Aimer、『大奥』に感じたシンパシー “大切なものを守り抜く”想いを歌った主題歌「白色蜉蝣」
Aimerが、NHKドラマ10『大奥Season2』主題歌を表題に据えたシングル『白色蜉蝣』をリリースした。ドラマから受けたインスピレーションやカップリング曲含む今作での挑戦はもちろん、ファンクラブツアー『Aimer Fan Club Tour "Chambre d’hôte"』への手応えなどをインタビュー。10周年イヤーを終え、“大事な人たちと自分らしく、自分のペースで取り組んでいる”という2023年の活動について詳しく話を聞いた。(編集部)
サウンド面でも『大奥』を象徴できたら
──現在、5年ぶりとなるファンクラブツアー『Aimer Fan Club Tour "Chambre dʼhôte"』を開催中(※取材は11月中旬)ですが、やはり通常のツアーとは心持ちが違うものですか?
Aimer:違いますね。ファンクラブの皆さんが来てくださるということで、選曲もちょっとレアな曲、マニアックなものにしたり。あとは声出しも可能になったので、みんなでコミュニケーションを取りながらできるというのも違いますし。リラックスしながらライブをしています。
──実際にファンクラブツアーを回ってみて、どのようなことを感じましたか?
Aimer:5年前の初めてのファンクラブツアーだったら、ここまで自分の心の扉を開けられなかったなと思います。デビューして10年以上経って、音楽的にもいろいろなトライをして、自分の中にもいろいろな局面があった。その時間を一緒に過ごしてくれた人たちとだから自然に自分を出せるようになってきたのかなと思います。ファンクラブツアーは自分にとってご褒美みたいなツアーだと思っているんですが、それはみんながAimerというアーティストが持つ世界観を理解してくれているという前提があるからこそ、ちょっと羽目を外しても受け止めてくれる安心感があるからで、その信頼関係が、以前よりも深くなっているのを感じます。こうやって、自分にとってのご褒美みたいな時間が持てるのは本当にありがたいですし、この先も頑張っていきたいなと思えるようなモチベーションになっています。
──ファンの方との信頼関係が築けているということは、どういうところで感じるのでしょうか?
Aimer:私がぽろっと人間味を出したときに、それを歓迎してくれるような雰囲気が、ファンクラブツアーにはあって。そういう場所があるというのは、活動を続けていくことにおいて、すごく救われるし、助けられていますね。
──素敵な関係性ですね。ではニューシングル『白色蜉蝣』について聞かせてください。表題曲はNHKドラマ10『大奥Season2』の主題歌ですが、『大奥』のどのような部分からインスピレーションを受けて歌詞を書いていったのでしょうか?
Aimer:『大奥』の脚本とよしながふみさんの原作を読ませていただいて、もちろん時代背景は今と全然違いますけど、一つの価値観がひっくり返させられる激動の時代という意味では、今の世の中と遠からずなところもあるのかなというのを最初に感じました。そして、そんな時代だったら、人のことなんて気にしていられないというか、自分のことでいっぱいいっぱいになるはずなのに、それでも誰かを大事に思ったり、その中で絆が生まれて、そんなつもりはなかったのに「気づいたらこの人のことを守りたいと思っている」という感情が芽生えているのが印象的で。そんな気持ちがなかったらもっと効率よく生きられるのに、それにもかかわらず誰かを大切に思ってしまったり、大切なものを守りたいと思ってしまう。その気持ち自体がどの時代にもあるんだなと思って「大切なものを守り抜く」というところを曲にしたいと思いました。
──そこはAimerさんも共感できる部分だったり?
Aimer:この作品を読んでその部分を印象的に思うということは、自分にもそういう気持ちがあるんだろうなと思います。小さなことでも大きなものでも、自分のポリシーや信念みたいなものはある。「これがなかったらもっと楽なのにな」と思うけれど、どうしても大事なものを抱えてしまう。そこにはシンパシーを感じました。
──ありがとうございます。シングルの話に戻りまして。「白色蜉蝣」は優しいバラードですが、このサウンドについてはいかがですか?
