カメレオン・ライム・ウーピーパイが駆け抜けた2023年 アルバムやワンマン、海外公演を経た現在地
3月の『SXSW 2023』出演に始まり、1stフルアルバム『Orange』のリリース、初のワンマンライブ、「たまごっち」シリーズのCMソングやNHK『みんなのうた』への書き下ろし、そして10月にはアジア太平洋地域初開催となった『SXSW Sydney 2023』でのパフォーマンスに3カ月連続配信リリース……文字通り怒涛の勢いで2023年を駆け抜けたカメレオン・ライム・ウーピーパイ(以下、CLWP)。この音楽シーンにおけるCLWPの存在感はどんどん強まり、それに伴ってそこに集まるオーディエンスやリスナーも広がり続けている。そんな激動にして大躍進の1年を、本人たちはどんなふうに受け止めていたのか。それが知りたくて、Chi-へのインタビューを行った。わかったのは、どんなに活躍しようと、自分たちの音楽が聴かれようと、彼女の中にはまだまだ熱い欲望の炎が燃え上がっているということだった。まだまだ足りない、とChi-は何度も繰り返した。それはつまり、2024年、そしてその先も、カメレオン・ライム・ウーピーパイは僕らを驚かせ続けてくれるということ。本当に楽しみだ。(小川智宏)
ライブを重ねるごとに楽しむ余裕が出てきた
――2023年、CLWPにはいろいろな出来事がありました。
Chi-:めちゃくちゃありましたね。初めてアルバムを出して、初めてワンマンライブをやって。初めてアメリカやオーストラリアでライブもやりましたし、やりたかったことをいろいろやった年になりました。
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――特に印象に残っていることというと何になりますか?
Chi-:やっぱりワンマンライブが印象に残っています。それまでは曲を聴いてもらえているのも再生数とかリスナーの方からのDMとか、画面上でしかわからなかったんですけど、ワンマンライブで初めて自分たちの曲を聴いてくれている人を見ることができて。中学生の女の子が「誕生日にプレゼントしてもらってお母さんと一緒に初めてライブに来ました」って言ってくれたりとか、本当にいろんな人が観に来てくださっていました。ああ、こういう人が聴いてくれているんだっていうのがわかってすごく新鮮でした。
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――海外でライブをやるという経験はいかがでしたか?
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Chi-:すごく楽しいのはもちろんなんですけど、海外のお客さんは反応が結構素直なんです。いいものにはノるし、そんなに気に入らなかったらノらない、みたいなのがすごいはっきりしていて、それがめちゃくちゃ新鮮でした。やることはいつもと変わらないんですけど、環境が違ってもいつも通り楽しむメンタルの強さというか(笑)、そこは鍛えられたし、自分たちも気が引き締まったなと思います。
――アメリカとオーストラリアでも違いますか?
Chi-:全然違いましたね。アメリカのほうがやっぱりはっきりしてたなって感じですね。オーストラリアはもう少し日本に近い感じがしました。アメリカのお客さんは初めての音でも一度受け入れたら自分のものにして楽しみまくる感じで。周りの人がどうとかじゃないというか。そういう楽しみ方って自分たちもできていなかったなと思って。こんなにオープンにしていいんだみたいな気づきがありました。
――オーストラリアでは先住民の楽器の音も取り入れたりしていましたね。
Chi-:あのアイデアは、せっかく行くんだったら何かしたいなと思って調べてやってみたんですけど、ちょうど当日、楽屋で現地でそのディジュリドゥという楽器を演奏しているアーティストと一緒になって。じつはレジェンドの方だったそうなんですけど、その方たちは結構上がってくれました。
――そういうのを柔軟にやるのもCLWPらしいし、それ以前にライブに対する姿勢とか、楽しませ方みたいなものは国境を越えるんだなと思いました。
Chi-:そうですね。どこでもできそうだなっていうのは思いました。そもそも音楽、歌詞を作る時も、意味も大事ですし思いも込めるんですけど、グルーヴが出るかとか聴いていてどうかというところを大事にしていて。私が洋楽を聴く時も別に英語がわからなくてもノれるので、日本語の歌詞でも海外の方が聴いてノれたらそれで勝ちじゃないですけど、ノせちゃえばいい、楽しければいいと思ってます。それがライブでも通じたのはよかったです。
――その「楽しませる」「ノらせる」っていう姿勢がこの1年で強まってきたというのもありますか?
Chi-:どうですかね。でもアメリカに行って、もちろん常に本気でやってるんですけど、そこでお客さんに呑まれちゃったらダメっていうか。むしろ自分がコントロールする、みたいなところは変わってきたような気がします。前はもっとがむしゃらな感じでライブをやってたんですけど、今は楽しむことにプラス、空気をコントロールすることを意識できるようになってきた。そこをちゃんとやらないと楽しいだけのライブになっちゃう気がして、ただ盛り上がっているだけにならないようにしようと思ってます。
――なるほど。もちろん自分が誰よりも楽しむし盛り上げるんだけど、同時にどこかちょっと冷静に見ている自分もいる、みたいな。
Chi-:そうかもしれないですね。だんだん楽しむ余裕が出てきたというか。ライブを積み重ねるごとに「ここは見せるところだな」とか「注目をグッと引くところだな」とかがちょっとずつ分かってきたなって最近になってようやく思えました。Whoopiesも「すごく変わった」って言ってくれますね。
――変に力まずにできるようになったっていうことですよね。そういう心持ちの変化が、歌詞とかにも表れてきている感じがしませんか?
