー「Gloria」からして最高で、その後も次々と親しみやすさに満ちた爽快なギターロックナンバーが畳みかけられていく。なかには、ディスコポップに大きく接近した「Deep Diving」もあり、全編から聴く者を問答無用で踊らせようとするバンドの意図が伝わってくる。不穏でシリアスなテイストが強く打ち出されていた前作と比較すると、今作に至る変化の大きさが浮き彫りになる。ジャック・コクラン(Vo/Gt)は、今作について「今は、何かを分析するのに時間を掛けたい時代ではないと思います。初めて聴いたときに感じてもらいたいのです」と語っていて、そうした時代感覚があったからこそ、今まで以上に感覚的に楽しめるキャッチーなテイストに着地したのだと予想できる。その感覚がきっと間違っていないことは、これから数々のライブの場で証明されていくはずだ。

The Snuts - Circles (Official Video)

 数ある楽曲のなかでも筆者が特に心を掴まれたのが、ロックアンセムとしての輝かしい存在感を放つタイトル曲「Millionaires」。コーラス(サビ)のメロディラインは、ライブで観客の歌声が重なることを想定して紡がれたであろうもので、フロアから壮大なシンガロングが巻き起こる光景をはっきりとイメージすることができる。ラストの一曲「Circles」の終盤も同様で、「早く彼らのライブをスタジアムで観たい!」という気持ちが抑えきれなくなるし、彼らが『SUMMER SONIC』や『FUJI ROCK FESTIVAL』のメインステージを沸かす日が来るのはそう遠くはないと思う。

The Last Dinner Party『Prelude to Ecstasy』

 2021年にロンドンで結成された5人組ロックバンド。昨年4月に「Nothing Matters」をリリースして以降、イギリスのBBCが149人の音楽業界関係者からの投票をもとに作成した活躍が期待される新人リスト「Sound Of 2024」の第1位を獲得するなど、数々のアワードで脚光を浴び、瞬く間にして大きな注目と支持を集める存在となった。すぐにその存在感は海を越えて拡大し、数曲しか楽曲をリリースしていない段階にもかかわらず、アメリカツアーのチケットはソールドアウト。この日本においても、昨年からその名が少しずつ響き始めていて、先日『FUJI ROCK FESTIVAL’24』への出演が発表されたことでも注目度が高まったと思う。そして、(これまで各先行シングルを通して小出しにされてきた)彼女たちの表現の全容が初めて示されたデビューアルバム『Prelude To Ecstasy』は、事前に高まり切った期待を大きく超えていく素晴らしい作品だった。

The Last Dinner Party - Nothing Matters

 アルバムタイトルを冠した1曲目「Prelude To Ecstasy」は、文字通り前奏曲の役割を果たしており、まるで映画のサウンドトラックのような劇的な旋律がこの後に待つ壮大な物語への期待を否応なく高める。そして本編で待ち受けているのは、インディーロックを軸に、ハードロックやグラムロック、クラシックの要素を大胆に掛け合わせた超重量級のアートロックである。感覚としては、オペラや中世ヨーロッパを描いた映画を鑑賞している時の体験にも近い。華麗で、毒々しく、ダークな世界観をベースにしながら、ドラマチックで、スリリングで、予測不可能な展開が容赦なく続き、クライマックスでは代名詞的な一曲「Nothing Matters」が至高のエクスタシーへと誘う。最後は、やがて来たるであろう第2章の物語への期待をそそる「Mirror」で締め(特に、ラスト約50秒の高揚感に満ちたアウトロは鳥肌モノ)。ロックというジャンルが元来誇るダイナミズム、マキシマリズムを、2020年代のシーンにおいて最大出力で再現してみせた彼女たちの大胆な野心と的確な手腕に、全編を通して何度も深く驚かされてしまった。次に気になるのが、この圧巻の完成度を誇る音源作品を打ち立てた彼女たちが、いったいどのようなライブパフォーマンスを繰り広げるのか、ということだ。徹底的に世界観が作り込まれたMVやライブ映像を観れば、彼女たちの音楽は“聴く”だけでなく“観て”楽しむものであることは明らか。『FUJI ROCK FESTIVAL’24』への出演はもちろん、いつかワンマンライブで彼女たちの描く世界に深く没入できる日が来ることを楽しみに待ちたい。

※1:https://twitter.com/gyakutarou/status/1761364555303920006
※2:https://realsound.jp/2023/08/post-1403654.html

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