Aimer:メロディもそうですし、アレンジにおいても、今までだったらもうちょっと音を足していたかなと思うくらい割とシンプルにして。今年7月に出したアルバム『Open α Door』で今までやっていなかったことをいろいろ試してみたんですけど、それを経た一歩目としてこういう曲を作れてうれしいなと思います。
──シンプルにしようと思ったのには、何か理由が?
Aimer:一つには、ひさしぶりにこういうバラードを作ったので、よりボーカルを引き立たせたかったというのがあります。あと、プロデューサーの玉井健二さん(agehasprings)と話していたんですが、ギターの壁と言って、左右にコードを支えるギターを入れる、バラードにおけるスタンダードの手法の一つがあるのですが、それをやめてシンプルにした。『大奥』には大奥の中と外を隔てる壁がありますけど、中の人と外の人で思いは一緒。作品で描かれているところでいうと、日本を守りたいという気持ちを、中の人も外の人も抱いてそれぞれが戦っているわけですよね。そういう意味で、心の中では壁はなかったんじゃないかなって。だから主題歌でもギターの壁をなくすことで、サウンド面でも『大奥』を象徴できたらいいねという話をしていました。
──そんな細かいところまで作品とリンクしていたんですね。
Aimer:はい。このアレンジは私もすごく気に入っています。ストリングスとドラム、ベースが立っていてライブで歌っていても気持ちいいんです。聴いてくださる方に何か新しい感じに聴こえていたらいいなと思います。
──歌声には、必要以上の力みがなく優しさを感じました。ボーカル面で意識したことはありますか?
Aimer:今回テーマとして考えていたのは、切々と、想いを絶やさないように歌いたいということ。特にサビはどう歌うかで表現を変えられるようなメロディラインで。そこを流れるように聴いてもらえたらと思って、変に頑張っている感じがなく、スムーズに聴こえるようにというのは意識しながら歌いました。
──それも楽曲の持つイメージから?
Aimer:はい。「大切なものを守りたい」というテーマで作り始めたのですが、歌詞ではあえて「守りたい」とか「負けない」という直接的な言葉を使わずに、願っても避けられないものを並べることで、「それでも」と思う気持ちや強さを感じてほしいなと思ったんです。だからその情景描写を、熱量はあるけれど、少し俯瞰して表現できたほうがより伝わるんじゃないかなと思いながら歌いました。
──ストーリーを見せるような?
Aimer:そうですね。語り手のようなイメージです。すごく言葉数も多いですし、それらがスムーズに入ってくるような温度感でありたいなというのは考えていました。
──タイトルの「白色蜉蝣」というのはどこから出てきた言葉なのでしょうか?
Aimer:「大切なものを守りたい」という気持ちが生まれたとき、大切だなって思えば思うほど、その対象が弱いものに見えてくることってあるじゃないですか。もともとは強く見えていた人でも「この人を守りたい」と思ったときには、すごくか弱くて儚いものに思えてくる。『大奥』の物語を読んでいてもそういうことがあるなと思って。その儚い命の象徴としてまずは「蜉蝣」がパッと浮かびました。さらに、大切なものを守りたいと感じている人の根っこの部分には、無垢で白いもの、真っ白な決意があるんじゃないかなと思ったところから、「白色蜉蝣」という言葉にたどり着きました。実際に「白色蜉蝣」という昆虫がいるのですが、その特徴として「蜉蝣の中でもメスが弱いグループ」と書いてあって。生物学的に女性は男性よりも体は強くないけれど、『大奥』の物語の中でも女性が奮闘している描写がたくさんあって、作品とも繋がると思って、このタイトルをつけました。自分としてもしっくりくるタイトルがつけられたなと思いました。