Chi-:それがきっかけではないですけど、活動を始めた頃は自分たちの曲を聴いている人がまったくいない状態からのスタートだったので、すごく自分に向けて書いていて。そこからちょっとずつ聴いてくれる人が増えて、その人たちのこともちょっと思いながら書くようになったんです。だけど最近はまた内向きに戻ってきたというか、もっと自分に向けて書くようになってきていて。歌詞を書く意味みたいなものもどんどん変わってきてるなと思います。
アルバムを経て“何でもできる、何をやってもいいんだな”と思った
――10月から3カ月連続で配信リリースしてきた「Chair」「This is Love」「7days」を聴いていると、それはすごく感じます。もちろん自分のことを歌っているんだけど、同時によりメッセージになっている感じがするんですよね。
Chi-:そうですね。とくに「Chair」は最近すごく思っていることを書いているんです。それぞれがいい距離感で自分の気持ちや考え方を大切にできればなと思っていて。やっぱり活動していると、どんどんいろんな情報が入ってきますし、環境も変わってくるんですけど、より自分が好きなものとか、やりたいことをもっと突き詰めていきたいし、今までと同じことをやってはいるんですけど、もうちょっと自分の意思を強く持たないと、って。
――なぜそう思うようになったんですか?
Chi-:アルバムを作ったり、1stワンマンライブをやったりする中でいろいろ課題が出てきて。もっといろんな人に聴いてほしいな、もっとたくさんの人にライブに来てほしいな、じゃあどうしようか……って考えていくと、自分が好きでやっていることなのに、自分の苦手な事も入ってくるというか。でも楽しいだけっていうのもおもしろくないし、そこのバランスが難しいなって思うんです。
――もちろん期待には応えたいし、でも自分がやりたくないことをやりたいわけでもないし、という。
Chi-:最終的には本当に好きなことをやるのがいちばん大切だと思っているので、そこをちゃんと持っておかないとなと思って「Chair」を作りました。
――それはChi-さんの中で芽生えた思いではあると思うんですけど、それが同時に人に共感してもらう余地をもっている。そこが先ほど話していただいた変化なのかもしれないですね。言いたいことが決してニッチなものではなくなってきている。
Chi-:そうですね。どんどん視野が広がっているかもしれないですね。
――そういう意味では2023年は『Tamagotchi Uni』のTVCMソング「TAMAPOP」を作ったり、NHK『みんなのうた』に「オレンジマーチ」を書き下ろしたり、今までの表現のチャンネルとはまた違うところで世の中とチューニングしていくような作業もやってきたと思います。その経験はどうでしたか。
Chi-:でも自分たちの幅はあまり定めないようにしているというか、こだわらずにいろいろやろうと思っているので。それもアルバムを作ってみて思ったんです。今までの曲も曲調とかやっていることとかは結構バラバラだったりするんですけど、Whoopiesと3人で作っているっていうところだけは変わってなくて。改めてアルバムの曲を聴いてカメレオン・ライム・ウーピーパイっぽさをすごく感じたので、何でもできるというか、何をやってもいいんだなと思ったんですよね。なので『Tamagotchi Uni』の曲を作る時も『みんなのうた』の曲を作るときも自由に、ビビらずに何でもやっちゃえみたいな気持ちでできました。
――どちらの曲もかなりカメレオン・ライム・ウーピーパイですよね。この2曲を通じて世の中との接点が増えていったわけじゃないですか。リアクションとかも耳に入ってきたと思うんですけど、どうでしたか?
Chi-:「オレンジマーチ」はお子さんがいる方とかから「子どもがめっちゃ踊ってる」って言ってもらえて。今まで一切なかった反応だったので(笑)、それがめっちゃ嬉しくて。子どもが踊ってくれるのを想像しながら曲を作ることも多いので、本当に踊ってくれているというのが嬉しかったんですよね。「TAMAPOP」のほうも、それこそシドニーでライブをした時に韓国のアーティストの方が「『TAMAPOP』めっちゃ聴いてる」って言ってくれて。「たまごっち」は海外でも人気なので、曲も海外の方に聴いてもらえているっていうのが嬉しかったです。
――しかもたぶん、そういう反応を狙って作ったわけじゃないと思うんですよね。
Chi-:そうですね。いつも心がけてることが、ちゃんと結果やリアクションに繋がったっていう。
――先ほど「かなりカメレオン・ライム・ウーピーパイ」って言ったのもそこで、もともとポテンシャルがあったところに光が当たった感じがします。そこに対する手応えは?
Chi-:でも……なんか生意気に聞こえるかもしれないんですけど、私は自分たちの曲が本当に“イケてる”と思ってやってるんで、素直に言うと「もっとたくさんの方に聴いてほしいな」って(笑)。そのためにどうしたらいいんだろうなと思ってます。
――曲の作り方とかは変わっていないんですか?
Chi-:一切変わってないです。でも、どんどん雑というかアバウトな感じになってきていて。Whoopies1号の仮歌がどんどん雑になってきてる。
――Chi-さん、前々回インタビューしたときもそう言ってましたよ(笑)。
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Chi-:それがどんどん今加速してるんです。昨日も「こんなんでどうやって歌うの?」って言ったんですけど(笑)。今はもう、すごいことになっていってます。
――それはつまり、Chi-さんに委ねられている部分が大きくなっているということですよね。
Chi-:そうですね。それにどんどん慣れてきているというか。
――Chi-さんの負荷がどんどん増えているようにも思いますけど、でもそれがいい方に作用しているんでしょうね。
Chi-:ずっと何かしら考えちゃってて。たぶん癖なんですけど、しょうもない悩みを延々と考えたりするみたいな感じで、ずっとCLWPで何かできることがないかなと考えてます。