水瀬いのり、目まぐるしく変化するアートな世界観を構築 4年ぶりの声出し解禁ツアー最終公演

 水瀬いのりのライブツアー『Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART』が10月29日、神奈川・ぴあアリーナMMにてツアーファイナルを迎えた。9月13日リリースの最新曲「スクラップアート」をツアータイトルに掲げ、約1カ月半をかけて全国5カ所を巡ってきた本ツアー。その締めくくりとなった神奈川2DAYS公演のうち、本稿では2日目にあたるファイナル公演の模様をお伝えする。

 定刻通りに場内の明かりが落とされ、開演を待ち構えていたオーディエンスたちが歓声を上げながら一斉にペンライトを水色に発光させると、不穏な響きのブレイクビーツが場内に響きわたり、ステージ両脇に設けられたスクリーンに退廃的なムードのオープニングムービーが映し出された。するとその世界観をそのまま引き継ぐように、ステージ背面いっぱいに敷き詰められたLEDディスプレイに高層ビル群の映像が浮かび上がり、気だるさをはらんだ無機質なクリスタルボイスが〈どうしてここにいるの〉と歌い始める。黒を基調としたゴシックなロングスカートドレスに身を包んだ水瀬は、本公演のタイトル曲である「スクラップアート」でライブの幕を切って落とした。

 続けざまに「identity」「brave climber」と、シリアスで性急なナンバーを畳みかける水瀬。みるみるうちにぴあアリーナMMの広大な空間を切迫した空気一色に染め上げていく。ステージ背面には楽曲ごとのイメージに合わせた美麗な映像が次々に投影されていき、曲目が変わるたびに舞台装置が丸ごと入れ替わったかのような錯覚を観衆に覚えさせる。各楽曲をひとつのアート作品に見立て、さまざまな世界観を次々に提示していくというツアータイトルにちなんだコンセプトに基づく演出だ。

 冒頭3曲を歌い終えた水瀬は、開口一番「すでに万感の思いというか、もう悔いがないくらいの気持ち(笑)」と笑わせつつも、「ここまでのツアーで、自分にとっての実りをたくさん感じています。今日はその集大成として、皆さんと一緒にこの時間を楽しみたい」と意気込みを表明。“廃材芸術”を意味するツアータイトルについては、「諦めたり挫折して一度立ち止まってしまっても、そこからまた再生したり、それを経験したから輝けることもあるんじゃないかと思って、このツアータイトルを背負って走ろうと決めました」とそこに込めた思いをあらためて語り、「もう秋も終わっちゃいますから、“芸術の秋、滑り込み!”って感じで楽しんでいってくださいね」と呼びかけた。

 水瀬の単独ライブとしては約4年ぶりの声出し解禁ツアーとなったことを受けて客席とのコール&レスポンスを楽しんだのち、瞬時にブルー系の軽やかなデニム衣装へと早替え。そして「僕らだけの鼓動」を皮切りに、ライブは一転して軽快なポップソングを連発するゾーンに突入した。バンド紹介コーナーを挟み、水瀬考案の公式キャラクター・くらりちゃんのイメージソング「くらりのうた」では白と水色のふんわりミニスカート姿でパフォーマンス。舞台美術のみならず、多彩に変化し続ける衣装も世界観の構築に寄与していたことは言うまでもない。

 ライブ中盤には、水瀬がアート制作に挑戦する撮り下ろしムービーがインタールード的に上映され、それに続いて紫ベースのシックなタイトスカート衣装に身を包んだ水瀬が再登場。ステージ前面に突如として掛けられた紗幕に投影されるオカルティックなテイストの映像とともに「アイオライト」を熱唱した。これで空気を一変させると、さらに「TRUST IN ETERNITY」などのアグレッシブな楽曲群を畳みかけてアリーナの熱気を爆発的に上昇させていく。合間のMCではアリーナ席と2階席の間に“1階席”が存在しない会場構造がうまく飲み込めずにコール&レスポンスを何度もやり直す「かわいいところ出ちゃった」くだりなども挟みつつ、「Million Futures」ではアウトロで植田浩二(Gt)と伊平友樹(Gt)による壮絶な長尺ギターバトルも繰り広げられ、オーディエンスの熱狂をさらに加速させていった。

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