三浦祐太朗の歌声はなぜ特別なのか? ベストアルバム『歌い継がれてゆく歌のように』で再認識する深み
三浦祐太朗が、初のオールタイムベストアルバム『歌い継がれてゆく歌のように』をリリースした。
2008年にロックバンド“Peaky SALT”のボーカル&ギターとしてデビュー、その2年後にバンド活動を休止し、2011年からソロアーティストとしての活動をスタートさせた三浦。10数年におよぶソロ活動の集大成とも呼べる本作には、オリジナル曲11曲に加え、母親である山口百恵の楽曲カバー6曲を収録。アルバムタイトルになっている「歌い継がれてゆく歌のように」は、山口百恵のアルバム『百恵白書』(1977年)の楽曲だ。
松山千春の名曲「旅立ち」のカバー曲でソロデビューした三浦。2014年には1stフルアルバム『DAISY CHAIN』を発表し、ソロアーティストとしての個性を発揮しはじめた。今回のベストアルバムにも収められている「THE WALK <KI 335 ver.>」は、力強いギターリフ、骨太なバンドサウンドとともに〈あなたがいつも僕を照らしてくれるから迷わないよ〉という思いを伝えるミディアムチューン。三浦の音楽的ルーツ、そして日本語の響きを重視した作風が感じられる楽曲だ。
キャリアの転機はやはり、母・山口百恵の名曲カバーを歌い始めたことだろう。きっかけは「秋桜」「いい日旅立ち」などを地上波の音楽番組で披露したこと。視聴者から大きな反響があり、2017年には山口百恵の楽曲だけで構成されたアルバム『I'm HOME』をリリースするに至った。「さよならの向う側」「いい日旅立ち」などを収めた同作は、その年の『第59回 日本レコード大賞』の企画賞を受賞。昭和を代表するスター歌手だった母親の曲を歌うことに対し、当初は「母のファンの方に失礼にならないのか」という不安もあったというが、「自分の曲が息子の声で聴けるのは嬉しい」という母親の言葉によって、歌うことを決意としたという(※1)。
叙情性と郷愁を併せ持った昭和の名曲は、ノスタルジックな響きと豊かな表現力を備えた三浦のボーカルスタイルとしっかり合致し、シンガーとして高い評価を得た。その後、「ハタラクワタシへ」(『ユニクロ』Webムービー「ハタラクユニクロ編」CMソング)、「Home Sweet Home!」(TVアニメ『邪神ちゃんドロップキック』EDテーマ)といったオリジナル曲も話題に。昭和歌謡からアニソン、ギターロックまで幅広い音楽性もアーティストとしての彼の特徴だと思う。
これまでの軌跡を網羅したベストアルバム『歌い継がれてゆく歌のように』に収められた新録曲は4曲。山口百恵のカバーとしての新録は、「絶体絶命」(1978年)、そして「歌い継がれてゆく歌のように」だ。
「絶体絶命」は、二股をかけられていたことを知った“私”が男に対し、〈はっきりカタをつけてよ〉と迫る様子を描いたロックチューン。本作に収められたバージョンでは、生々しいバンドサウンドによって原曲の魅力を増幅させることに成功している。ライブ的なノリを感じさせながら、歌詞のストーリー性をリアルに伝えるボーカルも魅力的だ。
「歌い継がれてゆく歌のように」の原曲はシングル楽曲ではないものの、ファンのあいだで高く支持されている名曲だ。出会いと別れを繰り返す人生を俯瞰しながら、〈歌い継がれてゆく 歌のように/私の真心 今 あなたに〉というフレーズへと帰着するこの曲を、三浦は一つひとつの言葉を手渡すように歌い上げている。普遍性をたたえた楽曲に確かな説得力を与える歌声からは、シンガーとしてのさらなる深みを感じてもらえるはずだ。