Saucy Dog せとゆいか歌唱曲が持つ大切な意味 EP『はしやすめ』は“3人で歩んできた物語”に
そして2021年、彼らにとって飛躍のきっかけとなった『レイジーサンデー』に収録されたのが「いつもの帰り道」だ。言うまでもなく『レイジーサンデー』はコロナ禍真っ只中に制作された作品であり、そのなかでも、せとが家族のことを想って書いた「いつもの帰り道」の歌詞には当時の状況と心境がとてもリアルに、切実に綴られている。〈大切なほど 会いづらいこの時代〉や〈その度に あなたの顔が浮かんで/まだ死ねない 死にたくないって思うの〉といったフレーズには当時を過ごした全ての人の心に刺さるものがあるだろう。そして、それほどの言葉と歌の力を持った曲だからこそ、ほとんどギターのストロークだけで伴奏するようなアレンジが効いてくる。「煙草とコーヒー」で描こうとしていた日常への思いや続いていく暮らしへの願いが、時代の情勢によって一気に切実さを帯び、この強い楽曲へと結実したのだとすれば、それこそ、せとゆいかというミュージシャンの進化だと言えるのかもしれない。
最後に収められたのは「ころもがえ」。このEPに収録された5曲の中で、この楽曲は最も“Saucy Dogっぽい”と思う。歌詞の語感も、よれよれのTシャツに自分を重ねる感じも、メロディのドラマティックさも。「いつもの帰り道」同様、この曲もバンドで作曲しているんだからそりゃそうだろうと思うかもしれないが、そういう話でもない。誰が曲を書き、誰が歌っているかとは関係なく、いつの間にか「Saucy Dog」というスタイルやムードができ上がって、それが「ころもがえ」と『サニーボトル』を生んだ気がするのだ。『サニーボトル』は、前作『レイジーサンデー』収録の「シンデレラボーイ」をきっかけにバンドを取り巻く状況が大きく変化するなかで作られた作品で、だからこそバンドとしての決意や信念が滲んでいる。「ころもがえ」も、初めは石原を中心に歩いていたバンドがいつしか綺麗な三角形を描くようになったーーつまり、Saucy DogがSaucy Dogになっていった物語を象徴しているようで感慨深いのだ。
たった5曲、しかも既発の曲を集めたEPだが、こうして振り返るとSaucy Dogという愛すべきバンドを語る上で欠かせないピースが詰まっている感じがする。それはもちろん、せとゆいかという人がSaucy Dogにとって“ドラマー以上”の大きな存在であることを改めて証明しているし、Saucy Dog自体がそれを許容するほどに大きく、タフになってきたという証拠である。ぜひこのEPで、その軌跡の一端に触れ直してほしいと思う。
■リリース情報
ボーナスEP『はしやすめ』
2023年12月8日(金)配信リリース
配信URL:https://Saucy-Dog.lnk.to/hashiyasume
<収録楽曲>
M1:「へっぽこまん」
M2:「煙草とコーヒー」
M3:「寝ぐせ」
M4:「いつもの帰り道」
M5:「ころもがえ」